http://diamond.jp/articles/-/81807
『原子炉時限爆弾』で、福島第一原発事故を半年前に予言した、ノンフィクション作家の広瀬隆氏。
壮大な史実とデータで暴かれる戦後70年の不都合な真実を描いた『東京が壊滅する日――フクシマと日本の運命』が増刷を重ね、第6刷となった。本連載シリーズ記事も累計281万ページビュー(サイトの閲覧数)を突破し、大きな話題となっている。
このたび、新著で「タイムリミットはあと1年しかない」とおそるべき予言をした著者と、OurPlanet-TVの白石草(はじめ)氏が初対談!
白石氏は、『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』(岩波書店)で、具体的な固有名詞や数値を出しながら、1986年に起きたチェルノブイリ原発事故のその後を詳細にレポートした。
また、OurPlanet-TVでもフクシマ原発事故に関する数々の映像を日々公開している稀有な女性だ。
そんな折、8月11日の川内原発1号機に端を発し、10月15日の川内原発2号機が再稼働。そして、愛媛県の中村時広知事も伊方原発の再稼働にGOサインを出した。
本誌でもこれまで、36回に分けて安倍晋三首相や各県知事、および各電力会社社長の固有名詞をあげて徹底追及してきた。
スベトラーナ・アレクシエービッチ著『チェルノブイリの祈り』がノーベル文学賞を受賞した今、白石氏がチェルノブイリとフクシマの現地で把握した事実と科学的データはあまりにも重い。
安倍政権によって、真実の声が次々消される中での対談1回目をお届けする。
(構成:橋本淳司)
インターネットメディア
「OurPlanet-TV」とは?
広瀬 隆(Takashi Hirose)
1943年生まれ。早稲田大学理工学部卒。公刊された数々の資料、図書館データをもとに、世界中の地下人脈を紡ぎ、系図的で衝撃な事実を提供し続ける。メーカーの技術者、医学書の翻訳者を経てノンフィクション作家に。『東京に原発を!』『ジョン・ウェインはなぜ死んだか』『クラウゼヴィッツの暗号文』『億万長者はハリウッドを殺す』『危険な話』『赤い楯――ロスチャイルドの謎』『私物国家』『アメリカの経済支配者たち』『アメリカの巨大軍需産業』『世界石油戦争』『世界金融戦争』『アメリカの保守本流』『資本主義崩壊の首謀者たち』『原子炉時限爆弾』『福島原発メルトダウン』などベストセラー多数。
広瀬 最初に、白石さんの獅子奮迅のご活躍に敬意を表します。
今日はまずはじめに、白石さんが主宰しているインターネットメディア「OurPlanet-TV」の活動についてくわしくお聞きしたいのですが、もともと白石さんは何をされていたのですか?
白石 最初はテレビ朝日の報道局で技術の仕事をした後、MXテレビに入社し、いわゆるビデオジャーナリストをしていました。
2001年9月11日に、アメリカ同時多発テロ事件が発生し、大手メディアが次々に米国のアフガン空爆を容認する姿勢を示す中で、インターネットを活用した独自のメディアを立ち上げたいと考えました。それが「OurPlanet-TV」です。
広瀬 テレビ報道のプロだったのですね。その人がドロップアウトして、フリーで活動しようと決意されたきっかけは、世界貿易センタービルが崩壊した9・11事件だったのですね。
その後、最も印象に残っている事件は何ですか。
白石 フクシマ原発事故の前ですと、2004年のイラク人質事件です。
高遠(たかとう)菜穂子さん、今井紀明さん、郡山総一郎さんがイラクの武装勢力に捕まったとき、家族や友人のインタビュー取材をインターネットで配信しました。
また、映像素材をピースボートの吉岡達也さんがカタールのアルジャジーラに運んで、現地で放映してくれました。
「自衛隊についての考え方は、日本政府と日本人は同じではない。米国によるイラクへの武力攻撃に賛同せず、自衛隊の撤退を望む日本人は少なくない」というメッセージを発信したのです。
それが、人質解放に結びついた1つの要因と言われていますので、3人が解放されたときは本当にほっとしました。
白石 草 (Hajime Shiraishi)
早稲田大学卒業後、テレビ局勤務などを経て、2001年に独立。同年10月に非営利のインターネット放送局「OurPlanet-TV」を設立。一橋大学大学院地球社会研究科客員准教授。2012年に「放送ウーマン賞」「JCJ賞」「やよりジャーナリスト賞特別賞」、2014年に「科学ジャーナリスト大賞」をそれぞれ受賞。著書に『ルポ チェルノブイリ28年目の子どもたち』『メディアをつくる――「小さな声」を伝えるために』(以上、岩波書店)、『ビデオカメラでいこう――ゼロから始めるドキュメンタリー制作』(七つ森書館)などがある。
