2015年06月24日 毎日新聞
http://mainichi.jp/shimen/news/20150624ddm001040197000c.html
東京電力福島第1原発事故の自主避難者に無償提供されている「みなし仮設住宅」の代替策として公営住宅に応募しやすいようにする住宅支援施策を巡り、国が2013年10月、「抽選なし」での入居としないよう都道府県に伝えていたことが分かった。みなし仮設は17年3月末に打ち切られるが、仮設を出た被災者が公営住宅への入居を希望しても抽選で当たらなければ入居できないことになる。避難者政策に詳しい識者は「福島への帰還促進のために支援施策を意図的に『骨抜き』にしたことは明らか」と批判している。
この施策は「公営住宅の入居円滑化」。民主党政権時の12年6月に成立した「子ども・被災者生活支援法」に基づくもので、同法は自主避難者も被災者と認め、居住、避難、帰還のいずれを選んでも国が住宅支援などを行う。一方、公営住宅法では収入上限額や持ち家の有無などの要件を厳しく設定しており、入居円滑化施策はそれらを緩和するもので、13年10月11日に閣議決定された支援法の基本方針に盛り込まれた。
この閣議決定の前日、復興庁と国土交通省は同省に東京都や埼玉県、新潟県など避難者を多く受け入れている自治体の担当者を呼び会議を開催。複数の自治体が作成した会議録を毎日新聞は情報公開で入手した。
会議録によると、復興庁の担当者は「基本は福島への帰還」とした上で、支援法と基本方針の案を説明し、入居円滑化施策について自治体の質問に答えた。
埼玉県などが「みなし仮設」の提供終了後に公営住宅入居を望む自主避難者への対応を尋ねると、国交省の担当者は「『特定入居』(抽選のない入居)ではなく通常の募集で対応してほしい」と答えた。また、施策に対する避難者のニーズを問われた担当者は、「どのくらいあるかは不明」と答え、避難者の意向調査に基づかない施策であることを示唆した。
公営住宅への応募資格は条例で元々の住民に限定している自治体が多く、その場合、他の自治体から応募はできない。このため条例改正の必要性を尋ねる質問も出たが、担当者は「改正してほしいとは考えていない。解釈・運用で対応してほしい」と回答した。
その後の14年6月、国交省は施策のQ&A(質疑応答事例)集を自治体に配布。抽選のない「特定入居が可能になる事由」を厳格に規定した。Q&Aは非公表で、情報公開で入手したが、公表文書では特定入居に一切触れていない。
施策は14年10月に運用が始まり、復興庁によると40の都道府県・政令市で受け付けているが、周知不徹底などから応募書類の発行は50件のみ。国交省の担当者は「特定入居を認められている強制避難者と同じ扱いにはできない。どういう方法を取るかは最終的に自治体の判断」と話している。
約2万5000人と推計されている自主避難者への住宅支援を巡っては福島県が15日、みなし仮設打ち切りとともに県独自の支援策を検討する方針を表明しており、この中には「住宅確保(公営住宅等)への取り組み」との項目もある。【日野行介、町田徳丈】
◇避難者の住宅問題に詳しい津久井進弁護士の話
会議録を読むと、国が意図的に実効性のない施策を発案したのは明らか。関係省庁の担当者たちは自主避難者支援に取り組むポーズを取りたいだけなのだろう。国と福島県は応急仮設住宅を打ち切る一方、代替策が不十分なら福島に戻らざるを得ないと思っているのかもしれないが、このようなやり方は不信感を強め、逆効果になりかねない。
◇みなし仮設住宅
災害救助法に基づき被災者に無償提供される応急仮設住宅のうち、民間賃貸住宅や公営住宅の空き部屋を充てたもの。応急仮設は本来、プレハブの建設型を想定しているため「みなし仮設」と呼ばれる。福島県は原発事故直後、全域に同法が適用されたため、避難指示区域外からの自主避難者も提供対象。入居期間は原則2年で激甚な災害の場合は1年ごとに延長できるが、同県は2017年3月末での打ち切りを表明した。
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