http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201511/20151112_63001.html
東京電力福島第1原発事故で全町避難が続く福島県浪江町の町長選は15日、投開票される。双葉郡8町村で最も人口が多く、住民約1万8800人が県内外で避難生活を送る。町は2017年3月以降の避難指示解除を目指すが、除染やインフラ復旧は当初の計画より遅れ、町の展望は描けていない。事故から4年8カ月。町が抱える課題を追った。
(福島総局・桐生薫子)
動物に荒らされた自宅に一時帰宅した中野さん=10日、福島県浪江町 |
10日前に閉めたはずの寝室の扉が開いている。床はふん尿でぬれ、異臭が鼻を突く。「また入られたか」。侵入したのはサルかイノシシか。
浪江町役場から北西に6キロ。立野中地区(72世帯229人)の農業中野弘寿さん(62)は10日、一時帰宅した。自宅は居住制限区域にあり、空間放射線量は庭先が毎時3マイクロシーベルト、茶の間でも1マイクロシーベルトといまだに高い。
「家屋解体も除染もいつになるのやら。こんな状態でどうやって帰れというのか」。足を踏み入れるたび、帰還意欲がそがれる。
中野さんが腹を立てているのは、国の意向が実態とそぐわないからだ。6月に閣議決定した新たな福島復興指針は、避難指示解除準備区域と合わせ、居住制限区域も17年3月末までに解除する方針を打ち出した。
町は解除見込みを「17年3月以降」と示すにとどめ、時期の明示に慎重姿勢を貫いてきた。比較的放射線量の高い居住制限区域の解除は見送られると想定されてきただけに、中野さんは「現場を知らない机上の空論だ」と憤る。
宅地除染が終了したのは全体のわずか2割。町の担当者には、現場の除染作業員から「現状では解除目標時期に間に合わない」と報告が上がっているという。
町南部の谷津田地区(97世帯320人)は北側を除いた3方を、除染が手付かずの帰還困難区域に囲まれている。
日中の立ち入りができる居住制限区域とはいえ、除染廃棄物を保管する仮置き場の整備計画も遅れている。地権者が仮置き場設置に同意した割合は町全体で9割を超えたのに対し、同地区は7割に満たない。
行政区長の原田栄さん(62)は「自宅を除染したとしても、高線量地区に囲まれた空間でどうして安心して生活できるだろうか」と不満を漏らす。
生活インフラも見通しが立たない。下水道は整備完了が17年度にずれ込み、今後開所予定の診療所も人材確保に苦戦している。原発事故前に町内で営業していた約1000事業所のうち、再開したのは22事業所にすぎない。
町長選の立候補者はいずれも無所属で、新人の元町議会議長の小黒敬三氏(59)と元副町長の渡辺文星氏(65)、3選を目指す現職の馬場有氏(66)。解除時期について、小黒氏は「除染やインフラ復旧が進まない中で議論すべきでない」と主張。渡辺氏は「不公平感が生まれないよう、時期を見ながら居住制限、避難指示解除の両区域を同時に解除する」とし、馬場氏は「段階的な解除も視野に入れて判断する」と訴える。
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