毎日新聞 2015年05月17日 東京朝刊
http://mainichi.jp/shimen/news/20150517ddm041040030000c.html
東京電力福島第1原発事故の避難区域外に住む福島県の母親を対象に、今年ま
で3年連続で行われたアンケートで、「地元食材の不使用」などの回答が大幅に
減る一方、行政の対応への不満や補償の不公平感は高止まりしていることが分か
った。放射線被ばくに関する情報が正しいかどうかについては約7割の母親が不
安を感じていた。アンケートを実施した専門家は「不安や不満の解消に向けた具
体的な支援が必要だ」と指摘している。
◇避難区域外、研究者調査
調査は「福島子ども健康プロジェクト」と銘打ち、水俣病の追跡調査などを手
がけた中京大の成元哲(ソンウォンチョル)教授(社会学)らの研究グループが
実施。2013〜15年に毎年1回、避難指示区域に指定されなかった福島県中
通り地域の福島市や郡山市など9市町村で、08年度に生まれた子供6191人
の母親を対象に質問票を送った。住民基本台帳を基にしており、住民票を移して
いない自主避難者も含まれる。13年は2628通、14年は1604通、15
年は3月4日時点で1184通の回答があった。
質問は、約40項目で子供の健康や生活状況、避難願望や地元食材を使うか否
か、放射線を巡る周囲との認識のずれなどを聞いた。
その結果、日常生活で放射線被ばくへの懸念を示すとみられる「地元食材の不
使用」は、「当てはまる」と「どちらかと言えば当てはまる」の合計が13年の
50・2%から15年は28・4%と大幅に低減。「洗濯物の外干しをしない」
も13年の44・9%から15年は32・3%まで下がっていた。
一方、健康影響や子育てへの不安、経済的な負担への不満については、低下は
しているものの15年でも5割を超えた。避難指示区域内からのいわゆる強制避
難者との補償の不公平感については3回とも7割超で、高いまま推移。また、放
射線被ばくを巡る夫や両親、周囲との認識のずれについて「ある」と答えたのは
おおよそ2〜3割だが、これも3回の調査であまり低下していない。
国や東電、福島県、地元市町村の事故対応への評価は「評価しない」と「あま
り評価しない」を合わせると、3回の調査とも国と東電は約8割、県と地元市町
村は約6割に達していた。これにより研究グループは、不安や不満の背景にある
信頼感の欠如が裏付けられたとしている。
成教授は「母親たちが日常生活で放射線の影響を気にし続けることに疲れてい
る。あきらめや慣れもあるだろう。一方で不安や不信は慢性化している。国や県
が『安全』『安心』といくら説明しても効果はない。補償の上乗せなど、当事者
の意向に沿った具体的な施策を検討すべきだ」と話している。
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◇福島の母親アンケート 主な結果
2013年 14年 15年
東電の対応を評価しない
88.0 88.1 78.7
福島県の対応を評価しない
66.9 65.0 61.2
市町村の対応を評価しない
64.9 58.5 66.0
経済的負担を感じる
70.4 65.2 58.8
健康影響への不安
79.5 63.7 58.4
子育てへの不安
71.8 60.3 50.9
情報不安(放射線に関し、どの情報が正しいか分からない)
−− 75.4 69.7
洗濯物を外干ししない
44.9 36.4 32.3
配偶者との認識のずれ
18.8 21.1 17.3
両親との認識のずれ
24.5 25.8 20.8
周囲との認識のずれ
29.9 28.0 23.0
※単位は%。情報不安の項目は14年から追加。いずれも4段階評価で、その
うち「当てはまる」と「どちらかと言えば当てはまる」との趣旨の回答を合算
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