2016/03/30

県民健康調査における中間取りまとめ/福島

2016年3月30 福島県
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kentoiinkai-chukantorimatome.html

平成23年度より実施している県民健康調査のこれまでの評価や今後の方向性について、各専門分野の有識者から構成される「県民健康調査」検討委員会において下記PDFのとおり取りまとめられましたので、お知らせします。

県民健康調査における中間取りまとめ [PDFファイル/279KB]


県民健康調査課 代表
〒960-8670 福島県福島市杉妻町2-16(西庁舎3F)  Tel:024-521-8219  Fax:024-521-8229  電子メールでのお問い合わせはこちらから




県民健康調査における中間取りまとめ 

平成 28 年 3 月 福島県県民健康調査検討委員会 

1.はじめに
本検討委員会は、福島県の実施する県民健康調査が十分な成果を収めるよう、またその調 査結果が県民・国民の信頼を得られるよう、さまざまな専門的見地から助言や提言を行うこ とを任務としている。 
この調査の開始から 5 年目という区切りの時期を迎え、これまでの調査により把握出来た こと出来なかったこと、得られた調査結果に対する評価等についての議論を経て、一定のま とめを行った上で明文化し次の段階に進むことが必要であると考え、今回、取りまとめるも のである。 

2.県民健康調査の目的について
本調査の目的は、本委員会設置要綱に次のように記されている通りである。
 「東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故による放射性物質の拡散や避難等を踏ま え、県民の被ばく線量の評価を行うとともに、県民の健康状態を把握し、疾病の予防、早期 発見、早期治療につなげ、もって、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図る。」 
この記述から、本調査は2つの目的を内包していることが分かる。すなわち第 1 に、事故 による被ばく線量の評価を行うとともに被ばくによる健康への影響について考察すること。 第2には、被ばくによるものであると避難等によるものとを問わず、事故の影響が県民の健 康に及ぶ事態を想定してその予防や治療に寄与することである。 

3.各種調査の結果と評価

 (1) 基本調査 

【調査結果の概要】 
事故後 4 か月間における外部被ばく実効線量の推計を実施。平成 27 年 12 月末現在、 回答数は、564,083 人、回答率は 27.4%、推計期間が 4 か月未満の方及び放射線業務従事 者を除く 459,620 人の推計結果は、最高値 25mSv、62.1%が 1mSv 未満、93.8%が 2mSv 未満、99.8%が 5mSv 未満となっている。なお、これまで得られている被ばく線量分布が 県全体の状況を正しく反映しているか否か、その代表性について検証する作業が行われた。

【評価・今後の方向性】
 ① 本調査で得られた線量推計結果や当時の行動記録は、事故後4か月間の外部被ばくに 限られたデータであるが、今後被ばくによる健康影響を長期的に見守っていく上での 基礎となるものである。
 ② 本調査で得られた線量推計結果(事故後4か月間の外部被ばく実効線量:99.8%が5mSv 未満等)は、これまで得られている科学的知見に照らして、統計的有意差をもって確 認できるほどの健康影響が認められるレベルではないと評価する。
 ③ 代表性の検証により、これまでに集計、公表している外部被ばく線量の分布が県民全 体の状況を正しく反映し、偏りのないものとなっていることが確認されたことから、 更なる回答率の向上を目標とするよりも、自らの被ばく線量を知りたいという県民に 対し窓口を用意するという方向にシフトすべきである。

(2) 甲状腺検査
 【調査結果の概要】 
平成 23 年 10 月に開始した先行検査(一巡目の検査)においては、震災時福島県に居 住の概ね 18 歳以下の県民を対象とし、約 30 万人が受診(受診率 81.7%)、これまでに 113 人が甲状腺がんの「悪性ないし悪性疑い」と判定され、このうち、99 人が手術を受け、 乳頭がん 95 人、低分化がん 3 人、良性結節 1 人という確定診断が得られている。[平成 27 年 6 月 30 日集計]

 【評価・今後の方向性】 
(甲状腺検査評価部会の中間取りまとめを踏まえ、本委員会として要約・整理・追加した。) 

◇ 先行検査(一巡目の検査)を終えて、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺 がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺が んが発見されている。
※1このことについては、将来的に臨床診断されたり、死に結び ついたりすることがないがんを多数診断している可能性が指摘されている。 
これまでに発見された甲状腺がんについては、被ばく線量がチェルノブイリ事故と比 べて総じて小さい※2こと、被ばくからがん発見までの期間が概ね 1 年から 4 年と短い こと、事故当時 5 歳以下からの発見はないこと、地域別の発見率に大きな差がない※3 ことから、総合的に判断して、放射線の影響とは考えにくいと評価する。
但し、放射線の影響の可能性は小さいとはいえ現段階ではまだ完全には否定できず、 影響評価のためには長期にわたる情報の集積が不可欠であるため、検査を受けることに よる不利益についても丁寧に説明しながら、今後も甲状腺検査を継続していくべきであ る。 

