2015/07/15

台湾の輸入規制強化 九州の農産品販売に広がる懸念

2015年7月15日 産経新聞
http://www.sankei.com/region/news/150715/rgn1507150011-n1.html

台湾が日本からの食品輸入規制を強化し、産地証明などを義務づけた。九州も青果を中心に台湾への輸出が盛んなだけに、関係者に懸念が広がる。親日傾向が顕著な台湾だが、馬英九総統はここにきて、“反日”に舵を切ったかのような言動をしている。規制が長引けば、日台の経済交流に水を差しかねない。

台湾当局は5月15日付で、日本からの食品輸入の規制を強化した。日本側との事前協議もなく、一方的だったことから、農林水産省など関係機関に衝撃が走った。

台湾側が挙げる理由は、東京電力・福島第1原発事故だ。

台湾は平成23年3月の事故直後から、福島、茨城、栃木、群馬、千葉の5県産の食品輸入を禁止している。今回、この5県を除く42都道府県で作られた生鮮・加工食品について、都道府県までの産地証明が必要とした。

さらに、岩手、宮城、東京、愛媛4都県の水産品については放射性物質の検査報告書の添付を義務づけた。事故現場から遠く離れた愛媛県が対象となったことで明らかなように、合理的・科学的な理由はまったくなく、日本側は撤回を求めた。

「本当に驚いており、理解できない。かといって、農水省が(産地の)証明書を発行すれば、かえって日本の食に危険性があるように受け止められる。台湾内で風評が広まり、日本産食品の販売に支障がでかねない」

農水省輸出促進グループの担当者はこう憤った。

台湾当局の規制強化の結果、特に加工食品では、県や商工会議所の証明書を新たに添付する必要が生じた。

農水省によると、青果や水産物が輸出できなかった事例はないというが、関係者は悩みを深める。

福岡産の高級イチゴ「博多あまおう」など、主に九州産青果の輸出を手がける福岡農産物通商(福岡市中央区)の輸出担当者は「植物検疫証明書の条件などを、急に厳しくされる可能性もあり、不安は払拭できない」と語った。

◆先行き不透明
今回、台湾当局が規制強化に乗り出した直接のきっかけは、今年3月に発生した産地偽装事件だった。

台湾の地元業者が、輸入が禁止されている福島など5県産の食品に他県産のラベルを張り、市場に流した。

事件後、国会にあたる立法院で、野党議員が「日本の食品は放射能に汚染されている可能性が高い」と追及。馬総統が「消費者や立法院に説明できない」として規制強化を断行した。

すでに台湾検察当局が偽装した地元業者2人を詐欺罪などで起訴しており、規制緩和がなされるとの見方もあるが、先行きは不透明だ。

不透明感が漂う理由には、馬総統の姿勢もある。来年1月の総統選を前に、馬氏は終戦70年の今年を「抗日戦争勝利70周年」と位置付け、イベントを企画する。馬氏は「私は反日派でも親日派でもない。友日派だ」と、台湾世論と中国、日本の三方の顔色をうかがったような発言をしている。

◆3位の輸出先
日本から台湾への農水産物・食品の輸出額は735億円(平成25年)で、前年比2割も増えた。輸出額は香港、米国に続く3位となっている。

輸出品には、九州産も多く含まれる。イチゴ「博多あまおう」のほか、大分の「日田梨」や干しシイタケなど、九州の農産物にとって、重要な販売先といえる。

だからこそ九州経済連合会は香港やシンガポールと並び、台湾を重視する。

九経連は平成24年6月、台湾最大規模の経済団体である「中華民国工商協進会」と経済交流の促進を図る覚書を交わした。工業やサービス業、文化コンテンツなどを含めた商談会を重ねている。

今年3月に台北で開催したビジネス交流会では、九州から17社、台湾から32社が参加し約80件の商談のうち食品関連が半分を占めたという。

人口減で市場縮小が避けられない九州農業にとって欠かせない地域だ。

九経連国際部の担当者は「地道な活動を続け、ようやく九州産品の販路として確立してきた中で、規制強化は残念だ。風評や関係悪化などに至らないうちに規制を解除してもらいたい」と語った。

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