2016/03/22

本当に被ばくが原因? あらためて考える『美味しんぼ』雁屋哲氏の“鼻血問題”

2016年3月16日 ヘルスプレス
http://healthpress.jp/2017/03/post-2199.html

東京電力福島第一原発事故から5年が経った。いまだ論議される健康被害のなかでも、象徴的だったのがいわゆる“鼻血問題”だ。

累計1億冊を超える漫画『美味しんぼ』2014年4月28日発売の『ビッグコミックスピリッツ』誌に掲載された「福島の真実」というシリーズが社会に大きな波紋を呼んだ。

福島県を取材し帰京した主人公が、原因不明の鼻血を出したり、疲労感を覚えたりする……といった鼻血の描写に対し、掲載後、何万というクレームが殺到したのだ。

原作者である雁屋哲氏は、騒動がひと段落するまで沈黙を保ち続け、2015年2月に『美味しんぼ「鼻血問題」に答える』を発表。さまざま批判や反響の裏側、自身の体験について記した。

田村淳さんは自身の体験を語るがすぐに謝罪

鼻血問題については今年1月、日刊スポーツの連載で掲載された「原発問題。都合の悪い歴史こそ残そう」で、ロンドンブーツ1号2号の田村淳さんの次のコメントによって再び話題を呼んだ。

「実はボクも北茨城に行った次の日、朝起きたら、こんな量がでるのかってくらい、吐血!?って思うくらい、布団が鼻血まみれになっていたことがあったんです。北茨城に行って興奮していたのか、いきなり線量高いのに当たってそうなったのか、それはわからない…。今となっては調べようがないですからね。でも、だからこそ『美味しんぼ』のような話も、ボクはなくはないと思っていたんです。」

大きな反響を巻き起こしたが、田村淳さんはその後、同紙上で「この鼻血の表現の部分について、不確定な要素がありながら誤解を招くような表現をしてしまった」と謝罪を表明。いまだに“鼻血問題”がデリケートなテーマであることが露呈した。

『鼻血問題』に関して対談する雁屋哲氏(左)と西尾正道医師(右)

この“鼻血問題”とは何だったのか? 

2015年12月23日、一橋大学での講演「福島への思い★美味しんぼ『鼻血問題』に答える」では、雁屋氏の対談相手として北海道がんセンター名誉院長の西尾正道医師が登壇。二人は実体験を交えながら、医学的な考察を語っている。

鼻血は本当に出たのか?

取材のため福島に2年通ったという雁屋氏は、次のように語っている。

「福島での取材時、食事中に止めどなく出てきて、ティッシュの箱半分の紙を使いました。福島に行ってからというもの、疲労感もすさまじく2時間仕事をすると、それ以上続けられないといった状態。体調が落ち着いたのは福島を離れてずいぶん後になってからです。こんなことは初めてでした」

雁屋氏の証言に対し、西尾医師はこうコメントした。

「3.11の後、北海道がんセンターで1000人ほど内部被ばくを診ました。子どもを連れてきたお母さんが言うんです。『子どもが喉を痛がるし、鼻血が出る』とね。現実に事故直後、それまで鼻血を出したことのない多くの子どもが、鼻血を出しました」

「たとえば、福島県伊達市の保原小学校の『保健だより』には『鼻血を出す子が多かった』と通知されています。また『DAYS JAPAN』の広川隆一氏がチェルノブイリで25000人以上の避難民を対象にアンケートしたところ、5人に1人が鼻血を訴えたと報告している。そうした実例を知っていたので、“鼻血”へのバッシングに対して『いったい国や行政は何を言ってるんだ』と思いました」

空気中に飛散した粉塵からセシウム

鼻血と被ばくの因果関係については、西尾医師はこう説明する。

「事故当時、空気中には粉塵がたくさんあった(空気中の粉塵が多ければ、それだけで鼻血がでるという論文もある)。つくば気象研究所の人の測定データでは、3月15と21日にピークがあり、採取した0.5~2.5ミクロンの大きさの塵を放射線のイメージングプレートで見ると黒点がたくさん現れた。これは放射線そのもの。スペクトルメーターで測るとセシウムを出す微粒子でした」

「放射性浮遊物を呼吸で取り込むと、鼻腔、咽頭、器官、口腔粘膜を含めて広範囲に被ばくし、汚いものは繊毛運動で外に押し出そうとする。鼻の入り口近くのキーゼルバッハは最も静脈が密集していて、ここに放射性物質がたまり、影響を受けやすい子が出血しても不思議ではない」

政府が言うようにストレスが原因

「ストレスによって円形脱毛症、胃潰瘍、うつなどにはなりますが、政府が言うようにストレスが原因で鼻血が出ることはありません。『500msvの放射線量を浴びないと鼻血は出ない』と主張しますが、その場合、白血球、血小板、赤血球が減り、何より下痢をします」

「ところがあの当時、そんなたくさん放射能を浴びていません。鼻血は全身症状として出ているわけではないんです」

微量なのに「被ばく」は大げさか?

「セシウムなどの放射性物質が付着した塵やホコリを鼻に吸い込むと、付着した鼻腔内の粘膜で局所的に放射線を浴び続けることになる。私はこの原理を用いた放射線治療を長年行ってきました。放射線を出すラジウムやセシウムを用いて、患部に照射するんです」

「そのため、私の利き手(右手)は微量でも被ばくし続けてきたので、右手のほうだけ“こわばっている”んです」

西尾医師は、「事故後の急性期の影響がおさまって鼻血を出す人が少なくなったことから、鼻腔を診察したこともないと思われる専門家と称する学者たちが、政府や行政を巻き込み鼻血と放射線の影響を全否定しているにすぎません」と強調した。

(文=編集部)

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