広瀬 ちょうど私がアルジャジーラとやりとりしていた頃です。
私の名前が向こうのサイトに出てしまい、驚いたのですが、白石さんのことは知りませんでした。
白石 もちろん原発問題も関心を持って取り上げていました。
2011年2月21日に、中国電力が夜の闇にまぎれて船を出し、山口県にある上関(かみのせき)原発の工事を強行しようとしていました。
その海上阻止行動の模様を現地から中継する人たちが出てきたので、私たちは彼らと協力し、日々リポートを流しました。
広瀬 私が瀬戸内海に浮かぶ祝島(いわいしま)に初めて行ったのは、もう25年以上前ですが、あそこの反原発の闘いは日本一ですよね。
天然記念物のカンムリウミスズメ、世界最小の鯨スナメリ、ハンドウイルカが生きている自然の宝庫を守ろうと、祝島の海上阻止行動はたいしたものです。沖縄と同じです。
白石 ところが、その上関原発の工事強行がちょうど山場を迎える中で、東日本大震災が発生し、フクシマ原発事故が起こったのです。
私たちは、事故から10日ほど経った、2011年3月23日に、広瀬隆さんと広河隆一さんの講演会の様子をインターネットで配信しました。
そのときには広河さんが飯舘村(いいたてむら)の汚染についてデータを用いて説明し、また広瀬さんは福島に入っている専門家がどういう人物なのかを解説してくれました。内容的にはとても怖かったのですが、その中継は国内外からもの凄いアクセスがあり、大反響でした。
当時、テレビでは「大丈夫」としか言わない専門家ばかり出ていましたし、原発はまだメルトダウンしていないことになっていました。
城南信金前理事長インタビューが
10万PV突破
広瀬 マスメディアは、本当にひどい時期でした。
でも、あの講演会の日は、福島からの放射能が大量に襲いかかっていたときで、東京でも雪が舞って、みんな被曝したのです。私はあの日からしばらくして、体調が悪くなりました。
そのあと、このダイヤモンド書籍オンライン第32、33、34、35、36回で連載した、城南信用金庫の理事長だった吉原毅(よしわらつよし)さんを有名人にしてくださったのが白石さんですね。
白石 2011年4月1日に、吉原さんが理事長だった城南信用金庫のホームページに、「原発に頼らない安心できる社会へ」というメッセージが掲げられ、原発を止めるための大規模な節電キャンペーンを開始しました。
あとから聞いた話ですけど、新聞記者やテレビ局に声をかけ、取材を受けたそうですが、どの新聞にもまったく記事が掲載されず、テレビ局も録画撮りまでしたのに、ボツになっていたそうです。
そんなときに私が、城南信用金庫の「脱原発宣言」を知り、すぐに取材を申し込みました。
吉原さんのインタビューは短いものでしたが、本当に素晴らしい内容で、動画がアップされるとツイッターで拡散され、10万PV(ページビュー:サイトのアクセス数)を突破しました。ネット上で大きな反響を呼びました。
広瀬 2012年の「正しい報道ヘリの会」では、国会周辺のデモを撮影するときに白石さんがヘリに乗ってくれましたね。
白石 私がレポートしたのは、2回目の2012年7月29日です。
広瀬 みんなが国会前の道路にドッと出たときに、白石さんが「歴史的な瞬間です! 歴史的な瞬間です!」と興奮して叫んでいたことをよく覚えています。
白石 事故前は、OurPlanet-TVは、知る人ぞ知るというメディアでしたが、事故後は多くの人が見てくれるようになりました。一般の方々のメディアリテラシー、つまりメディアを見る目も、事故後、大きく向上したと感じています。
大手メディアがきちんと事実を伝えてないことがあるという感覚は、それまでの日本にはありませんでした。なにしろ、日本は新聞やテレビへの信頼度が世界一高いのです。それが原発事故や安保の報道を通じて着実に変わってきました。マスコミは信用ならないぞ、と。
広瀬 変えてくれたのは白石さんやIWJの岩上安身(いわかみやすみ)さんです。
実は、私はYouTubeって何? という人間だったので、まったくそうしたインターネットの画像メディアを見たことがなかったのです。日本のインターネットは、ウソと間違いが多いので、まったく信用していませんでした。インターネットは、海外の新聞記事だけを使っていた人間なので。今でもツイッターもフェイスブックも使いません。
私はフクシマ原発事故のあと、300回くらい講演したけれど、日本中どこの会場に行っても、OurPlanet-TVかIWJのどちらかがいて、全国中継してくれるので、ようやく白石さんたちに気づいたのです。すみません。
現在は、どの問題に一番関心がありますか?
