2015/06/10

福島の避難解除 先走った案は混乱招く

2015/06/10 北海道新聞 社説
http://dd.hokkaido-np.co.jp/news/opinion/editorial/2-0026803.html


原発事故の避難者をさらに翻弄(ほんろう)しかねない。いたずらに先走った案は混乱を招く。

東京電力福島第1原発事故で避難が続く「居住制限区域」と「避難指示解除準備区域」を2017年3月までに解除する提言を自民党がまとめた。

5万5千人が対象になる。区域設定時、2年ほどの居住で、がん死亡率が増える100ミリシーベルトを被ばくする高汚染地域があった。

環境省の除染は避難解除までに終わらせる予定だが、対象は住宅の周りや道路など限定的で、作業は型通りに済ませるだけだ。長期目標はあるが、どこまで放射線量を下げるかも定まっていない。

除染完了後、安全を確認したうえで住民に意向を問い、解除の時期を決めるのが筋だ。

国際放射線防護委員会(ICRP)は原発事故の復旧期であっても、年間被ばく線量1~20ミリシーベルトのできるだけ低い値を目指すよう勧告している。

20ミリシーベルトでも高いのに、居住制限区域の設定は最大50ミリシーベルトだ。劇的に線量が減らせない限り、安心して暮らせる場所とは言えまい。

提言は、東電が両区域の避難者に1人月10万円支払っている慰謝料についても、17年度末に打ち切ることを求めている。

よもや、避難解除は金目の問題と絡んでいるわけではあるまい。

見逃せないのは、解除と同時に、帰還しない人は自主避難の認定に変わる恐れがあることだ。

慰謝料打ち切りだけでも酷なのに、福島県は自主避難者への住宅無償提供を16年度末にやめる検討をしている。

これでは健康面から帰還をためらう人たちを放り出すようなものではないか。意思に反した帰還を強いることにもなりかねない。

健康や安全を二の次にしたまま、帰還が政治的に進められる状況はあってはならない。

憲法が保障する居住の自由や、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を侵害することにならないか。政府・自民党や福島県の関係者は胸に手を当ててよく考えてみてほしい。

確かに避難が長引けば帰還を断念する人が増え、自治体のまとまりが失われる懸念はある。そうはいっても、自治体には住民の安全安心を預かるという大事な役割があることを忘れてはならない。

避難は、国策だった原発推進の結果である。何も落ち度がないのに辛酸をなめている理不尽さに、いま一度思いをいたしたい。

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