2015年7月21日 NHK
NHK「おはよう日本」特集 文字起こし
自主避難者“支援打ち切り”の波紋
自主避難者“支援打ち切り”の波紋
阿部
「原発事故で避難している人たちに対する政策が、今、変わろうとしています。」
「住宅の(無償)供与につきましては、29年3月末をもって終了する。」
今まで無償で提供していた住宅を2年後の3月に打ち切ることにしたのです。
避難者の間に戸惑いが広がっています。
自主避難者
「一人一人が自分たちで立ち上がろうとして生活再建しているなか、いきなり全部 切ってしまう。落胆というか、これからどうすればいいのだろう。」
阿部
「東京電力福島第一原子力発電所の事故から4年余り。
今なお、11万人を超える福島の人たちが避難生活を続けています。」
和久田
「このうち、国が避難指示を出している区域以外からも避難をしている人たちがいます。
『自主避難者』と呼ばれ、その数は3万人以上に上ると見られています。
国は、放射線の影響が科学的に十分解明されていない部分があることから、不安を抱いて自ら避難した人たちに対しても適切な支援を行うとしていました。」
阿部
「その柱が住宅の無償提供でしたが、今回、国と県が協議し2年後にその支援を打ち切ることにしたのです。この決定に対し動揺が広がっています。」
原発 自主避難者 “支援打ち切り”の波紋
福島からの自主避難者が、最も多くまとまって暮らしています。
90世帯およそ250人。
その7割ほどが、母親と子どもだけの世帯です。
父親を福島に残して避難生活を送っています。
自主避難の受け止められ方がさまざまある中で、匿名を条件に今の心境を語ってくれました。
「本当は(ここに)いたい。
安心な所で子どもたちと一緒にいられたらいいのだけど、帰ったほうがいいのかなという考え方にもなってきたり。」
「子どもを守ろうと思ってはいけないのかな、こういう生活をしてはいけないのかな。」
福島県は、除染が進み、放射線量が大幅に下がったことを最大の理由にしています。
県によると、福島市の市街地の場合、放射線量は事故直後から徐々に低下。
依然、震災前の数字より高いものの、今年(2015年)3月にはピーク時の10分の1以下になりました。
「除染の進捗具合や生活環境のめどが立つタイミングが29年3月ごろである。
自治体としてはぜひ帰還していただきたい、帰ってきていただきたい。」
NHKでは、札幌の団地に入居する住民にアンケートを実施しました。
回答を寄せた22世帯のうち、被ばくの影響への不安が「強まった」、または、「時間が経っても変わらない」という回答が9割に上ったのです。
6歳と3歳になる2人の子どもと暮らしている、30代の母親です。
除染が終わった去年(2014年)、夫と両親が残っている福島の実家に子供を連れて帰りました。しかし、すぐにまた戻ってきてしまったと言います。
30代母親
「私の実家はすごい山。周りが自然だらけで森みたいな感じ。
自分は子どものころ木に登ったり川で遊んだりしたんですけど。」
対象は宅地や道路などの生活圏が中心で、山林については宅地周辺の20メートル以内に限られているのです。
30代母親
「実際外に遊びに行って、どこが危険か、どこに触ってほしくないか、そういうことばかり考えて。
普通に暮らしたいだけ。普通にごはんを食べて、普通に外で遊べて。」
住宅の無償提は、自主的に避難した人たちにとってほぼ唯一の公的な支援でした。
今回の打ち切りは、経済的な面からも帰還を迫るものと受け止められています。
夫を福島に残し、中学生と小学生の子ども3人と避難生活を続ける母親です。
自分の仕事で得る収入など、月15万円で避難先の暮らし全てを賄っています。
食費はどんなに節約しても4万円を超え、教育費などを加えると、支出は14万円余り。
毎月ギリギリの状況です。
住宅の無償提供が終われば、団地の家賃およそ月6万円の負担がさらにのしかかってくるのです。
母親
「正直大きいじゃないですか。住宅支援はすごく大きくて、無くなると考えると、これからどうしようと暗くなっていくばかり。」
アンケートからも、これ以上負担が増えれば避難生活を維持できない世帯が少なくないことがわかりました。
22世帯のうち15世帯で、事故前より収入が減少。
一方で、二重生活により月15万円も支出が増えるなど、「預金が底をついた」という世帯もありました。
母親
「今でさえ頑張っているのにもっと頑張れというのかなと思うと、心が病んでくるというか無性に悲しくなる。原発事故さえなければとつくづく思います。」
原発 自主避難者 “支援打ち切り”の波紋
阿部
「福島放送局の廣岡記者に聞きます。
普通に暮らしたいんだという声もありましたが、原発事故から4年以上たっても、ふるさとに帰ることに不安を持つ自主避難者の方々は少なくないんですね。」
廣岡記者
「除染した後も残る放射線への心配だけではなくて、原発がまだ不安定な状態にあることから、とりわけ幼い子どもをもつ親たちの間には、不安を持ち続けている人たちも多くいます。
一方、国や福島県は、放射線量が大幅に低減したことや、食品検査などで被ばく量が抑えられているとして、福島への帰還に向けた施策をより強く打ち出すようになっています。」
和久田
「そうした中で出された住宅の無償提供の打ち切りという方針ですが、避難を続けたいという人たちにとっては厳しい決定ですよね。」
廣岡記者
「そもそも自主避難をしている人たちにとっては、自分たちの判断については国も認めていたはずだという思いがあります。
ここには『居住・移動・帰還についての選択』、つまり福島で暮らすか、避難をするか、避難先から戻るかの選択について“みずからの意思”によって行えるよう、どの選択をした場合も適切な支援を行うとされています。
こうした法律の考えに照らした時に、今回の方針は認められていたはずの『避難する選択』を奪うものだと受け止められているんです。
その内容が、避難している人たちの選択を狭めることがないよう、一人一人の不安や実情に寄り添った施策が求められています。」
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