http://bylines.news.yahoo.co.jp/masanoatsuko/20150622-00046878/
子ども・被災者支援法3周年シンポジウム 「やっぱり、支援法でしょ!」(筆者撮影) |
「福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク」 河崎健一郎弁護士(筆者撮影) |
「原発事故子ども・被災者支援法」は正式名称を「東京電力原子力事故により被災した子どもをはじめとする住民等の生活を守り支えるための被災者の生活支援等に関する施策の推進に関する法律」と言う。2012年6月21日に成立した。
放射性物質が福島県内外に拡散し、被災者支援が必要(第1条)だとして、政府が基本理念(第2条)にのっとり基本方針を定め(第5条)、被災者支援(9~12条)や健康影響調査や医療の提供(第13条)などを国会が行政に義務付けた議員法律である。
アワプラネットTVの白石草代表の取材によれば、「チェルノブイリ原発事故では、『原子力被災者』はチェルノブイリ法によって定義づけされた上で、移住や健診など様々な住民の支援が実施されている」(白石さん)。
被災者を分断する3つの線引き
ところが、日本では、現在でも、誰が被災者かの定義すら曖昧である一方、放射能汚染に対する対策には少なくとも3つの線引きがある。●一つは、「放射性物質汚染対処特別措置法」(2011年8月) と「原発事故子ども・被災者支援法」との線引きだ。
前者は、汚染地域の指定や除染対策の義務付けなど国土に着眼した施策で、政府に積極的に推し進められている。後者は人間に着眼し、医療の確保、生活上の負担軽減、自然体験活動等を通じた心身の健康の保持に関する施策、家族と離れて暮らすこととなった子どもに対する支援などが政府に対して求められているが4年経った今も進んでいない。国土保全と人間保護の間には大きな開きがある。
●もう一つの線引きは、「福島復興再生特別措置法」(2012年3月制定)と「原発事故子ども・被災者支援法」との線引きだ。
前者は、福島県全域で原発事故時に18歳以下だった子どもを対象に甲状腺がん調査など「県民健康管理調査」の根拠である。しかし、福島県外では、1~20mSvの汚染がある地域(先述の「放射性物質汚染対処特別措置法」で指定され除染が義務付けされた「汚染状況重点調査地域」)でも住民の健康調査などななんら義務付けが行われていない。県境による線引きを生じさせている。後者はその県境を挟んで存在する「格差」を埋める役割を担う法律である。
●さらに、もう一つの線引きは、福島県内でさえ、国が避難指示を出しているか否かの線引きがある。線の外に置かれた避難指示が出ていない汚染地帯の住民は、「自主避難」をするか否かを自ら選択せざるを得ず、自主避難をするかしないかの線引き、家族構成や経済状況によって自主避難できるか否かの線引きが生まれ、精神的な苦悩を強いられてきた。国が、汚染地域に対して包括的な支援策を行ってこなかったために生じた二次的な被害である。
原発事故子ども・被災者支援法市民会議の中手聖一さん(筆者撮影) |
今回のシンポジウムは、「支援法に書かれた施策が有効に実行されていない」(中手聖一(「原発事故子ども・被災者支援法市民会議」世話人代表)と被災者自らが声を上げるために開催されたものだ。
本来であれば支援法に基づいて国が収集、公表すべき情報が、参加者に対して共有されることとなった。
福島原発事故 被災者705万人~チェルノブイリ相当
「チェルノブイリ被害調査・救援女性」ネットワークの吉田由布子事務局長は、チェルノブイリ事故と福島事故の被災者数を比べ、「どちらも被災者数は700万人」であると発表した。チェルノブイリについては、UNSCEAR(原子放射線の影響に関する国連科学委員会)の報告書に基づき、事故処理作業者(53万人)、避難住民(11.5万人)、ロシア、ベラルーシ、ウクライナの汚染地域住民(640万人)の合計約705万人。
