2016/10/15

テロ犠牲の監督、遺作はフクシマ 妻「命がけの映画」

2016年10月15日 朝日新聞
http://digital.asahi.com/articles/ASJB43414JB4PTFC007.html?rm=737 

ベルギーで3月に起きた連続テロ事件の犠牲になった映画監督、ジル・ローランさん(当時46)のドキュメンタリー「残されし大地」が16日、京都国際映画祭で上映される。東京電力福島第一原発の事故後の人々と街に思いを寄せ、撮った。妻の鵜戸(うど)玲子さん(46)は「夫が命をかけて作った映画を見てほしい」と語る。

ローランさんはもともと、映画の録音や音の編集をするサウンドエンジニアだ。小津安二郎や河瀬直美さんらの作品が好きだったという。一方で環境問題にも関心があった。

2010年に結婚し、娘2人を授かった。一家はベルギーで暮らしていたが、13年に東京へ。ローランさんは原発事故後の福島県の人々を気にかけ、現地に通い始めた。「夫は最初、福島の人々の話や街の音などを記録した音声ドキュメンタリーにするつもりだった。周りから映画化を勧められ、初めて監督に挑戦する決意をした」

母国の資金援助を得て、昨年の夏から秋にかけて撮影した。全町避難が続く富岡町で飼い主のいなくなった動物を世話する男性や、南相馬市の避難指示解除準備区域(当時)に一時帰宅する夫婦を追った。鵜戸さんは「夫は、事故後も美しい自然が残る風景に自らの故郷を重ね、慈しんでいた」と語る。取材を受けた南相馬市の佐藤とし子さん(64)は「真面目で人なつっこくて、福島のありのままを撮ろうとしていた」と語る。

撮りためた映像を編集するため、ローランさんは昨年末、単身ベルギーに帰国。3月22日朝、ブリュッセルの姉宅からスタジオに向かう地下鉄の駅でテロに遭った。鵜戸さんはメールや電話で連絡を取ろうとしたが、だめだった。亡くなったのを知ったのは事件の5日後。「自爆した犯人から数メートルの距離にいたそうです」。即死だった。

2人の娘と家族の時間を楽しむジル・ローランさんと鵜戸玲子さん=鵜戸さん提供 

遺志を継いだ友人が映画を完成させ、6月にブリュッセルで上映会が開かれた。復興に向かう人々の暮らしに鳥や虫の鳴き声、風に木々がそよぐ音が重ねられ、命の息づかいを感じさせる作品になっていた。「夫の感性が詰まっていて、まるで一緒に現地にいる気持ちになれた」。6歳と4歳の娘も静かに見入っていたという。

鵜戸さんは、原発事故で突然日常を奪われた人々と、テロでローランさんを失った自分たち家族を重ねる。「原発事故後に人々が故郷を離れても、残された土地では生命の営みは続いている。私たちも残された場所で頑張って生きていきたい」。そんな思いを込め、映画の邦題を「残されし大地」とした。

上映は午後4時5分から京都市東山区の「よしもと祇園花月」で。鵜戸さんの話もある。ローランさんの一周忌に向け、日本での劇場公開も目指している。(伊藤恵里奈)




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