① 放射線被ばくの影響評価には、長期にわたる継続した調査が必須である。
② 事故初期の放射性ヨウ素による内部被ばく線量の情報は、今回の事故の影響を判断す る際に極めて重要なものであり、こうした線量評価研究との連携を常に視野に入れて 調査を進めていくべきである。
③ 今後、仮に被ばくの影響で甲状腺がんが発生するとして、どういうデータ(分析)に よって、影響を確認していくのか、その点の「考え方」を現時点で予め示しておくべ きである。 
④ 放射線の影響を受けやすいという観点からは、検査対象者の中で、特に、事故当時の 乳幼児における検査結果は重要なものである。
⑤ 県外への転出等が増加する年代に対する受診案内の確実な送付を徹底すべきである。
⑥ 個々の甲状腺がんの原因の特定は困難であるものの、集団として捉えた場合、二次検 査を受ける患者の多くは、今回の甲状腺検査がなければ、少なくとも当面は(多くは おそらく一生涯)、発生し得なかった診療行為を受けることになると考えられるため、 甲状腺検査を契機として保険診療に移行した場合の経済的負担を解消する施策は継 続すべきである。
⑦ 今回の原子力発電所事故は、福島県民に、「不要な被ばく」に加え、「不要だったかも しれない甲状腺がんの診断・治療」のリスク負担をもたらしている。しかし、甲状腺 検査については、事故による被ばくにより、将来、甲状腺がんが発生する可能性が否 定できないこと、不安の解消などから検査を受けたいという多数県民の意向もあるこ と、さらには、事故の影響による甲状腺がんの増加の有無を疫学的に検討し、県民な らびに国内外に示す必要があることなどを考慮しなければならない。 
⑧ 甲状腺検査については、県民の理解の促進を図り、受診者等の同意を得て実施してい くという方針の下で、利益のみならず不利益も発生しうること、甲状腺がん(乳頭が ん)は、発見時点での病態が必ずしも生命に影響を与えるものではない(生命予後の 良い)がんであることを県民に引き続きわかりやすく説明したうえで、被ばくによる 甲状腺がん増加の有無を検討することが可能な調査の枠組みの中で、現行の検査を継 続していくべきである。
⑨ 甲状腺検査の対象者やがんと診断された者の置かれた状況に鑑み、カウンセリング等 の精神的なサポートを充実させていくべきである。


 (3) 健康診査
【調査結果の概要】
平成 23 年度から避難区域等に居住していた県民を対象に、白血球分画等の検査項目を 追加した健康診査を実施している。また、平成 24 年度からは、特定健診や事業所健診等 の対象となっていない方に、特定健診と同等の健康診査の受診機会を提供している。 
平成 23 年度から平成 25 年度に実施した避難区域等居住歴のある県民を対象とした健 診結果※4(16 歳以上)からは、震災直後増加した肥満、肝機能障害は多くの地域で改善傾向・あるいは上昇に歯止めがかかっていることが読み取れるものの、高血圧、脂質異常 を有する者の割合は高いままであり、糖尿病は依然として増加し続けていること、また、 腎機能障害の割合は、特に 65 歳以上の受診者で増加傾向にあることから、いずれの生活 習慣病関連調査項目も震災前の状態には戻っていないと言える。 
こうした分析結果を市町村に還元し、疾病予防・健康づくりに活用されているとともに、 健診結果説明会の開催や各市町村広報誌を介した健康啓発にも取り組んでいる。
平成 23、24、25 年度を通じ、避難区域等居住歴のある小児において赤血球数、白血球 数、血小板数の値に変化はみられなかった。白血球分画のうち、好中球、リンパ球、単球、 好酸球、好塩基球の実数値平均値は小児の各年齢層、平成 23、24、25 年度を通じて大き な変化は認められなかった。 

受診率 (避難区域等居住県民を対象とした健康診査) 
      平成 23 年度  24 年度  25 年度  26 年度※ 
15 歳以下   64.5%   43.5%   38.7%   35.6% 
(0- 6 歳    64.6%    45.0%   40.9%   37.4% )
 (7-15 歳   64.4%   42.6%    37.5%   34.7% )
 16 歳以上   30.9%   25.4%   23.0%    22.2% 
             ※ 速報値:平成 27 年 9 月 1 日現在 

