2016/03/28

5年で延べ6万人 福島の病院が調べた「内部被曝」

(ホールボディカウンターによる被ばく検査が無意味とは言いませんが、それで検出されるほどの被ばくをしていた場合に、きちんと生活をチェックして、より被ばくを減らす取組みがなされてこその意義だと考えます。すでに5年も経って、まだホールボディカウンターで検出されるほどの被ばくを日常でしているとは通常は考えにくく、そのことでむしろ、安心してしまうことが懸念されます。 子ども全国ネット)

2016年3月28日 日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO98800090U6A320C1000000/

福島県のひらた中央病院(平田村)は東京電力・福島第1原子力発電所事故の7カ月後、2011年10月17日から独自の内部被曝(ひばく)検査を提供し始めた。子どもを優先するため18歳以下は無料とし、公的な助成を受けないで取り組んできた。これまでに検査を受けた人は大人、子ども合わせて、延べ約6万人に達する。

ひらた中央病院が検査のため設けた公益財団法人「放射能対策研究所」は3月4日に記者会見を開き、14年2月から15年11月までの間に検査を受けた福島県内外の住民の検査結果を発表した。

■延べ5607人を検査して放射性セシウムの検出は3人

検査にはガンマ線を捉えるホールボディーカウンター(WBC)と呼ばれる装置を用いる。放射性セシウムは透過力の強いガンマ線を出す。ガンマ線の量から内部被曝の大きさを推定できる。人体の中には自然の状態で放射性カリウムなどの放射性物質が存在するため、検出したガンマ線の特徴(エネルギーの大きさ)を目安に原発事故で放出された放射性セシウムだけを見分ける必要がある。

大人や、ある程度成長した子どもは立った状態で測る「ファストスキャン」と呼ばれる装置を使う。体の小さな子どもや乳幼児については寝転んだ格好で測れる「ベビースキャン」という専用装置を使う。ベビースキャンは福島事故後に東京大学の研究者らが新たに開発した。

7~89歳の延べ5607人が検査を受け、放射性セシウムが検出されたのは3人。1人は体重1キログラムあたり7.2ベクレル、あとの2人はともに体重1キログラムあたり5.4ベクレルが見つかった。5607人の99.95%は検出限界以下だった。

「ファストスキャン」による検査結果は、11年10月の検査開始以後、毎年公表している。最初の半年(12年3月まで)こそ、約1万4千人を測って約8%の人から放射性セシウムを検出したものの、2年目以降は1%未満にとどまり低い水準で安定している。

定期的に繰り返し測りにくる人もいれば、一度検査して検出されないとそれきりになる人もいるようだ。平田村の隣の三春町は小中学生の全員に毎年検査を受けさせるようにしている。

「ベビースキャン」は合わせて2010人が検査を受け、放射性セシウムが検出された子はひとりもいなかった。検出限界は1人あたり50ベクレルという。

検査とデータの分析にあたった坪倉正治医師は「放射性セシウムが検出された3人は山で採取したキノコや山菜を食べたなど原因が特定されており、被曝量は1ミリシーベルトの50分の1から100分の1程度と、極めて小さい」と話す。

「ファストスキャン」の検査結果で目新しいのは、茨城県大子町の子どもたち1122人が検査を受けた点だ。福島第1原発事故による被曝を心配した住民の声を受け同町が5~16歳の子どもたちの検査を依頼した。放射性セシウムが検出された子はひとりもいなかった。福島県外でまとまった数の子どもたちが内部被曝検査を受けるのは珍しい。

■甲状腺検査でがんは見つからず 海藻の摂取でリスク低下か
三春町の小中学生を対象に12年末から毎年実施してきた甲状腺の超音波検査の結果も発表された。延べ3447人が検査を受け、延べ31人(複数回検査を受けた子を含む)で5.1ミリ以上の充実性腫瘤(しゅりゅう、結節)が見つかった。12人が細胞を取り出して調べるなど、さらなる検査を受けたが、がんと診断された子はいなかった。

