2016年8月17日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160817/ddl/k40/040/407000c
2011年3月の福島第1原発事故から間もなく5年半。震災後に福島県南相馬市で若い母親や子供らを支援してきた「ベテランママの会」代表の番場さち子さん(55)は「忘れずにいてくれるのが支援になる」と話す。福島の現状を学ぼうと、番場さんや東京電力関係者を招いて福岡市で7月に開かれたセミナー「はじめての福島学in 福岡」をリポートする。【川上珠実】
■現実とギャップ
セミナーは市民でつくる実行委が先月27日に福岡市のアクロス福岡で開き、原発事故後に九州に避難した人々や復興支援に携わってきたボランティアら約60人が参加した。
「震災前に福島県で暮らしていて、現在は県外で避難している人は何%?」
福島県いわき市出身で、社会学者の開沼(かいぬま)博・福島大客員研究員が問いかけた。会場からは20、30%との回答が多かったが、正解は2・1%。「4万人ほどが避難しているという数字は大きいが、多くの人は福島で暮らし続けている。イメージと現実は10倍のギャップがあり、実情が知られていない」と続けた。
「福島といえば放射能で汚染され、みんな避難しているという偏ったイメージが持たれている。一番の問題は福島問題がタブーになり、語りにくくなっていること」と開沼客員研究員は指摘し「まずは偏見を解体することが大切」と話した。
賠償金の支払いなどの地元対応を担うために13年に設立された東京電力ホールディングス福島復興本社の石崎芳行代表も登壇した。かつて福島第2原発所長を務め、福島に常駐しながら事故への謝罪を繰り返してきた石崎代表は「原発事故で家族や地域のコミュニティーを壊した」と、この日も神妙な面持ちで頭を下げた。作業員のための給食センターで地元住民を雇用するなどの取り組みを紹介し、「廃炉には30年から40年かかる。長い時間はかかるが、しっかりと責任を果たしていくことを約束したい」と話した。
■事実を淡々と
会場からは「遠くからの復興支援で助かることはありますか?」などの質問があり、番場さんは「5年以上たって風化している。足を運んで自分の目で見て身近な人に語りつないでほしい」と訴えた。持参した放射線量計で会場を測定し、福島第1原発から23キロにある南相馬市の馬場さんの事務所の毎時0・12マイクロシーベルトを上回る毎時0・14マイクロシーベルトを観測したという。「福島のお嬢さんが結婚できないなどの風評被害をなくしたい。事実は皆さんの捉え方次第だが、現実を淡々と伝えていきたい」と話した。
来場者の一人で、原発事故後に関東や東北から宮崎に避難した母親らのグループ「うみがめのたまご」代表の古田ひろみさん(48)は「避難者の中には原発事故の恐怖から東電や政府の言うことを何も信じられない人も多い。正しい情報を得るためにも、互いが歩み寄って信頼関係を作る必要を感じた」と話した。
★取材してひとこと
原発事故直後、幼い我が子への放射能の影響を心配して関東から九州に自主避難してきた若い母親らを取材した。ショックと恐怖に駆られて客観的なデータを聞き入れられる状況ではなかったと思う。あれから間もなく5年半。事故の影響を冷静に見つめ直す必要性を改めて実感した。
■原発の再稼働
政府は原発を「重要なベースロード電源」と位置づけ、原子力規制委員会の新規制基準をクリアした原発を再稼働する方針を打ち出している。全国の原発43基のうち、九州電力川内原発1、2号機(鹿児島県)が昨年再稼働し、続いて四国電力伊方原発3号機(愛媛県)が12日に再稼働した。一方、関西電力高浜原発3、4号機(福井県)は再稼働直後の今年3月、大津地裁の運転差し止め仮処分決定で稼働停止となった。
「福島に足を運んで自分の目で見てほしい」と話す番場さん |
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