2015年5月19日 OurPlanetTV
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東京電力福島第一原子力発電所事故に伴い、福島県内で実施している県民健康調査の検討会が18日、福島県内で開催された。事故当時18才以下の子どもを対象に実施している甲状腺検査で、悪性または悪性疑いと診断されているのは10人増えて126人となり、そのうち103人が手術によって甲状腺がんと確定した。また原発事故以降、同検査を担当してきた鈴木眞一教授が県立医大の放射線医学県民健康管理センターの甲状腺検査責任者を退任したことが公表された。
先行検査結果
前回2月から3ヶ月ぶりに開催された検討委員会。2011年10月〜2013年度までの間に実施された甲状腺検査の「先行検査」の結果、2次検査の穿刺細胞診で悪性または悪性疑いと診断されたのは、前回の結果より2人多い112人。いわき市が1人、会津若松市が1人増えた。
手術例は99人で前回より12人増加。術後の組織診断により、95人が乳頭がん、3人が低分化がん、1人が良性結節と確定診断を受けた。男女比は、男性38人、女性74人。平均年齢は17.2才で、最年少は事故当時6才の女の子。また腫瘍の大きさは、平均14.2ミリで、最も小さい腫瘍は5.1ミリ、最大は45ミリだった。
本格検査結果
一方2014年度〜2015年度にかけて実施されている「本格検査」では、検査結果が確定した12万2000人のうち、2次検査を必要とされたのが1,043人。このうち穿刺細胞診断を受診した43人のうち、悪性または悪性疑いの判定となったのは、前回の8人から7人増えて15人へ増えた。自治体別に見ると、南相馬市1人、伊達市1人、福島市4人、二本松市1人の増加となる。
この15人のうち、1巡目の検査ではA1判定だった人は8人、A2判定だったのは6人で、B判定は1 人だった。腫瘍の大きさは平均9.1ミリ。最も小さな腫瘍は5.3ミリ、最大は17.3ミリだった。先行検査から本格検査までの2年間で、最大10ミリ以上、腫瘍が成長したケースがあると見られる。性別は男性 6 人、女性 9 人で、平均年齢は16.8才。最年少は、事故当時の6才だった男の子。
被ばくか過剰診断のいずれか
こうした結果について、甲状腺評価部会は検討委員会に中間とりまとめを提出した。同とりまとめでは、これまでの検査結果は「地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い。 」と指摘。その理由としては、「被ばくによる過剰発生か過剰診断のいずれか」が考えられるとした。
評価部会は、これまでに発見された甲状腺がんが被ばくによるものかどうかを結論づけることはできないとしながらも、「被ばく線量がチェルノブイリ事故と比べてはるかに少ないこと」「 事故当時 5 歳以下からの発見はないこと」などから、放射線の影響とは考えにくいと結論づけた。
甲状腺検査に伴う保護者の不安は
甲状腺検査に関して、県立医大は2013年 12 月5 日以降、相談窓口を設けている。先行検査に関して、今年3月31 日までの間に相談やサポートを実施したのは276 人。その内訳は、初回受診時 145回(22.2%)、2 回目以降受診時 156 回(23.9%)(うち穿刺吸引細 胞診時 53 回(8.1%))、インフォームドコンセント時34 回(5.2%)、保険診療移行後のフ ォロー(術前術後を含む)218 回(33.4%)、入院中 88 回(13.5%)、その他 11 回(1.7%) と、甲状腺がん手術や入院中の相談や支援が全体の47%を占めた。
一方、本格検査開始以降では、410人に述べ 836 回の相談対応などをした。その内訳は初回受診時 413回(49.4%)、2 回目以降受診時 265 回(31.7%)(うち穿刺吸引細胞診時 55回(6.6%))、インフォームドコンセント時 12 回(1.4%)、保険診療移行後 のフォロー(術前術後を含む)125 回(15.0%)、入院中20 回(2.4%)、その他1回(0.1%) だった。本格検査ではまだ2次検査が進んでおらず、穿刺細胞診は54例、手術は5例だが、それでも、穿刺細胞診断時、保健診療後、入院中で200件24%を超えた。
鈴木眞一氏が退任へ〜臨床データの扱い課題
2011年の事故後から、福島県民健康調査の甲状腺検査を担当してきた福島県立医大の鈴木眞一教授は、甲状腺がんの治療に専念するために、同大学の放射線医学県民健康監理センターの責任者を退任したことが、記者会見で公表された。後任には、福島県立医大医学部教授の大津留晶氏が就任した。
