2016/10/31

【社説】原発避難者住宅 支援打ち切る時でない

2016年10月31日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016103102000152.html

原発事故の自主避難者向けに福島県が行っている住宅の無償提供が五カ月後に打ち切られる。住まいという生活基盤を一方的に奪うのか。国は原発事故を招いた責任を自覚し率先して支援すべきだ。

原発被害者と支援者でつくる「原発事故被害者の救済を求める全国運動」は、来春廃止が迫る避難先での住宅無償提供の継続を求め十九万人の署名を国会に出した。

住宅の無償提供は、福島県が県内外に避難した住民を対象に、国の避難指示の有無にかかわらず、仮設住宅や民間住宅を借りて行う。災害救助法を適用し一年ずつ延長してきた。終了を決めたのは放射性物質の除染が進み、住民帰還を促すためだという。

だが、支援の廃止を一方的に通告された避難者は納得できない。除染が進んだといっても放射線量は下がりきっていない。故郷の家もそのままでは住めない。自主避難者は政府が決めた「避難指示区域」の外から避難しており、避難指示を受けた住民が受けている月十万円の精神的賠償もない。故郷に戻るにしても、避難先の町に住み続けるにしても、新しい住まいを確保するのは至難である。

だから、原発事故の被害者がこれ以上追い詰められないよう、自主避難者にとって唯一の公的支援ともいえる住宅支援の継続を望むのは当然ではないか。

今年六月に福島県が自主避難世帯に行った調査では、来春以降の住居が決まっていない世帯が多い。原発事故以来、避難者を受け入れてきた自治体には、この先も住宅支援が必要と理解し、公営住宅入居の優先枠や家賃補助など、独自支援を決めた例もある。だが、こうした策にも財政負担が伴う。公営住宅入居には収入や世帯に要件があり、すべての希望者が入れるわけでない。避難先の自治体の努力には限りがある。

本来、長期に及ぶ原発避難者の住宅支援は、都道府県が可否を判断する災害救助法に基づいて行うのではなく、原発事故に責任のある国が率先して取り組まなければならない課題である。

その対応を政府は怠ってきた。原発事故翌年に議員立法で成立した「子ども・被災者支援法」は「避難の権利」を認めているのに骨抜きにされた。四年後の東京五輪開催を控え、政府は避難指示区域を解除し賠償も終わらせようとしている。福島県の内外で自主避難者があふれ、困窮者が増えるのは明らかだ。政府はこの状況を放置してはならない。

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