http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20160824-00061466/
9月14日に開かれる福島県の県民健康調査検討委員会では、甲状腺検査の対象者の縮小を視野に入れて議論するのではないかと報じられている。
因果関係の否定は検査データの蓄積によってもできるが、検査の否定は、因果関係を闇に葬り去り、健康管理を難しくする。
「全国がん罹患モニタリング集計」より2008~12年の傾向を筆者作成 |
甲状腺がんの国際傾向と日本の傾向
2年前、2014年2月に開かれた国際会議「放射線と甲状腺がんに関する国際ワークショップ」(主催:環境省・福島県立医科大学・経済協力開発機構/原子力機関)では、甲状腺がんについては、以下のことを容易に確認することができた。甲状腺がんは、
1)子どもには少なく、年齢とともに増加する。
2)男性よりも女性が多い。
3)年々、増加傾向にある。
「国立がん研究センターがん対策情報センター」の「がん情報サービス」の部位別の罹患率データで、日本での傾向を確認することができる。
1)子どもには少なく、年齢とともに増加するか?
1975年から2012年まで0~14歳では人口10万人に対して0~0.25人いるかいないかである。
0~14歳の人口10万人に対する甲状腺がん罹患率の推移(1975~2012年) |
2)男性よりも女性が多いか?
15~39歳、40歳以上では特に男性(青)よりも女性(茶)が多いことが顕著である。
3)年々、全体的に増加しているか?
15~39歳では1970年代までは全体で年に2名程度だったのが、2000年代以降は10名近くに増えた。
40歳以上では全体で7~8名程度だったのが、2000年以降30名に近づいている。
15~39歳の人口10万人に対する甲状腺がん罹患率の推移(1975~2012年) |
40歳以上の人口10万人に対する甲状腺がん罹患率の推移(1975~2012年) |
世界的な傾向と日本の傾向は一致していると言える。
福島県で増加傾向
疫学分析で「多発」しているかどうかを見極めるときのコツの一つは、感受性の高い集団で見ることだと言われている。福島で甲状腺がんが増加しているかどうかをみるためには、女性の成人の傾向を見ればある程度の傾向を見ることが可能なはずである。
そこで、国立がん研究センターが公表している「全国がん罹患モニタリング集計」の2008年~2012年の5年間の全国と福島県、栃木県、そして、福島第一原発からは最も距離的に遠い沖縄県の「女性」の傾向を見ることにした。
子どもの甲状腺ガンは極めて少ないことが、上記のがん情報サービスのデータで自明であるため、「女性」の傾向を見れば、ほぼ、成人女性の傾向だと考えられる。
「全国がん罹患モニタリング集計」より筆者作成 |
すると、福島県は、全国と比べても明らかに増加傾向がある。既報した甲状腺がんを全摘した男性の暮らす栃木県は(県全体の傾向としては)沖縄県と同じような傾向だ。ただし、同じ栃木県でも福島県に近いところ、ホットスポット、ホットスポットが明らかではないところなど、詳細はこのデータでは分からない。
試しに、環境省が3県調査を行った青森、山梨、長崎の傾向と比較してみると、山梨(紫)と長崎(水色)は全国平均よりも高く、かつ特異な増減をしている。急増を示しているのは福島県だけだ。ただし、年齢別の内訳はこのデータでは示せない。
「全国がん罹患モニタリング集計」より筆者作成 |
さらに、長崎県の罹患率が気になったため、広島のデータをグラフに載せてみた。すると、広島は突出して高い。それは何故なのか、長崎に続いて減少を始めたのは何故なのか、何を意味するのか。私たちには考える責務があるのではないだろうか。
全国がん罹患モニタリング集計」より筆者作成 |
事故後6年目の今、行うべきことの一つは、福島県および近隣県の地域毎の詳細な分析を行うことだ。
それがやがて、東京電力福島第一原発事故のみならず、原爆投下後、チェルノブイリ事故後の全国的かつ世界的な傾向を鮮明にする可能性があるのではないか。
これまでに、福島県の県民健康調査検討委員会(座長:星北斗・福島県医師会 副会長)は、そうした分析を行ってきていない。国際的な傾向も、全国的な傾向も、福島県内の傾向も、把握も分析も議論もこれからではないか。
因果関係の否定は検査データの蓄積によってもできるが、検査の否定や縮小は、因果関係の有無の証明を闇に葬り、被害を受けた人々の健康管理を難しくする。
ジャーナリスト。1993~1994年にラテン諸国放浪中に日本社会の脆弱さに目を向け、帰国後に奮起。衆議院議員の政策担当秘書等を経て、東京工業大学大学院総合理工学研究科博士課程修了。博士(工学)。著書に「四大公害病-水俣病、新潟水俣病、イタイイタイ病、四日市公害」(中公新書、2013年)、「水資源開発促進法 立法と公共事業」(築地書館、2012年)など。
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