『美味しんぼ』鼻血事件と
鈴木元教授の問題発言
白石 最大の問題は、被曝です。
被曝問題がタブー視されていて、取り扱うとバッシングされます。
2014年4月に、雁屋哲さんが人気マンガ『美味(おい)しんぼ』で「福島に行ったら鼻血が出た」などと、被曝と鼻血について書いたとき、政府やメディアの示した対応が、私には衝撃的でした。
逆に、たかがマンガに対して、あそこまで強く否定するということは、触れられたくない何かがある、と確信しました。
広瀬 私も驚きました。
『美味しんぼ』の問題が起こる直前に、私は月刊誌「DAYS JAPAN」で、「事故から3年すぎた今も、福島県の住民を全員、別の場所に疎開させたいと思っています。それには、県内の住宅をすべて破壊するほかないかもしれません。住宅をすべて破壊すれば、福島県民から殺されるかも知れませんが、県民の命を守るためにはむしろ、私はそれを望みたいくらいです。これから県内で起こる出来事が、正視できないレベルになる前に……福島の人を被曝させないために全員福島県から出したい」と、『美味しんぼ』と同じような内容を書いたのです。それには何の反応もありませんでしたが、あのマンガは影響力がすごいんですね。
白石 以前、テレビでもやっていましたし、単行本も数多く出ていますからね。私の場合、あのマンガがバッシングを受たことで、なぜ政府があれほど強く鼻血を否定したのかを調べました。
それでわかったのは、広島・長崎の原爆症をめぐる裁判では、脱毛、下痢、出血、鼻血という身体症状が、原告勝訴の決定的な証拠となっています。
つまり、フクシマでも、今後起きるであろう裁判で、こうした身体症状を主張されると政府に不利ですから、政府は声をあげさせない、記録させないと考えたのでしょう。
最近でも、長崎で被爆手帳をもらっていない地域の人たちの裁判が高裁で争われていますが、そこで「鼻血は出ない、脱毛しない」と言っている学者は、福島で「安全です。初期被曝は小さい」と主張している人たちです。同じ人間なのですよ。
たとえば、国の委託で初期被曝の線量を調査している国際医療福祉大学の鈴木元(げん)教授は、環境省の設置した専門家の会議で、
「福島での初期被曝は少ないから、甲状腺ガンにはならない」
「福島県外の人は検査する必要はない」
と、くり返し主張してきました。長崎の裁判でも、鈴木氏は脱毛などの症状は被曝の影響とは考えられないと、同じロジックで言っています。
原爆症認定訴訟の記録集にこんな記述があります。被爆者の発言です。ちょっと長いですが読み上げますね。
「私が一番腹がたったのは明石真言(まこと)氏の証言です。放医研の役職をもった人ですが、国側の証人になって出てきて、被爆後頭髪が抜けたのは神経のせい、下痢をしたのは衛生状態が悪かったんだと、法廷で繰り返しました。
明石証言は2008年の3月なんですが、これらの主張は30年近く前の松谷訴訟の時から国側が言っていることです。その後の裁判で最高裁にまで否定されているのに、繰り返し繰り返し同じことを言って、全然反省していません。
彼は被爆直後に行われた東大や京大、その他の大学の調査団がまとめあげた調査報告も、これは信用できないと平気で言う。その明石氏が今では福島原発で放射能の影響を否定する側で活躍しています。ああいう人をいまだに国の主要な証言者のスタッフに入れているというやり方は、国側の被爆被害に対する姿勢を露骨に表しているものだと思います。本当に腹立たしい。」
明石さんは現在、放射線影響研究所の理事ですが、福島原発事故後、緊急医療や被曝線量の評価について統括しています。
つまり、ヒロシマ、ナガサキの裁判で、被害者の訴えを退けている専門家が、フクシマでも同じように、健康影響を否定しているのです。そういう意味で、鼻血を否定したということはすごく罪深いことです。
実際に子どものことを心配していたお母さんたちは、そのあと、「体調が悪い」ということを言えなくなってしまったと言います。恐ろしいことだと思います。
「被曝はなかったこと」に
しようとしている!
