2016年10月8日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20161008/ddl/k15/010/129000c
「原発事故時に屋内退避する建物の(放射性物質を防ぐ)気密性は」「(避難に課題が残る)現状で再稼働の準備が進むことに危惧を感じる」−−。
5日夜、東京電力柏崎刈羽原発の地元住民らで作る「柏崎刈羽原発の透明性を確保する地域の会」の会合が柏崎市で開かれ、原発事故時の防災について議論した。住民らからは発言が相次ぎ、熱心なやり取りが続いた。
柏崎刈羽原発6、7号機は現在、原子力規制委員会の安全審査を受けている。審査は申請から3年余りが過ぎ、終了が近付いてきており、規制委が再稼働をOKした場合、県がどのような立場で臨むのか注目されている。
現行制度では、事故時の避難は県や市町村の責任だ。同原発から半径30キロ圏内にある9市町村は避難計画を作り、県も避難指針を出したが、課題は多い。
例えば、避難者を運ぶバスは何台必要か。柏崎市は、人口約8万7000人のほとんどが原発から30キロ圏内に住む。住民の2割がバスで避難するなどと仮定し、バスの定員で割り算すれば、一応の計算はできる。
だが、市の担当者は「定員40人のバスに本当に40人乗るか。荷物も多いだろうし、10人、20人乗ったら『早く発車して』と言われないか。簡単に何台とは言えない」と漏らす。県内では5キロ圏内に約2万人、5〜30キロ圏内に約44万人が住むが、県も「単純計算以上の台数は出せない」という。
さらに問題となるのはバスと運転手の確保だ。県は8〜9月、県内のバス、トラック運転手計約2000人を対象に「福島第1原発のような事故が起きたら、避難の支援や物資輸送のために30キロ圏内に行くか」との意向調査を実施した。回答した約1300人のうち、「行く」と答えたのは34%で、「手当や補償次第」との声も含まれた。
課題は他にもある。国の原子力防災指針では、5キロ圏内の住民は、原発が放射性物質を放出する恐れがあれば避難する。一方、5〜30キロ圏内は、当初は避難せずに自宅内などで放射性物質を避け、周辺の放射線量が毎時0・5ミリシーベルトになってから避難する。
だが熊本地震では、繰り返しの強い揺れで多くの家が倒壊した。大地震で原発事故が起きた場合、住民は自宅にいられるのか。体育館などに避難すれば被ばくを避けられるのか。地域の会ではこの点への質問も出た。
県は「体育館などの入り口は開け放しだ」として、放射性物質の防護は検討課題とするにとどめた。柏崎市は「地震後の住宅の危険度判定もなしに屋内退避が良いのか。5キロ圏内の避難が終わったら(圏外の)避難も考えなきゃいけない」とする。
防災以外の課題もある。県の「原発の安全管理に関する技術委員会」は、東電福島第1原発事故の検証を進めている。その検証の成果として一部の委員が8月、柏崎刈羽原発について、耐震性の向上や水素爆発への対策強化などを提言した。ただ、提言内容を県として具体的に東電に求めるかは未定だ。
また、福島第1原発事故での東電の炉心溶融隠蔽(いんぺい)問題などを調査する県と東電の合同検証委員会は、8月末に初会合を開いたばかり。今後の日程は未定だ。山内康英・検証委員長は「検証の重要性は、新知事になっても変わらない」と訴える。
県は柏崎刈羽原発の再稼働を容認するのか。何か条件をつけるのか。福島の事故の教訓はどう生かすのか。新知事に課せられる宿題は重い。【高木昭午】
0 件のコメント:
コメントを投稿