2015年6月24日 毎日新聞
http://sp.mainichi.jp/select/news/20150624k0000m040173000c.html
東京電力福島第1原発事故の自主避難者に無償提供されている「みなし仮設住宅」の代替策として公営住宅に応募しやすいようにする住宅支援施策を巡り、国が2013年10月、「抽選なし」での入居としないよう都道府県に伝えていたことが分かった。
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自主避難者の公営住宅への応募をしやすくする「公営住宅の入居円滑化」施策を巡る、「骨抜き」の実態。発案に関わった国の担当者らは「苦肉の策だった」と口をそろえ、その言葉通り、施策の運用から8カ月が過ぎてもほとんど知られておらず、必要な書類の発行はわずか50件。避難者を受け入れたい自治体にとっては逆に施策が足かせになっており、施策の体をなしていないのが実情だ。
関係者によると、この施策は復興庁の担当者が2013年初めに発案し、公営住宅法を所管する国土交通省が制度設計した。民主党政権時に成立した「子ども・被災者生活支援法」に基づき、公営住宅法で規定されている入居要件を緩和する内容。しかし、自主避難者が公営住宅への入居を希望しても、抽選がない「特定入居」を原則認めなかったため、結局は抽選で当たらなければ入居できない。
復興庁の当時の担当者は「自主避難者にとっては無償の『みなし仮設住宅』がベストだろうが、いつまでもというわけにいかない。上から言われて他の方策を検討する中で思いついた」と振り返る。国交省の当時の幹部も「自主避難者は微妙な存在。完璧な制度を作れば自主避難を推奨することになりかねず、人口流出を恐れる福島県にも配慮した」と明かし、「骨抜き」にしたことを事実上認めた。
自治体側の対応はさまざまだが実効性のあるケースは乏しい。東京都は今年5月に都営住宅の応募受け付けを始めたが、13年度の抽選倍率は平均23.6倍と全国一高く、部屋によっては700倍以上。埼玉県は1月に受け付けを始めたが、原則的に元々の居住者しか応募を認めない条例を改正せず、いまだ県のホームページにすら掲載していない。避難者を過度に優遇したくないとの「本音」が垣間見える。
一方、滋賀県は2月、県内にいる避難者からの要望を受けて条例を改正し、福島県から新たに避難したい人を受け入れる姿勢を示した。鳥取県も同月、福島県内からの避難者らを対象に18年度末まで県営住宅を無償提供する方針を明らかにする一方、入居円滑化施策は見送った。担当者は「同じ公営住宅なのに無償と有償の施策が両方あるのは矛盾するため」と話した。【日野行介、町田徳丈】
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自主避難者の多くが入居する「みなし仮設住宅」は2017年3月末で提供が打ち切られる。その代替策とされる公営住宅の入居円滑化施策について、福島市から東京都郊外の都営住宅に自主避難する女性(33)は「結局はここを追い出したいだけではないか」と不信感をにじませる。
仮に応募して当選しても今の場所は退去しなければならず、家賃もかかる。そもそも都営住宅の倍率は高く、当選するかも分からない。隣県の多くは条例で元々の住民に応募資格を限っているため、応募すらできない所もある。女性は、4人いる子供の環境を変える転校も避けたい。福島県は今後、みなし仮設の代替策を別途検討するとしているが「一方的に打ち切るのだから期待なんかできない。ただひたすら困っている」とうつむいた。
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