http://mainichi.jp/articles/20160820/ddl/k44/040/257000c
「福島第1原発事故の影響で、大分が誇る干しシイタケが値崩れした」と聞くと、違和感はないだろうか。福島原発と県の距離は約1000キロ。放射線量が上がったわけでもない。だが竹田市の栽培農家、加藤美恵子さん(71)は、事故から2年後の2013年、干しシイタケを市場に卸してみて、がくぜんとした。
11年4月、福島産シイタケに出荷制限がかかった。秋には遠く離れた静岡産の干しシイタケ、千葉産シイタケからも暫定規制値を超える放射性セシウムが検出された。
この頃、関東の学校で大分産と他県産を混ぜたとみられる干しシイタケを使った給食から、相次いでセシウムを検出。大分産も名指しされ、県椎茸(しいたけ)農協は「測定値に異常はない」と反論したが、買い控えは止まらなかった。県産は10年の1キロ約4000円から、13年に約2400円まで暴落。昨年やっと回復したが、県は「価格の下落で生産量が落ちたせいかもしれない」と明かす。
当時、やむなく自主販売でしのいだ加藤さんは「風評被害のこわさを知った」。伊方原発の再稼働にも否定的だ。
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事実と異なる色めがねで見られてしまう風評被害を、大分はつい最近も経験している。4月の熊本地震は、震度6弱が襲った由布、別府両市だけでなく、県全体の観光に大きな打撃を与えた。
由布市の宿泊施設にほとんど建物被害はなかったが、「また地震が来るかも」「街は壊れたんじゃないの?」と、客足が遠のいた。「伊方原発で事故があれば、被災しなくても『危険だ』と思われかねない。できれば再稼働はやめてほしい」と関係者は困惑する。
一方、11年3月末の放射線量が福島県内で2番目に低かった会津若松市は、福島第1原発から約90〜100キロ離れている。伊方から別府、由布両市よりも遠い。しかし、会津若松への11年の観光客は前年比15・4%減少。修学旅行で市内を訪れた学校は、3年後の14年になっても、事故前のほぼ半分の480校どまりだった。
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さらに原発事故の風評被害は、農水産品にも及ぶ。福島の事故直後、近隣の県で放射線量の微量の上昇が「危なそう」という風評を招いた。「少しでも危ない物は、子供に食べさせられない」という母親の声が報道され、東京都内のスーパーでは東北産の野菜が売れ残った。
各県は測定装置を導入して必死に「安全です」とPRしたが、国の基準をクリアした青森のリンゴ、山形のサクランボ、モモなど、名産品も風評にさらされた。
被害は今なお続く。宮城県では今年6月、養殖したホヤ約1万トンの廃棄処分が始まった。主な輸出先の韓国が、原発事故を理由に禁輸をといていないためだ。大分県漁協は、伊方原発で事故があった場合、「補償は国や県に動いてもらうしかない」と歯切れが悪い。【田畠広景】
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