http://www.asahi.com/articles/DA3S11861478.html
国際放射線研究会議で開かれた低線量被曝についてのシンポジウムの様子=京都市の国立京都国際会館 |
■小児のCT、白血病増加の報告
低線量被曝の評価が難しいのは、喫煙など他の発がん要因のリスクに隠れてしまうほど影響が小さく、統計学的に十分なデータを取るのが難しいためだ。
広島と長崎の原爆被爆者の調査から全身被曝が100ミリシーベルト程度を超えると、がんのリスクが高まることがわかっている。千ミリを全身被曝した場合の白血病以外の固形がん発生リスクは、被曝しない場合の1・5倍になるとされる。
低線量でも被曝線量の増加に比例して健康影響が高まると考える「直線しきい値なし仮説(LNT仮説)」に立つと、10ミリの全身被曝によるがんリスクは千ミリのときの100分の1。統計学的には、60万人以上を調べないと影響の有無を評価できないという。このため、いろいろな方法で解明の努力が試みられている。
「白血病や脳腫瘍(しゅよう)になりやすい素因のある人を除外して再計算しても、リスクは高かった」。5月下旬に京都であった国際放射線研究会議で、米国立がん研究所のエイミー・ベリントン博士がこう発表した。
同研究所と英ニューカッスル大などは2012年、小児期にCT検査を受けた18万人を対象にした研究を英医学誌に発表した。
放射線防護の対策を考える時は全身被曝で評価することが多いが、個別のがんのリスク評価では局所の被曝量を調べる。CT検査で骨髄局所に約50ミリ被曝した場合(頭部CTで5~10回分)、5ミリ未満の被曝に比べて白血病になるリスクは約3倍高かった。脳に約60ミリ被曝した場合(頭部CTで2~3回分)も5ミリ未満に比べて脳腫瘍のリスクが3倍近く高かった。国際放射線防護委員会の換算係数で計算すると、骨髄局所の50ミリの被曝は6ミリの全身被曝、脳の被曝60ミリは全身で0・6ミリに相当する。
論文に対しては「もともとがんに関係する病気や症状のある人がCT検査を多く受けるのでは」との批判が出た。こうした影響を除いて再計算しても、骨髄被曝で50ミリ以上、脳被曝で60ミリ以上では白血病や脳腫瘍のリスクが高かった。
チームは「被曝量と白血病などの発生率には直線的な関係がみられた。これまでのところ被曝量と発生率の関係は(低線量でも)原爆被爆者調査と大きく変わらない」としている。
ただ、若い世代のがんは少ない。日本の10~14歳の場合、国立がん研究センターの推計では、11年に白血病になったのは10万人当たり2人、脳腫瘍は同1・5人。一方、チームの推計では、20歳以下の1万人がCTで10ミリの局所被曝をした場合、CTによる白血病の増加は0・83人、脳腫瘍の増加は0・32人という計算になる。CTの被曝があってもがん発生率に大きな変化はないとみられる。
■慢性的では「変わらず」
世界保健機関(WHO)などの研究チームも今年6月、低線量の被曝で白血病で死亡するリスクがわずかに増えるという原子力発電所などの作業員の調査結果を発表した。仮に骨髄に累積で千ミリ被曝をした場合(全身被曝で120ミリに相当)、白血病による死亡リスクは被曝しない場合の約3倍と出た。被曝量が10分の1になっても、被曝量と死亡リスクの相関関係は変わらなかった。
一方、自然界から常時、低線量の被曝を慢性的に受ける場合、健康影響の増加は観察できないとの研究もある。鹿児島大の秋葉澄伯教授らは、放射性物質が混じった砂を含むインドの海岸地域で、自然放射線とがんの関係を調べている。現時点では骨髄局所の被曝量が増えても白血病のリスクは変わらないという。
京都の国際放射線研究会議に参加した国連科学委員会のウルフガング・ワイス元議長は「低線量被曝の健康影響についてはまだ結論が出る見通しが立っていないが、あきらめずに研究を続けるべきだ」と話した。
(大岩ゆり)
■最近報告のあった低線量被曝の健康影響調査
◇英国でCT検査を受けた21歳以下の約18万人
<調査の概要> CT検査による骨髄と脳の局所の被曝線量と、白血病と脳腫瘍の発生を調査
<主な結果> 骨髄局所に50ミリシーベルト以上被曝すると5ミリ未満の場合より白血病になるリスクが約3倍高かった。脳局所に約60ミリ被曝すると5ミリ未満より脳腫瘍のリスクが約3倍高かった
◇欧米の原発や軍事施設などで1年以上働いた作業員約31万人
<調査の概要> 骨髄局所の累積被曝線量と、白血病による死亡を調査
<主な結果> 骨髄局所の被曝が千ミリだと、被曝しない場合より白血病で死亡するリスクが約3倍になる。100ミリ未満の被曝でも死亡リスクは無くなるわけではなく、線量に比例して下がる
◇インド・ケララ州カルナガパリ地域の住民約7万人
<調査の概要> 自然放射線による体の様々な部位の被曝線量と、その部位でのがんの発生を調査
<主な結果> 少しずつ慢性的に被曝した場合、骨髄局所の被曝量が増えても白血病のリスクは増えない
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