2016/10/16

隠される放射能による健康被害~ジャーナリスト藍原寛子さんが講演

2016年10月16日 レイバーネットより  
http://www.labornetjp.org/news/2016/1016fukusima

10月16日、「福島の子どもたちは今~原発事故による甲状腺がん、健康被害は?」と題する講演会が「さいたま市下落合コミュニティーセンター」で行われた。講師は医療ジャーナリストの藍原寛子さん(写真)。50人の参加者が集い、各自の活動や体験を交えた活発な討論があった。(主催「原発問題を考える埼玉の会」)

福島原発事故から五年。福島県は県民健康調査の一環として、事故当時18歳以下だった37万人を対象に甲状腺検査を実施し、172人が甲状腺がん(またはその疑い)と診断された。住民の健康問題についてメディアがとりあげたのは、その「172人甲状腺がん」ということだけなのではないだろうか。どれだけの人が放射能の影響で健康被害を受けているのかは、依然隠され続けている。異常出産や若者の突然死などを伝え聞くことはあっても「風評」の一声でかき消されてしまう。藍原さんの報告は、疾病の種類や数字をこえた、閉塞した福島の子どもたちの現状だった。



〇検査するから不安になる?

藍原さんはいう。「甲状腺がんは進行が遅いとか、予後が良いとか言われている。でも現実は、手術の痕をみられたくなくて不登校になる子、何事もなかったように耐えている子、さまざまだ。ましてや、その172人の子どもに対して権威ある大人たちが『放射能のせいだとはいえない』とか『直ちに影響はない』と延々と言い続けている。あたかも個人の責任であるかのように矮小化されて、子どもたちはいっそう傷ついている」

そして今、この県民健康調査を「見直し・縮小」しようという動きがあるという。「これ以上検査すると患者がどんどん増え、不安を煽ることになる」(福島県小児科医会)というのがその理由だ。早期発見を奨励し、自覚症状がなくてもガンを見つけてしまう検診大国・日本にあって、甲状腺がんに関しては「早期に発見してもメリットは少ない」と断じているのはどういうわけだろう。

「30年前、がん告知は二割程度だったが、今は九割の人が告知を受けるようになった。『医師のいうことを黙って聞け』という時代から、患者の知る権利を尊重する時代になっているのに、甲状腺については30年前に逆戻りしている」と藍原さんは憤る。福島県立医大では「タイロイドカフェ」という甲状腺がん患者の会が作られているが、患者を囲い込み医師が一方的に話をするだけで、患者同士の情報交換は禁止。もちろん取材も拒否されるという。健康に関する情報はプライバシーの問題として隠されることが多いし、保護者の許可がないと子どもに話を聞くことも難しい。しかし、子どもは本当のことを知りたがっているし、しゃべりたがっているのだと藍原さんは力をこめた。



〇聖火ランナーが走れば復興する?

会場から「東北が東京オリンピックの会場になることについてどう思うか」という質問があった。藍原さんは「地価の高騰や人口集中によって、そこに住む人が住めなくなるのはオリンピックにはつきもの。住民が地道に毎日の生活を立て直そうとする中で、何が肝心なのかを見失わせてしまう」と危惧する。福島市の総合運動公園がソフトボール会場として検討されているという。そして、県内の高校生が安倍首相に「国道六号を聖火ランナーのコースにしてほしい」と直談判したそうだ。国道六号の清掃活動を志願して担う中高校生も多いと聞く。国道六号線は福島第一原発から最も近いところにある国道で「今も一時間の放射線量は10マイクロもあるのに」と会場からため息が漏れたが、すべて「復興、郷土愛を担う子どもたち」という美談にされている。

その一方で、広島のシンポジウムに福島から参加した小学生のエピソード。彼は六年生の時に「なぜ避難しなければならなかったのか」ということを、自分なりに学習して卒業文集に書いた。すると担任に呼び出され「君の将来によくないことが起こるよ」と言われ、全部書き直させられてしまったのだという。

〇健康リスクを引き受けるのは誰か

「原水爆実験で被害を受けたマーシャル諸島の住民は、30種以上の疾患の賠償をアメリカ政府に要求し、アメリカはそれに応えている。日本のように甲状腺がんだけを騒ぐこと自体がそもそも論外なのだ」と藍原さんはいう。その甲状腺がん一つとっても、因果関係を認めない。なんとお粗末な国だろう。

藍原さんの話を聞いて一番考えさせられたのは「健康問題は誰も代わってくれない」ということだ。医師はもちろん、たとえ親であっても子どもが病気になった時に代わってあげることはできない。放射能に晒された先祖代々の郷土の復興を子ども世代に担わせる。果たしてそれが子どもを守ることになるのか。県や国の圧力からは守れるだろうけれど。

そんな中で藍原さんが取材した福島県のある高校教師は、民間医療機関で甲状腺がんが見つかり、2015年に摘出したことを実名で公表した。そのことで圧力も受けたようだが、同じ病気で治療をしている子どもたちが、いろいろな話を打ち明けてくれたという。  先述した広島のシンポジウムの少年も、政府に批判的だということが理由で雇止めされた研究者の発言があり、それを聞いて思わず自分の体験を話したのだそうだ。

元「福島民友」の新聞記者だった藍原さん。福島県は今、第二の自由民権運動の時を迎えているという。事故を隠蔽しようとする力に抗って、喜多方市には東電に頼らない会津電力があり、白河市には原発の負の遺産を展示する平和博物館ができたりしているそうだ。

県外に住む私たちに出来ることは何だろう。子どもたちを守るというのは、子どもが言いやすい環境をつくってやることだ。大人の都合に合わせて「書き直させる」ことではない。わたしたちに出来ることはきっとある。講演会でそのヒントをもらった。

堀切さとみ

0 件のコメント:

コメントを投稿