「チェルノブイリ被害調査・救援女性」ネットワークの 吉田由布子事務局長作成 |
「チェルノブイリ被害調査・救援女性」ネットワークの 吉田由布子事務局長作成 |
避難指示区域外の親子調査
中京大学の成元哲(ソン・ウォンチョル)教授は、避難指示区域外に線引きされた福島県内の中通り9市町村(福島市、郡山市、二本松市、伊達市、本宮市、桑折町、国見町、大玉村、三春町)に避難せずに在住している親子(6130世帯、6130人の子ども)を対象に「納得して自己決定できる環境をいかにつくるか」をテーマに行った。2013年1月、2014年1月、2015年1月の3回にわたる調査である。 成教授は、この地域は避難指示区域に隣接し、「健康影響の不確実性の高い地域」であり、リスク認知や対処行動の違い、補償格差などによる社会的な軋轢が生じやすいと考え、「目に見えない被曝がもたらす影響を可視化する」必要があると考えたと言う。
そこで、事故時に2歳前後で外遊びが本格的に始まる年齢(2008年4月2日から2009年4月1日までに生まれた全員)を対象とし、第1回は2628人(42.4%)から、第2回は第1回で回答してくれた親子を対象に1604人(61%)から、第3回は第2回で回答した親子を対象に1204人(75%)から回答があった。
調査の結果、以下のような3つの傾向が見られるという。
1.地元産の食材は使わない、洗濯物を外に干さない、できることなら避難したいと考える人は減っているものの、未だ25%以上の人に見られる意識である。
2.放射線量の低いところに保養にでかけたい、福島で子どもを育てることへの不安、補償をめぐる不公平感、経済的負担は高止まりし50%以上の人に見られる意識である。
3.放射線への対処をめぐる配偶者、両親、近所の人との認識のズレを感じる人は低めではあるが変わらず続いている。
中京大学の成元哲(ソン・ウォンチョル)教授(筆者撮影) |
成教授は、全体的に「回復」しつつあるが、「終わらない被災の時間」が続いていると結論した。また、経済的負担感を軽減する、放射能への対処を巡る認識のズレを軽減する、保養/避難を選できる環境にする、福島での子育て不安、健康不安を軽減する、補償を巡る不公平感を軽減するなどの施策が必要であるとの提言で報告を結んだ。
「悩みや不安を自由に話せる関係を広げて」
シンポジウムでは被災当事者として福島県在住の押山靖子さん、京都へ避難した加藤凛さん、千葉県松戸市から三重県に避難した脇ゆうりかさん、神奈川に避難中の坂本建さんが当事者として、それぞれの体験をもとに発言した。放射能からこどもを守ろう関東ネット共同代表の脇ゆうりかさん(筆者撮影) |
山口大学人文学部の高橋征仁教授は、原発事故被害についての過小評価、騙しのテクニックについて社会心理学的な解説を行った。
「アンカリング」とは事前知識のない人々の推論を、最初に提示する情報で大きく歪曲させるテクニックだ。たとえば100mSv安全神話、実際には法律で1mSv。たとえば甲状腺ガンだけ注目するが、実際には心筋梗塞や白血病が生じる可能性はありうる。
「ドア・イン・フェイス」は膨大な要求をした後に譲歩して相手を納得させるテクニック。最初は100mSvと言って20mSvに基準を下げて納得させようとすることを例に挙げた。
「傍観者効果」は曖昧な状況では周囲の人が多いほどリスクに鈍感になること。他人の目を気にして緊急行動ができなくなる。生活し続ける高齢者を見たり、絆を唱えればリスク判断が甘くなるなどだ。
高橋教授は、こうしたテクニックは放射線被曝については常に行われてきたとし、悩みや不安を自由に話せる関係を広げていくことが人間社会の安全保障だと述べた。
山口大学人文学部の高橋征仁教授(筆者撮影) |
国会は3つの線引きによる被災者の分断を解消するため、自ら行政機関へ指示した「原発事故子ども・被災者支援法」による施策の実施に向け、政治的イニシアティブを取るべきである。
(まさのあつこ)
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