2015/07/03

【北九州震災がれき問題(上・下)】

”多くのメディアとネットを通じて、「放射能」恐怖症は今も日本を覆う。放射能恐怖症の患者は、被災地を「放射能で汚染されている」とおとしめ、放射線の影響を楽観的に評価する専門家に「御用学者」とレッテル張りをする。”とあまりのひどい書きぶりなので、あえてアップしました。確かに当初は、不安のあまり感情的になった人もいるでしょう。無理もありません。けれども「原発事故被災地」は、実際に汚染されているわけで、決して「おとしめ」ているわけではありません。土壌をベクレル測定すれば、福一由来の放射性物質が大量に含まれていることがすぐにわかります。また、EUの食品の基準がゆるやかなのは、現在、汚染地域ではないからです。輸入による汚染食品を規制する場合の基準と、汚染のある地域で設ける基準とでは、自ずと違って当然です。「御用学者」の楽観的な主張より、チェルノブイリ事故の29年後の現実のほうが信頼にたる情報ではないでしょうか。慎重に予防するために、やはり、できる被ばく対策はすべきだと思います。 子ども全国ネット)


【北九州震災がれき問題(上)】
地面に寝そべり、警察官に体当たり…「反原発」名の下のテロ行為

2015年7月3日  産経新聞
http://www.sankei.com/west/news/150703/wst1507030012-n1.html

平成23年3月の東京電力福島第1原発事故から4年あまり。福島をはじめ被災地では、復興の動きが加速する。だが、九州など被災地の外では、やみくもに放射線被害を強調する論調がいまだに幅を利かせている。「東北のがれきを燃やせば、放射能がまき散らされて、みんな病気になってしまう」。こんな根拠のない噂が飛び交った北九州市の「震災がれき受け入れ問題」から、「放射能」恐怖症ともいうべき病理が、どのようにまき散らされたかを探った。

「搬入トラックの列に車突入」…“成果”誇示する反対派


「何をするんですか、痛い痛い…痛いよマジで」
「責任とるんか! 健康被害を受けたら、あなた方が、全額保証するんですかぁ?」

24年5月22日。北九州市小倉北区西港町の不燃物保管施設「日明(ひあがり)積出基地」のゲート前で、40人の“市民”が集まり、市職員や警察官らと衝突する騒ぎが起きた。

この日、積出基地では午前9時から、宮城県石巻市の震災がれき80トンの搬入が予定されていた。被災地で焼却が間に合わないがれきを、北九州で処理できないかを決める試験焼却のためだった。

ゲート前で待ち構えた焼却反対派は、トラック前の地面、さらにトラックの下にまで寝そべり、搬入を阻止した。そのうち2人は、警備にあたっていた警察官に体当たりし、無線機を引き抜くなどして福岡県警に公務執行妨害容疑で逮捕された。後に起訴猶予処分となった2人は熊本と山口から来ていた。

こうした阻止活動によって搬入は予定より8時間以上遅れた。

 警察庁が中核派系と認定する「すべての原発いますぐなくそう!全国会議」(NAZEN)のメンバーは、このゲート前の行動について、中核派の機関紙「前進」(電子版)でこう書いた。
「トラックに体当たりをして止め、闘いの火ぶたを切り、さらにトラックの列の間に私たちの車を突入させ、トラックを完全にストップさせました。『やったぞ!』の歓声が上がり、市の環境局や警察はあわてふためいた」
「この闘いは、全国、否、全世界の反原発勢力、なによりも北九州市民に勇気と感動を与えたと思います。友人から『すごいぞ、よくやった』『お前たちの闘いは世界中に発信されているぞ!』というメールが何本も届きました」(平成24年5月24日付)

「中核派系」の団体が誇らしげに語る「反原発」を隠れみのにしたテロ行為は、市民の反対運動として、新聞・テレビで広く報道され、被災地の住民を大きく傷つけた。

怒る被災地


「俺たちは放射能汚染をされていねえ! ここで生活しているんだ!」
24年8月、北九州青年会議所(JC)理事長だった小田剛は、宮城県石巻市で罵声を浴びせられた。

酔っぱらった若者は当初、「どこから来たんですか?」と、親しげに声をかけてきた。小田が「北九州からですよ」と答えた途端、彼の表情は険しくなった。

小田が石巻市を訪れたのは、がれき処理をめぐり、「北九州市民の大半は、反対していません」という実情を伝えるためだった。ところが、現地ではすでに、「北九州は石巻を拒絶している」という風評が広がっていたのだ。
小田は若者の言動に、事態の深刻さを感じた。

北九州市が震災がれき受け入れの検討を表明したのは、23年6月だった。以来、反対運動はエスカレートの一途をたどった。

市議会には、受け入れに反対するよう求める陳情書が、市内外を含め100通以上、届けられた。市役所内では、反対派が連日、抗議活動を展開した。試験焼却前には、十数人の主婦がベビーカーに赤ん坊を乗せて市役所に押しかけ、職員を長時間、取り囲むこともあった。

こうした情報は、反対派自身によるネット中継や、メディアを通じて全国に伝わった。まるで北九州が賛否で真っ二つに割れているかのようだった。

市民調査「反対わずか6%」


「メディアは反対活動ばかり報じるが、本当に賛否が分かれているのだろうか」。小田らは違和感を覚えた。


24年3月、北九州JCは、市民約700人を対象に、がれき受け入れについてアンケートを実施した。結果は、がれき受け入れ賛成75%、反対は6%に過ぎなかった。
「北九州市民の思いを、石巻に伝えたかった。でも、メディアの影響力にはかないませんでした」。小田は悔しがる。

