2015/06/17

原発自主避難者 支援はまだまだ必要だ

 2015年6月17日東京新聞社説
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015061702000156.html

原発事故で県内外に自主避難した住民に対し、福島県は来年度末で避難先での住宅の無償提供を廃止する方針だ。避難者は提供の継続を求めている。一方的な廃止では避難者を追い詰めかねない。

原発事故などで県内外に避難している県民は現在約十一万二千人。このうち政府の避難指示を受けていない人は約二万五千人で、大半が原発事故による自主避難者とみられる。

避難者への住宅提供は県が災害救助法に基づいて行い、国の避難指示を受けたかどうかにかかわらず、仮設住宅や県内外の民間アパートなどを借りて一律無償で提供する。入居は原則二年間で一年ごとに延長を重ね、現時点では二〇一六年三月末まで。今回さらに一年延ばして一七年三月末の廃止を決めた。

放射性物質の除染が進んで生活環境が整い始め、住民の自立や帰還を促すためだという。だが、県が行った避難者アンケートでも提供住宅の入居延長を求める声が半数に上った。除染も放射線量を下げ切るまでに至らず、生活環境を不安に感じている人が多い。今、住宅提供の廃止を決めるのは避難者の実態に合わない。県は家賃補助などの代替策を検討しているが、支援の縮小でしかない。

政府は避難指示区域の賠償について一七年度末の一律終了を打ち出した。水俣病などかつての公害と同じように、被害をできるだけ小さく見積もって事業者負担を減らし、賠償や支援を早く終わらせたいという行政的計算が働く。それでは被害者は納得できない。

自主避難者には一貫して支援が足りない。国が避難指示を出した地域と線引きされ、東京電力が支払う月十万円の精神的慰謝料など賠償は何もない。福島市や郡山市などは放射線量が高かったが、避難指示が出なかったために、大勢が自主避難を選ばざるをえなかった。原発事故がなければ避難の必要もなかった被害者である。

避難先での状況や抱える事情はそれぞれに違う。故郷に夫や親たちを残し、母子だけで避難した「二重生活者」も多い。避難先でなんとか落ち着いていても、住宅提供を打ち切られると生活できず、やむなく地元に帰らざるをえない人が少なくない。

住宅という命綱を切ることは強制的な帰還につながる。どこに住むのかは避難者が選ぶこと。国や県は支援に徹するべきだ。原発事故の復興は通常の災害とは違うことを忘れるべきではない。


2015年06月17日 読売新聞社説
福島復興新指針 自立への転換点が示された
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150616-OYT1T50177.html

福島の復興が新たな段階へと歩を進める。その目安となる時期が明示された意味は大きい。

政府が、東京電力福島第一原発事故からの復興の加速に向けた新指針を閣議決定した。自民、公明両党の提言がベースになっている。

注目されるのは、放射線量が極めて高い帰還困難区域を除く避難指示区域全域で、2017年3月までに指示を解除する方針が明記されたことだ。今なお避難生活を送る約7万9000人のうち、約5万5000人が対象になる。

地元に戻るか、別の土地に住み続けるかで、避難者は揺れている。指針は、将来設計を立てる上での判断材料となろう。

避難指示の解除が見込まれる住民に対しては、現在、精神的損害賠償として、東電から1人月10万円が支払われている。これについても、18年3月で支給を終了させる方針が盛り込まれた。

避難指示解除の時期にかかわらず、一律に期限を区切ることで、住民が賠償を巡る不公平感を抱かないようにする狙いがある。

商工業者への営業損害賠償は、これまでの予定を1年間延長し、17年2月分まで続ける。賠償終了の時期が示された点では、精神的損害賠償と同じだ。

帰還の前提となる除染が完了していない地域が多い中で、賠償終了の時期が具体化したことに反発する住民は少なくない。その心情は理解できる。

ただ、避難住民が、主体的に生活再建を果たすためにも、どこかで賠償に区切りをつける必要があるのではないか。新指針は、自立への転換点を示したものだと、前向きに捉えたい。

福島県は、避難指示区域外からの自主避難者に対する住宅の無償提供を17年3月で打ち切ることを決めた。政府の指針と軌を一にするものと言えよう。

政府が今後、注力せねばならないのは、一人でも多くの住民が帰還できるよう後押しすることだ。商店が営業を再開しても、住民が戻らず、顧客が十分にいなければ、商売は成立しない。

医療機関や教育施設などの整備は不可欠だ。

何より重要なのは、雇用の確保である。政府は第一原発周辺の12市町村の再生プランを今夏に策定する。廃炉関連産業の集積など、具体的な将来像を示すべきだ。

自宅に戻れるメドさえ立たない帰還困難区域の住民も、2万人を超える。政府は継続的な支援を忘れてはならない。

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