【評価・今後の方向性】 
① 白血球数・分画の結果から、放射線の直接的な影響については、現在のところ確認さ れていない。一方、循環器危険因子(肥満、高血圧、脂質異常、糖尿病、腎機能障害、 高尿酸血症)の増加がみられ、放射線の間接的な影響(避難等による生活環境の変化 などによる健康影響)が考えられることから、これらについては対策を一層重視して いくべきである。 
② 乳幼児の採血については、保護者の十分な理解に基づく希望がある場合にのみの限定 的な実施に留めるべきである。


(4) こころの健康度・生活習慣に関する調査 
【調査結果の概要】 
平成 23 年度から避難区域等に居住していた県民を対象に、「こころ」や「からだ」の 健康上の問題を把握し、適切なケアを提供するため、アンケート調査を実施している。回 答内容から、こころの健康上、相談・支援の必要があると判断された方には、電話等によ る相談、支援などを行っている。 
平成 23 年度から平成 25 年度の調査結果※5では、こころの健康に関して支援が必要と 考えられる大人、子どもの割合は、共に年々減少している。しかし、大人ではまだ2割近 くの方で被災によって生じた「トラウマ反応」が長引いている可能性があり、気分障害や 5 不安障害の可能性がある方の割合も全国平均と比べて 3 倍以上となっている。
どの年齢区 分の子どもでも、支援が必要と考えられる子どもの割合は、被災していない地域の子ども と比べて高い数値である。 生活習慣に関しては、震災前後で 3kg 以上体重が変化した方が 3-4 割に上っている一 方で、喫煙率が低下するとともに定期的な運動をする人の割合は増えており、少しずつ生 活習慣の改善を心掛ける方が増えているといえる。 
放射線リスク認知に関する質問の回答について、平成 23 年度と 25 年度結果を比較す ると、「晩発的影響の可能性が高い」と答えている人が 48.1%から 39.6%へ、「次世代への 影響の可能性が高い」と答えている人が 60.2%から 48.1%へとそれぞれ下がっていること から、徐々にではあるが放射線のリスクへの不安が低下していることがうかがわれる。

 回答率  平成 23 年度  24 年度  25 年度  26 年度※ 
子ども   63.4%    41.3%   35.8%   26.3% 
一般    40.7%    29.9%   25.0%   23.4% 
合計    43.9%    31.3%   26.3%   23.8% 
※ 速報値:平成 27 年 10 月 1 日現在


 【評価・今後の方向性】 
① 避難地域等の居住歴がある県民の心理状況を把握し、電話等による支援を行ってきた ことは評価される。一方、毎年調査票が送付され回答を求められる心理的負荷や現行 調査のアプローチからのみではハイリスク非回答者への支援に結びつかないことを 今後一層考慮していくべきであり、県市町村や関係機関による総合的なメンタルヘル ス対策に移行していくべきである。 
② 避難等による生活環境の変化などによる健康影響がメンタル面でも認められており、 こうした放射線の間接的な影響への対策を一層重視していくべきである。 
③ 「次世代への影響」といった極めて長期的な影響を心配している方が未だ半数近くい ることから、引き続き、心配について聞き取りの機会を増やし、健康調査の結果も含 め求められる情報を丁寧に説明する努力が必要である。


(5) 妊産婦に関する調査

【調査結果の概要】 
平成 23 年度から、県内市町村において母子健康手帳を交付された方等を対象に、妊産 婦のからだやこころの健康状態を把握し、不安に寄り添いつつ必要なケアを提供するとと もに、今後の福島県内の産婦人科医療の充実へつなげていくことを目的として、アンケー ト調査を実施している。回答内容に基づいて、必要があると判断された方には、専任の助 6 産師、保健師等による電話連絡を行っている。 
平成 23 年度から平成 25 年度の調査結果※6では、早産率はそれぞれ、4.75%、5.74%、 5.40%、低出生体重児出生率は 8.9%、9.6%、9.9%と、同時期の全国平均の早産率 5.7%、 低出生体重児出生率 9.6%とほとんど変わりなかった。 
一方、妊婦のうつ傾向は、27.1%、25.5%、24.5%と年度ごとに低下傾向を認めるもの の未だ高率※7であった。 
先天異常の発生率については、平成 23 年度から平成 25 年度で、それぞれ 2.85%、2.39%、 2.35%と、一般的な発生率 3~5%※8に比べむしろ低かった。
なお、平成 25 年度厚生労働科学研究「先天異常モニタリング解析による本邦の先天異 常発生状況の推移とその影響要因(放射線被ばくの影響、出生前診断の影響等を含む)に 関する研究」の研究報告書においては、福島県の震災後の 36 分娩施設、17,773 児の調査 結果は全国的事例と同様の傾向にあり、他都道府県と比較して、特に高い先天異常発生率 は認められていないとされている。 