宮城県を拠点とする地方紙、河北新報の福島総局長、伊藤寿行は24年5月30日付朝刊のコラムで、がれき受け入れ問題について、こう記した。
「一部の人が騒いでいるだけなのだから行政も動じなければいいのに、声に負けて腰が折れる。東北に肘鉄(ひじてつ)を食わす知らせを耳にするたび、絆という美しい響きに酔いしれてばかりもいられない」


 
説明を追宮城県石巻市の震災がれきを搬入するトラックを囲む反対派
=平成24年5月22日、北九州市小倉北区


【北九州震災がれき問題(下)】
放射線の影響で骨折、物忘れ? 拡散した「根拠なきデマ」

2015年7月3日  産経新聞
http://www.sankei.com/west/news/150703/wst1507030032-n1.html


搬入をめぐって平成24年、反対派が大混乱を引き起こした北九州市の震災がれき受け入れ問題。当時、正確な情報が不足し、放射線への不安をもつ市民がいたのも事実だった。だが、がれき焼却で、環境や人体への影響は科学的に考えられないというのが、専門家の出した答えだった。

「分からない」を利用する反対派


北九州市は、がれき焼却にあたって、焼却場の煙突に有害物質除去装置「バグフィルター」を設けた。このフィルターは0・1マイクロメートルの微粒子を除去できる。灰の粒子の直径は平均数十マイクロメートル程度であり、仮に焼却灰に放射性セシウムが付着していても、99・9%以上を除去できる性能を有した。


試験焼却の結果、フィルターに付着した灰の放射性セシウムは最大1キログラムあたり77ベクレルだった。

地球上には放射性物質があふれている。われわれが日々口にする野菜なども放射性物質を含む。国の食品衛生法では、一般食品の放射性セシウム含有許容線量を1キログラムあたり100ベクレルとする。焼却灰はこの数値を大きく下回った。

ちなみに、EUでは食品の許容線量は乳幼児食品も含め400~1250ベクレルと、日本に比べ格段に緩やかだ。


北九州市内4カ所で計測した空間線量も、がれき受け入れ前と全く変わらなかった。

この結果を、反対派はどう考えているのだろうか。
「確かに数値は恐れていたのとは違いました。ですが、低線量の問題もありますよ。今でも懸念しています。潜伏期間を経て症状に現れる『晩発性障害』もあると専門の学者から聞きました。将来どうなるか分からないじゃないですか」
「門司の環境を考える会」会長の森下宏人(75)はこう語った。

森下は市議会にがれき受け入れを見直すよう陳情書を出した。また、今年6月末、沖縄・辺野古沖の基地建設のための埋め立て土砂の北九州での採取について、「戦争のために故郷の土砂を使わせてはならない」などと主張し、反対する会を設立した。

森下が言う通り、確かに低線量被曝(ひばく)が、発がんなど、長期間を通じて人体に与える影響は分かっていない。というのは、あまりにも影響が小さく、統計的に意味のあるデータが取れないから「分からない」とするしかないからだ。

反対派はこの「分からない」を利用して不安をあおり、それをメディアが報じるという構図が続く。

あおられる不安


ネット上でも、がれき処理は話題となった。

試験焼却が始まれば、ツイッターなどに、健康被害を訴える書き込みが散見された。
「昨日までと空気が全然違う。マスクを二重にするが、外にいるだけで、頭痛と動悸(どうき)がしてきた。目も痛い。喉(のど)の痛みも取れない」「大分でも小学校高学年の子供や大人が鼻血を出している」「息子と昼寝してる間に、ぶつぶつが腕にもできてた」

住民団体が市に提出した陳情書には、がれき焼却後の体調異変として、骨折、鼻血の多発、腰痛といったものから、くしゃみ、鼻づまり、ふけ症状、寝小便、物忘れなど、およそ放射線被害とは無縁で日常的な症状を大まじめに列挙されていた。

こうした根拠のないデマは拡散を続けた。多くのメディアとネットを通じて、「放射能」恐怖症は今も日本を覆う。放射能恐怖症の患者は、被災地を「放射能で汚染されている」とおとしめ、放射線の影響を楽観的に評価する専門家に「御用学者」とレッテル張りをする。

社会学者の開沼博は、数多くのデータから冷静に「福島像」を描いた「はじめての福島学」(イースト・プレス社)の中で、こう書く。

「『過剰に危険をあおるのは間違っている』と言うと石を投げられる状態が、3・11後、ずっと続いてきた」「逆に、『問題があるに違いない』『危険をあおる必要がある』という立場に立つことで、『正義』『倫理』の側にいる者として、カリスマ視される傾向もあります」

この結果、国の根幹をなすエネルギー問題や、被災地の復興まで、冷静な議論ができない。原発事故から4年あまり。この状態から一刻も早く脱却しなければならない。
(敬称略)

【用語解説・北九州がれき焼却問題】平成24年3月、北九州市議会は、放射能測定の体制を整えることなどを条件に共産党も含め全会派一致で宮城県石巻市の震災がれきの受け入れを求めた。石巻市には当時、通常の100年超分といわれるがれきが、学校校庭や住宅建設予定地などに山積みになり、復興の妨げとなっていた。北九州市議会は6月に正式に受け入れを表明し、同年9月~25年3月の間に計2万2600トンのがれきを焼却した。

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