2016年3月21日 福島民報
http://www.minpo.jp/news/detail/2016032129716
東京電力福島第一原発事故に伴う避難指示区域をめぐり、政府は平成29年3月までに帰還困難区域以外の居住制限区域、避難指示解除準備区域を解除する方針を示している。ただ、これまでに避難指示解除準備区域を解除した楢葉町と川内村、田村市都路地区では住民の帰還が十分に進んでいないのが現状だ。
除染による放射線への不安解消や生活基盤の復旧が課題として挙げられる。時間の経過とともに、避難先に落ち着く世帯が増えていることも要因の一つだ。子どもの教育や仕事の関係で故郷に戻ることを断念した人は少なくない。一方で、高齢者ほど望郷の念は強い。帰還でも移住でもない、第3の道として、新たな二地域居住のモデルを探ってみてはどうだろう。
二地域居住は首都圏など都市部の住民が週末や長期休暇中に地方で暮らすライフスタイルを指す。これを、避難先と故郷を行き来する生活に当てはめ、応用できないか。遠隔地に移住したり、地震や津波で自宅を失ったりした人は故郷から足が遠のきがちだ。例えば、低料金の宿泊施設や公営住宅、休憩所があれば、避難者が集い、コミュニティーの回復に役立つ。県や国の財政的な支援を求めたい。
故郷とのつながりを維持する上で、参考になる事例がある。鳥取県日野町は先月22日、「ふるさと住民票」の交付を全国で初めて開始した。町外の町出身者やゆかりの人たちに「ふるさと住民カード」を無料で発行し、広報紙や町の行事の情報を送付している。町の施設などを町民と同じ料金で使用できる利点も付けた。法律に基づかない自治事務であり、これまでに34人が交付を受けた。
過疎化に悩む人口3380人の町は「ふるさと住民票」でつながりを持ってもらい、日野ファンを増やそうとしている。将来的にふるさと納税やUターン、Iターンによる定住、二地域居住の促進に結び付けたいという。県内では飯舘村がこの運動の世話人に加わっている。避難者との絆を保ち、全国から応援団を募る意味でも、従来にない施策の展開に期待したい。
避難区域が設定されている9市町村のうち、南相馬、川俣、葛尾の3市町村は帰還困難区域以外の地域について今春の避難指示解除を目指し、準備を進めている。震災から6年目に入り、帰還に向けた動きが本格化する。二地域居住という、より現実的な選択肢も視野に入れながら、多様な生活の在り方を認め合い、支援する柔軟さが行政に求められている。(鎌田 喜之)
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