2016/08/10

中国人観光客に東北の旅を

2016年8月10日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160810/ddm/013/100/020000c 

東日本大震災から5年半となる今秋、中国からの訪日観光客が東北6県を訪れる旅行プランを日中の大学生が立案した。震災や原発事故のイメージにとらわれず、自然や人情が豊かな東北を楽しんでもらおうとする企画だ。

●日中の学生が考案
ツアーを実施するのは、北京にあるJTBの現地法人「交通公社新紀元国際旅行社」(JTB新紀元)。JTBグループの東北復興支援の一環で、書類と面接で選ばれた北京大、中国人民大など6大学の中国人大学生と日本人留学生が2人1組で参加した。学生がコースを考案し、5月中旬に青森、岩手、秋田、宮城、山形、福島の6県に分かれて現地を訪問。6月にプランを発表した。JTB新紀元が秋以降、中国の店舗で旅行商品として販売する。

「爆買い」で知られる中国人観光客に人気が高い旅行先は、東京、関西、北海道、沖縄、九州。JTB新紀元の石毛二郎社長は「中国の旅行会社が東北を旅行コースに組み込んでいる例が多くない。東北6県の個別の魅力が伝わっていない」と分析する。

●原発以外の福島も
ツアー計画のため福島県を訪問した岡部航大さん(左)と陳思起さん
=福島県会津若松市で5月17日、JTB広報室提供

昨年9月から北京の清華大に10カ月間留学していた鹿児島大3年、岡部航大(こうた)さん(21)は、東日本大震災が起きた時、15歳だった。「ニュースでしか被災地を知らなかった。実際に東北に行って自分の目で確かめてみたかった」と企画に応募した理由を話す。

岡部さんは旅行先として、福島県の会津地方を選んだ。中国では、東京電力福島第1原発事故に対する関心が高い。太平洋に面した福島県の浜通り地方では、水素爆発した原子炉の処理作業が続き、放射性廃棄物や汚染水の処分問題も難航している。今も大勢の住民が避難したまま故郷に戻れない状態だが、岡部さんは「原発以外の福島県も知ってほしい」と考えた。対外経済貿易大(北京)1年の中国人男子学生と2人で会津地方の大内宿、鶴ケ城、五色沼などを回り、元気に明るく暮らす福島県の人に出会えたという。「見る、食べる、買う、体験できる、優しい人に会える」をキーワードにプランを立てた。「中国の人たちに会津地方で楽しんでもらうことが、福島県の元気、復興につながってほしい」と願いを込めたという。

●自然に親しむ

学生たちの旅行プランのコンペで1位となったのは、中国人学生2人が考案した秋田県のコース。森林セラピーを取り入れ、自然に親しめるよう配慮した旅程だ。

中国政府は輸入品にかける関税を強化する方向で制度を整備しており、中国経済が減速傾向にあることも影響し、訪日客の消費額は減少している。石毛社長は「学生が考案したコースは6組とも、人とのふれあいが取り入れられていた。地域の良さが人を通じて分かる。中国の人たちに東北を訪れてもらい、五感を使って体験してほしい」と話している。【西田真季子】

被災地で学ぶツアーも


東北各地では、観光客に震災や原発事故の実態を伝える「被災地ツアー」も実施されている。
原発事故による避難指示が続く浜通りで、津波で被災したまま放置された家屋
=福島県浪江町で6月23日

エイチ・アイ・エスは「福島の人々とつながって学んで応援しよう」と、農作業の手伝いを通して交流し、原発事故災害の現在を学ぶスタディーツアーを催行している。今年で4年目。10月1日発のツアーでは、「福島の今を知り、私たちの未来を考える2日間<10月>実りの稲刈り」と題し、収穫体験のほか、全村避難が続く飯舘村も放射能測定器(ガイガーカウンター)持参で視察する。

福島県相馬市のNPO法人「野馬土」は、福島第1原発20キロ圏内へのツアーを随時受け入れている。避難指示区域内の浪江町では、地震と津波の痕跡がそのまま残っている様子を視察。住民全員が避難したことで「無人の街」となり、時が止まった状態となった商店街も目の当たりにしてきた。

岩手県宮古市の宮古観光文化交流協会の体験ツアー「学ぶ防災」では、震災遺構の旧「たろう観光ホテル」を見学する。防潮堤の上で、津波が押し寄せた海や住民が逃げた山側をガイドが指さし、震災の教訓を語っている。田老地区は、「万里の長城」とも呼ばれた国内最大級の防潮堤を越える津波に襲われた。ガイドを務める地元住民は「防潮堤を過信せず、津波が来ると分かったら逃げることが大切です」と力を込める。

しかし、こうしたツアーに参加する外国人は多くない。5月に仙台市で開かれた主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、仙台市が「東北の復興状況を伝えることで海外からの観光客を呼び込みたい」として被災地ツアーを計画したが、海外の報道関係者約100人のうち、参加したのは1人だけだった。

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