2015/07/27

プールだけじゃない! 福島の学校は校外ランニングでも内部被曝の恐れ

2015年7月27日  週プレニュース
http://wpb.shueisha.co.jp/2015/07/27/51138/

  



プールだけではなく、大気中に舞った放射性物質を吸い込んで内部被曝のリスクも…

本誌では昨年夏、福島市の小中学校のプールサイドが「放射線管理区域」(放射線による障害を防止するために法令で定めた場所)並みに汚染されているのに、なんの対策も行なわれずプール授業が進められている実態を2度にわたってリポートした。


福島市よりも福島第一原発に近い伊達市在住の保護者が言う。

「私たちの市でも、原発事故の起きた2011年からプール授業を開始した小学校がありました。1年間の積算線量が20ミリシーベルトを超える特定避難勧奨地点のそばなのに、大臣が視察に来るからとプール開きをしたのです。除染はしてあったようですが、それでも空間線量が毎時1マイクロシーベルトを超えていたような時期。さすがに保護者からのクレームが来て、その後、閉鎖しました」

原発事故から4年が過ぎ、空間線量は着実に下がっていると国は言う。原子力規制委員会が昨年1月にヘリコプターから計測した線量マップでは、第一原発から半径80km圏に近い場所では毎時0.1マイクロシーベルト以下の所が増えつつあるという。

だが、生活空間の線量は本当に下がっているのか。日頃から放射線測定をしている県民に聞くと、まだ高い場所はあちこちにあるという。

「いくら下がったと国が言っても、線量の高いホットスポットは至る所にあります。毎時10マイクロシーベルトの場所も珍しくない。除染すれば一時的には下がります。ですが、問題は除染されていない山などから飛んできた放射性物質により、またすぐに数値が上がってしまうことなのです」(南相馬市在住の小澤洋一氏)

そんな状況の中で、今年も学校のプール授業の季節がやって来た。福島県教育庁健康教育課によると県立高校93校中、今年、プール授業を予定しているのは47校に上る。

今回は前回測定しなかった高校に焦点を当て、6月中旬に福島市、郡山市、伊達市、川俣町、二本松市の県立高校のうち20校を測定しようと考えた。そこで学校プール内の測定取材を同健康教育課に申し込んだが、

「学校プールサイドの空間線量率の測定結果から安全であると判断しているため取材による測定は必要ないと考えています」

許可が得られなかったため、なるべくプールから近い学校敷地外を測ることにした。すると、今回1000cpm(カウント・パー・ミニッツ)を超えた20校でも、うち14校がプール授業を行なうという。これは放射線管理区域と同レベルの汚染だ。つまり、本来なら18歳未満が立ち入れない場所ということである。

しかし、プール授業をやるかは空間線量で判断するという。
「学校除染と同時に市町村の除染計画に基づいて、地上1mの空間線量率が毎時0.23マイクロシーベルト以上である場合にプールの除染を実施する」(健康教育課)

そのため表面汚染の基準はなく、プールサイドでの被曝リスクを尋ねても「空間線量率が毎時0.23マイクロシーベルト以下であり、人体に影響はないと判断している」との回答が返ってきた。

だが、取材すると実は表面汚染を測定している学校があることがわかった。本誌では昨年4月から8月にかけてプールの放射線測定をした複数の県立高校のデータを入手した。それによると、少なくとも4校が昨年かその前年に空間線量率と同時に表面汚染の測定を行ない、放射線管理区域を超える数値が出ていたことがわかった。

測定した学校のデータからは漏れなく1000cpm以上の汚染が見つかっており、プールサイドまで除染をして1000cpm以下に下げてプール授業を行っている。だが、プールサイドをどの程度細かく測定するかは学校ごとに違うため当然、測定漏れも考えられる。しかも未測定の学校では表面汚染が放置されたままプール授業が行なわれている可能性は高い。

さらに汚染されているのはプールだけではない。郡山北工業高校で測定していた時のことだ。生徒が部活動で学校外周をランニングしている場所を測ると、口元あたりで毎時0.31マイクロシーベルトを記録し、近くの草むらは毎時1マイクロシーベルトを超えたのだ。

これでは外部被曝と同時に大気中に舞ったチリ状の放射性物質を吸い込んで内部被曝も引き起こしてしまう。こうした生活を3年間続けたら健康リスクが高まるのは必至だ。だが、学校側に危機意識はないようだ。

「放射線モニタリングは県の指導に従って毎年やっています。今年も6月からプール授業を始めましたが、その前に測定しました。空間線量が基準を下回っていたので大丈夫だと思っています」(福島南高校)

生徒がランニングをしていた郡山北工業高校は、すべての学校が表面汚染を測定しないのは県の指示がないからだという。

「教育委員会が決めた方法で測定し、基準以内なら大丈夫と理解している。そもそも大丈夫かどうかは私たちに判断はできません。表面汚染のことは初めて聞きましたが、指示がなければ学校は測定しないでしょう。(生徒が線量の高い場所を走っていることについては)ホットスポット的に高い場所がどこかは認識していません。学校の敷地内は除染でかなり低くなっていますが…」

教育庁ではすでに、
(1)プールサイドなどへ校庭の砂を入れないよう下足や上履きの着脱場所の明確化
(2)水泳指導を希望しない生徒の尊重
などを各学校へ通知するなどして、一定の対応策は打ち出している。それならさらに踏み込み、一部の学校が行なっている「表面汚染の測定」も義務化したらどうだろうか。元京都大学職員で放射線計測を専門とする河野益近氏が指摘する。

「指示がないと勝手に動けない行政機関の弊害が出ています。そもそも被曝を防ぐには徹底的に土などをはぎ取らないとダメ。それも頻繁(ひんぱん)に除染しないと、除染していない周囲から飛んできた放射性物質で再び線量は上がり外部被曝します。土ぼこりと一緒に吸い込めば肺にとどまり、そこから細胞ががん化する危険性もある。最低限やることは学校内の放射能レベルを細かく調べて汚染地図を作ること。そうすれば子供や親たちが自主判断できるのです」

子供を預かる学校であれば、教育者は「ひとりひとりの安全」を最優先すべき。指示がないからできない、わからないと諦める前に自分たちで工夫して子供を被曝から守れることはたくさんあるのではないか?
(取材・文/桐島 瞬)

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