大津留氏は、福島原発事故後、文部科学省の要請を受けて、長崎大学から放射線医療チームの団長として福島県に派遣された。同年10月、福島県立医科大学医学部の教授に就任。大津留は会見で「私自身は内科医なので、治療することはできないが、県民のみなさまには、わかりやすく説明することを心がけたい」と述べた。
ただ今日の検討委員会では、甲状腺がんの手術症例に関する詳細について、大津留教授はほとんど解答することができなかった。鈴木眞一教授が臨床部門、大津留教授は県民健康センターと分業が進んだ結果、手術症例に関する内容が、検討委員会や評価部会で議論することが難しくなる恐れがある。
県民健康調査課の小林弘幸課長は会見終了後、保健診療以降の臨床データについて「この部分の説明は県立医大の業務委託には入っていない。データは県立医大のもの」と述べた。小林課長は第4回「甲状腺検査評価部会」で「データは県のもの、県民のものだと思います」と明言していただけに、大幅に後退した格好だ。
検討委員の改選
同検討委員会の任期は、今年5月23日まで。県は改選について、これから検討すると述べる一方、基本的に現在の委員に就任してもらうつもりであるとの考えを示した。
津田敏秀岡山大学教授の話
2巡目の本格検査で悪性・悪性疑いと診断された15例は全員先行検査を受診している。先行検査からの期間を3年間、第1次検査確定数121,997人を分母とし、全国平均約100万人中3人という発生率と外部比較すると、13.66倍(95%信頼区間:7.65倍-22.53倍)と統計的に有意な多発と言える。
これは、検査結果が確定している約半数だけからの結果から推定したもの。つまり、現在検出されている2次検診対象者1,043人のうち、結果が確定しているのは2次検診受診者数593人中491名(47.1%)だけである。この時、まだ第2次検査の進んでいない残る578人からは、1人もがんが発生しないという前提でも以上のように13倍を超える統計的に有意な多発となっている。
さらに、これから1次検査を受診する219,333人全員から、新たに一人の甲状腺がんも検出されなかったと仮定しても、7.60倍(95%信頼区間:4.25倍-12.53倍)の統計的有意な多発となる。
スクリーニング効果というのは、原発事故以前から事故と関係なく存在した、ゆっくり大きくなるあるいは大きくはならないがんを持つ症例を、スクリーニングによって見つけてしまい、結果的に見かけ上だけの多発を引き起こす効果のことである。しかし、そのような症例は、2巡目の検診結果が出始めている現在、1巡目の検診によりほとんど検出されてしまっていることが期待できるので、2巡目で認められる現在の13倍を超える多発に関しては、スクリーニング効果による説明を用いることができない。従って、「スクリーニング効果による多発」という説明は否定される。
甲状腺評価部会では、「過剰診断」の可能性を指摘しているが、スクリーニング効果以外の過剰診断や過剰診療という説明の根拠はまだ全く示されていないので、その説明に対するコメントは私の方からはできない。しかし、過剰診療を確認するためには、現在の診療をやめることが必要である。従って、その決断を下せないのであれば、いたずらに過剰診療を指摘して、福島県立医大病院の診療行為への不信感をあおるべきではない。
福島県立医大の説明によれば、日本癌治療学会による甲状腺腫瘍診療ガイドラインに沿った治療がなされており、福島県立医大による手術症例の成績では、そのような過剰診療が大規模に行われた知見とは見なせない。過剰診断や過剰診療が行われていると主張するのであれば、現在の診療を全部、あるいは半分の症例に関してやめることを主張するか、少なくとも福島県立医大の症例や手術記録の収集、診療の立ち会いなどの調査を行い、裏付けを取ってから主張するべきである。証拠がない以上、思いつきのレベルを超えることができない。
現在問題となっている甲状腺がんは、不可逆的な侵襲引き起こす疾患である。このような疾患の問題の際には、根拠の揃っていない過剰診療によるものか、根拠が十分に出そろってきている被ばくによる過剰発生か、二者択一の因果議論だけを水掛け論のように延々と続けるべきではない。保健医療問題においては因果関係と対策とは連動している。過剰診療を疑いつつその調査をしながらも、その一方で、被ばくによる多発も重視し、早急に対応しなければならないというのが、人体被害や経済的損失の最小化を目指す公衆衛生的対応としての基本であり現実的対応である。
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