2015年6月24日 岩手日報論説
http://www.iwate-np.co.jp/ronsetu/y2015/m06/r0624.htm
東京電力福島第1原発事故被害に対する政府の福島復興指針が改定され、新たな方針が打ち出された。
「帰還困難区域」に比べて放射線量が低い「居住制限」「避難指示解除準備」両区域の避難指示を2016年度末までに解除する。
これに伴い、両区域の精神的損害賠償(慰謝料)の支払いを17年度末で一律終了とする。一方で16年度までの2年間、集中的に事業者の自立支援を図る期間として取り組みを充実させる。
賠償から生活再建支援への政策の転換だが、当事者がどう受け止めるかはさまざまだろう。
早く故郷に戻りたいと歓迎する人もいる。ためらう人には慰謝料打ち切りの不安がのしかかってくるに違いない。放射能汚染による健康被害の不安を抱く人もいるだろう。事業再建にしても商圏自体を失っており、再生は容易ではない。
それを踏まえれば、避難指示の一斉解除や一律の慰謝料打ち切りは強引に映る。解除時期や賠償金について、きめ細かな対応が求められてしかるべきではないか。
現在、居住制限、避難指示解除準備両区域の人口は約5万4800人。16年度末までに解除されても、その時点で帰還を選ばない人は相当数に上る可能性がある。
既に避難指示が解除された地域でも、思うようには帰還が進んでいないのが実情のようだ。時間の経過とともに帰還意欲が減少していることも指摘される。
準備区域の中で動きがあった。全町避難が続く楢葉町に対して、政府はお盆前に指示を解除する方針を示した。解除されれば全町避難の自治体では初となる。
同町では帰還に向けて長期滞在できる「準備宿泊」を4月から行い、一部世帯が実際に宿泊している。しかし、一度自宅に戻っても、すぐ引き揚げた住民もいる。
「安心して帰れる環境ではなく、お盆前とはあまりにも時期尚早」との声が聞かれる。避難している間に家屋の損傷も進んでいる。
故郷は再興されなければならない。ただ、他の震災被災地と異なる原発事故禍の特殊な状況下では、より慎重に事を運ぶべきで、それに伴う住民支援も必要だろう。
国内各地で原発の再稼働計画が進んでいる。新基準合格といっても「リスクがゼロと確認したわけではない」というのが原子力規制委員長の見解だ。
もしも過酷事故が起きたらどうするのか。福島の今後は、本県を含めて全国に暮らす避難者のみならず、原発立地地域の住民が注視しているに違いない。
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