2015年11月21日 毎日新聞
http://mainichi.jp/area/fukushima/news/20151121ddlk07040343000c.html
「国や東京電力の責任に対する考えは一致したが、抗議したことに理解は得られなかった」。浪江町の馬場有町長は20日、原発事故の汚染牧草を町内の牧場に搬入した宮城県白石市との会談を振り返り、不満をあらわにした。
白石市は先月末から今月中旬までに、浪江町の「希望の牧場・ふくしま」が研究目的などのために飼育している牛のえさとして、市内の農家などで保管していた指定廃棄物の基準(1キロ当たり8000ベクレル)に達しない全ての汚染牧草約500トンを搬入した。
同市役所での会談は約45分間で、大半は非公開で行われた。馬場町長は終了後の記者会見で「出荷されない牛のえさなので問題はない」などとする白石市側の説明を「納得できない。事前に連絡があれば理解できるが、やみくもにされた。行政には行政のルールがある」と批判した。
対する白石市の菊地正昭総務部長は「市内の農協から飼料を浪江町の農家に持って行くときに町に連絡はしないのと同じこと」と述べ、あくまで牛のえさとして提供したとの立場を譲らなかった。
市にはメールや電話で今回の対応を評価する意見が92件寄せられ、批判的な意見は1件だけだという。菊地部長は「4年8カ月もたって汚染牧草が残っている。その根本の原因はどこか。大きい小さいはあっても、私どもも被災県だ」と、国や東電に対する不満を改めて示した。
一方、希望の牧場の吉沢正巳代表はこの日、宮城県庁を訪れ県内の汚染牧草や稲わらの自治体による提供を認めるよう要望した。宮城県は復興を進める福島県の立場を考慮して認めなかったという。記者会見した吉沢代表は「白石市の例を見て、あちこちの自治体が関心を示している。自治体がいつまでも片付かない汚染ロールにけりを付けようと動く時期が来る」と期待を示した。
宮城県畜産課によると、県内で保管されている指定廃棄物の基準以下の汚染牧草は約1万8000トン。生活ゴミなどと混ぜて焼却する「混焼」や、土に混ぜ込む「すきこみ」などで処分するよう県や市町村が調整している。しかし、処分を終えたのは利府町だけで、仙台市が今夏ようやく焼却を始めた。白石市も近隣市町とともに混焼すべく協議していたが、調整が難航していたという。【川口裕之】
◇希望の牧場、今年は宮城から8割 汚染牧草、毎年4000ロール提供
希望の牧場を支援する東京の非営利一般社団法人によると、宮城県の個別農家からの汚染牧草の提供は、原発事故が起こった2011年から続いている。毎年4000ロールを目標に牧草を集めているが、今年は宮城が「8割ぐらい」を占めるという。他に福島県内、栃木県からも運んでいる。
馬場町長が宮城県南部の白石市に抗議した20日、同県北部の栗原市では繁殖牛農家、菅原実悦さん(67)が保管する汚染牧草の一部約5トンを希望の牧場へ向けて搬出した。
菅原さんは牧草地を借りて汚染牧草193ロール、36トン以上を保管してきた。大半は飼育する牛のエサにするために近隣の農家から集めたものだが、その後、国が定めた飼料の暫定許容値1キロ当たり100ベクレル超であることが分かった。
菅原さんは今回の搬出について「同じ牛農家として、(与えるえさが無く)困っている福島の農家を応援したいと前から思っていた。事故から4年もたつのに保管は続いており、行政に対する抗議の意味もある」と憤った。【山田研】
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