回答率  平成 23 年度  24 年度  25 年度  26 年度 
      58.2%    49.5%   47.7%  47.2%


 【評価・今後の方向性】 
① 震災後の妊産婦の置かれた状況や心理状況を把握し、電話等による支援を行ってきた ことは評価される。妊娠・出産を希望する方が、安心して妊娠・出産できるようにす るため、支援の在り方を含め、今後の調査の方向性を引き続き検討していくべきであ る。 
② 若い世代が自信をもって県内で妊娠・出産できるように、本県における先天異常の発 生率等を継続的に把握し、一般的なレベルを超えていないことなど妊娠・出産にかかる正確な情報を積極的に発信していく必要がある。


 4.その他

 (1) 調査結果の活用について
 ① 個人情報保護も重要であるが、データの市町村における活用の促進についても検討が 必要であり、市町村保健事業等個人の健康管理の取組との連携に活用すべきである。 
② 調査結果が国内外の専門家にも広く活用されるよう、データの管理や提供のルールを 定める必要がある。 
③ 調査結果等について国際的にも正しく評価されるようにすべきであり、適宜英語など でのリリースを充実させるべきである。 

(2) 他の調査との連携 
① 甲状腺がんのみならず、各種がんの発生状況を捉えるため、がん登録の精緻化を加速 させ、その結果を適宜公表していくべきである。 


5.おわりに

県民健康調査開始時、調査の目的として「県民の健康不安の解消」を掲げていたことや非公開で事前の資料説明を行っていたことが、調査結果の評価に関し委員会が予断を以て臨ん でいるかのような疑念を生むことになったことから、これを一つの教訓として、委員会を運 営してきた。
東京電力福島第一原子力発電所事故から5年が経過したが、福島県は未だ復興の途上にある。福島の未来を創造していくためには、県民の健康増進、特にこれからの福島の未来を担 う若い世代の健康を見守ることは極めて重要である。そのためにも県民健康調査が県民の理 解と協力を得て、福島の将来に資するものとなるよう、今後とも本委員会において議論を重 ね、専門的立場から助言を行っていくこととしたい。 


 (資料・出典) 
※1 福島県における甲状腺がん有病者数の推計(第 4 回甲状腺検査評価部会資料) 
※2 福島原発事故における甲状腺被ばくの線量推定(第 22 回検討委員会資料) 
※3 県民健康調査「甲状腺検査(先行検査)」結果概要【確定版】(第 20 回検討委員会資料) ②-10 表 9.地域別にみた B・C 判定者、および悪性ないし悪性疑いの者の割合 
※4 平成 23~25 年度 県民健康調査「健康診査」健診項目別受診実績基礎統計表 (第 17 回検討委員会資料)
 ※5 平成 25 年度 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果概要 平成 25 年度 県民健康調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果報告書 (第 19 回検討委員会資料) 平成 24 年度 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果概要 平成 24 年度 県民健康調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果報告書 (第 15 回検討委員会資料) 平成 23 年度 「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果概要 平成 23 年度 県民健康調査「こころの健康度・生活習慣に関する調査」結果報告書 (第 11 回検討委員会資料) 
※6 平成 25 年度「妊産婦に関する調査」結果報告(第 18 回検討委員会資料) 平成 24 年度「妊産婦に関する調査」結果報告(第 14 回検討委員会資料) 平成 23 年度「妊産婦に関する調査」結果報告(第 8 回検討委員会資料) 
※7 平成 25 年度「妊産婦に関する調査」結果報告(第 18 回検討委員会資料) ⑥-2 最下行~⑥-3 4 行目 (参考:健やか親子 21(母子保健の国民運動計画)によると、エジンバラ産後うつ指 標を用いて評価した「産後うつ」の割合は 9.0%(平成 25 年)であるところ、本調査結 果から算出されるエジンバラ産後うつ指標による産後うつの推定割合は 13%。 推定資料:Mishina H, et al. Pediatr Int. 2009; 51: 48.)
 ※8 産婦人科診療ガイドライン 産科編 2014(編集・監修 日本産科婦人科学会 日本産 婦人科医会)81 頁 「出生時に確認できる形態上の異常(胎児奇形)頻度は、3~5%とされ、その原因は 多岐にわたる。」

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