2015年10月23日 信濃毎日新聞社説http://www.shinmai.co.jp/news/20151023/KT151022ETI090006000.php
東京電力福島第1原発事故の収束作業で被ばくした後、白血病を発症した男性が、厚生労働省に初めて労災認定された。
東電によると、事故後に同原発で作業に当たった人は今年8月末までに約4万5千人。労災の認定基準の「年間の被ばく線量5ミリシーベルト以上」に当たる作業員は約2万1千人に上る。
白血病の発症要因はさまざまで、認定のハードルは高い。申請をあきらめる人も少なくない。
収束作業は危険性が高く、終了時期も見通せない。今後、発症する人が増える可能性がある。労災制度の周知と、国による手厚い補償が欠かせない。
今回の認定は、作業員の救済体制を充実させる第一歩にすぎない。作業員が契約期間を終えて現場を離れた後も、国と東電は検診などで長期的に健康管理し、発症した場合は補償していくべきだ。
課題はほかにも多い。労災の認定基準があるのは白血病のみだ。
厚労省は事故後、胃、食道、結腸、ぼうこう、咽頭、肺の6種類のがんについて、「累積の被ばく線量が100ミリシーベルト以上」で発症するリスクが高まるとの検討結果を公表。労災補償する「考え方」を示しているものの、労災認定の明確な基準にはなっていない。
申請があった場合、認定作業が混乱する可能性がある。これまでに8人ががんで労災を申請したものの、3人は認められず、1人は申請を取り下げた。9月には胃がんなどを発症したのに労災認定されなかった元作業員が、東電に損害賠償を求め提訴している。
早急に基準を整備するべきだ。その際には基準が適正かどうか、ほかのがんの危険性はないのか、もう一度検証することが必要だ。
作業員の安全管理を徹底することも求められる。
国は労働安全衛生法に基づき、原発作業員の被ばく線量の上限を「5年で100ミリシーベルトかつ年50ミリシーベルト」と定めていた。事故後にはこの基準では作業員の確保が難しくなるとして、特例で限度を累積250ミリシーベルトに引き上げた。
英医学誌には最近、欧米の原子力施設で働く30万人を対象にした疫学調査の結果が発表され、100ミリシーベルト以下の低線量被ばくでも線量に応じ、死亡リスクが増えるとされた。
作業員の被ばく線量は会社が管理手帳に記録し、管理しているけれど、ずさんさを指摘する作業員は多い。東電や関連会社は現場の被ばく線量の低減対策に取り組むことが欠かせない。
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