広瀬 確かに明石真言は、2011年5月から「福島県民健康管理調査」の検討委員会の筆頭メンバーになって、福島県民の被曝は何も心配ないと発言してきました。
けれど、広河隆一さんが、チェルノブイリ原発事故の被曝者の症状を明らかにしているじゃないですか。そこに明記されているように、鼻血は典型的な被曝症状ですよ。
さらに問題なのは、フクシマ原発事故の場合、広大な範囲で多くの人が被曝者です。
福島だけでなく、茨城、宮城、栃木、群馬、東京、千葉、埼玉などの人も、大量に被曝しています。
それなのに、あたかも福島だけの問題、指定区域だけの問題のように矮小化している。
なぜ被害を隠すんだ?
だって、放射能が危険でなければ、原発が大爆発しても、私は原発の反対運動をしません。放射能被曝が危険だからこそ、みなが反対しているのです。
そこが原子力産業の最大の弱点だからこそ、彼らは隠そうとするわけです。それを白石さんが明らかにしてくださる。
白石 おっしゃるとおり、内部被ばくなどに起因すると見られる身体症状は、核実験がおこなわれた太平洋のマーシャル諸島でも、スリーマイルでも、チェルノブイリでも、そして広島・長崎でも発生しています。
岩波の「科学」2014年9月号に詳細を書いていますので、ぜひ読んでいただきたいです。
実際、私自身も、チェルノブリ原発事故を経験したウクライナに行って、調べてみましたが、特に学校の先生方は必ず「鼻血」の話をされます。
またウクライナでは、被ばくした子ども達のそうした身体症状や健康レベルの低下を把握するために、国の保健省が、子どもたちの身体状態をチェックするガイドラインを冊子にまとめ、専門医に配布していました。もちろん、チェック項目には鼻血が入っています。
そのほか、肌の色の変化、発疹、髪の毛、爪の異常、リンパが腫れているか、運動時にドキドキするか、吐き気、食欲、嘔吐、便通、おしっこの頻度など、さまざまな項目から健康レベルを確認します。
被曝の影響が関係していると思われる病気になった子は、いわゆる「チェルノブイリ障害者認定」を受けて、いろんな支援が受けられるのです。しかも、それを受けることをためらったり、認定を受けた子への偏見や差別は一切ありません。
広瀬 ウクライナは被曝を認めた上で、国をあげて健康を守ろうとしています。
日本は、その姿勢とまったく正反対です。
日本では「被曝はなかったことにする」という方針で、東京オリンピックのためにも、一切を闇に葬ろうとしています。
一刻も早く、危険地帯での賠償を打ち切ろうとしている現状は、人道上、絶対に許されることではありません。
安倍晋三は、人間以下のもの、つまり人非人です。あの男を、私は絶対に許しません。
次回は、「放射線と病気の関係報告書に、お墨つきを与えた山下俊一の正体」についてお話ししましょう。
(つづく)
0 件のコメント:
コメントを投稿