超音波検査と合わせて、尿中のヨウ素濃度も測った。その結果、多くの子が海藻などから十分な量のヨウ素を摂取しており、ヨウ素が欠乏状態にあると診断された子はいなかった。

旧ソ連で1986年に起きたチェルノブイリ原発事故の後、5年ほどしてから原発周辺などで小児甲状腺がんが顕著に増えた。事故で放出された放射性ヨウ素が甲状腺に集まり、がんを引き起こしたと考えられている。内陸に位置するチェルノブイリ周辺では日常的に自然のヨウ素の摂取が少なく、放射性ヨウ素が甲状腺に集まりやすかったとみられる。

三春町の子どもたちの測定結果は原発事故当時のものではない。また被曝量が大きかった恐れのある大熊町や双葉町など立地自治体の子を対象にした調査でもない。その点では傍証に過ぎないが、日常的なヨウ素の摂取が甲状腺がんのリスクを低くした可能性はある。

■震災から5年で峠越える 4月から18歳以下も有料化
ひらた中央病院がWBCの導入を決めたのは、11年6月。当時、原発周辺から避難してきた高齢者を病院で受け入れていた。内部被曝の検査には千葉県にある放射線医学総合研究所など県外に行くしかなく「被曝を心配する避難者やその家族の心配にこたえることができなかった」と、事務長の二瓶正彦さんは話す。

理事長の決断でWBCの導入を決め10月から検査を始めた。基本的に無料でスタートしたところ、「報道で知った人たちから問い合わせが殺到し、職員は翌年(12年)5月までは週末も休みもなく検査した」という。日曜日の多いときには1日200人を検査したことがある。福島県内外の30以上の自治体と協定を結び、自治体の依頼で住民を検査した。また福島第1原発の廃炉作業で働く作業員の検査も引き受けた。

検査は県の補助金を待たずに始め、子どものWBC検査は寄付金などで経費を賄ってきた。ただ経営上、「いつまでも無償で続けるわけにはいかず、4月から18歳以下も3千円をいただくことになった」と二瓶さんは話す。成人については1年前から有償化している。震災から5年が過ぎ、ひらた中央病院の取り組みもひとつの峠を越したということかもしれない。

■取材を終えて

ヨウ素の測定は興味深い。チェルノブイリ事故後に住民らの医療支援に取り組んだウクライナ放射線医学研究センターのアナトリー・チュマク副所長が昨年12月に来日し話を聞く機会があった。チュマク副所長が「福島とチェルノブイリは事情が違う」とあげていた点の一つが、まさにヨウ素の摂取量だった。

福島第1原発からの放射性物質の放出量はチェルノブイリ事故の10分の1程度で、その多くが太平洋上に流れたと推測される。陸地への降下量が少ない。加えて食事を通じてとる自然のヨウ素によって、放射性ヨウ素が甲状腺に入り込む余地を狭めていたとしたら、チェルノブイリと同じようなことは起きないだろう。

福島県は事故時に18歳以下だった県内のすべての子どもを対象に甲状腺検査を進めている。3年で検査が一巡し4年目の結果が2月に発表されたが、4年間で甲状腺がんと診断された子が100人を超える。この検査結果を検討した専門家は「スクリーニング効果」を指摘する。高性能の検査装置で検査した結果、これまで発見されなかったがんを見つけた結果であって「放射線の影響は考えにくい」とする。一方、放射線の影響だとする見方もある。

専門家の見方が分かれるのは困ったことだ。学会などできちんと議論をしてもらいたい。また被曝量が小さかったとしてもリスクがゼロではない。今後も注意深く見守る必要があるだろう。ひらた中央病院での検査は、県の調査とは独立して行われている。各所で実施されてきた調査を統合して分析する必要もあるだろう。
(編集委員 滝順一)


内部被曝検査の結果を発表する記者会見。
右が斎藤行世院長、左が坪倉医師(ひらた中央病院で)



乳幼児を寝かせた姿勢で検査できる「ベビースキャン」





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