2015/05/11

「全国から人が集い、楽しみながら交流する場所にしたい」 原発事故後の福島が抱える課題の解決をめざす複合型コミュニティホール 「CHANNEL SQUAREふくしま」が福島市内にオープン

記事 BLOGOSより

「楽しい空間、魅力的な空間をきっかけに、自然の中へ飛び出して行ってほしい」


東日本大震災および東京電力福島第一原子力発電所事故から4年が経過した2015年3月26日。福島市内に複合型コミュニティーホール「CHANNEL SQUARE ふくしま」がオープンした。

運営主体となるのは地元・福島の一般社団法人F-WORLDで、総事業費6800万円のうち4820万円が日本財団のNew Day基金から拠出されている。New Day基金とは、アート企業・有限会社カイカイキキ(村上隆代表)が実施した東日本大震災の復興支援チャリティーオークションの売上からの寄付金・約3億4000万円を基に設置されたものだ。

「復興に向けて人々が集い、東北から新しい価値を生み出すための拠点整備を進める」ことを目的とした同基金は、すでに福島県耶麻郡猪苗代町で「アール・ブリュット はじまりの美術館」をスタートさせている。「CHANNEL SQUARE ふくしま」はその第2弾となるプロジェクトだ。


「CHANNEL SQUARE ふくしま」オープニング式典。小林香・福島市長、日本財団尾形武寿理事長、アート企業カイカイキキ・笠原ちあきプロデューサー、1000万円を寄付した人気バンド「MAN WITH A MISSION」のリーダー・TOKYO TANAKAさんらが出席し、テープカットを行なった。
「CHANNEL SQUARE ふくしま」オープニング式典。小林香・福島市長、日本財団尾形武寿理事長、アート企業カイカイキキ・笠原ちあきプロデューサー、1000万円を寄付した人気バンド「MAN WITH A MISSION」のリーダー・TOKYO TANAKAさんらが出席し、テープカットを行なった。 写真一覧

福島市内で最も人口が多い「北信地区」の国道13号線沿いに位置する施設(福島市南矢野目夜梨4-1)の周辺には大規模仮設住宅団地が4つあり、人口2位の「中央地区」、人口3位の「清水地区」も隣接している。地元住民や避難者の生活を豊かにすることを目指した同施設は、幅広い世代が安心して体を動かせるインドアパークを中心とした以下の7つの機能からなっている。

①フリースペース:様々なイベント・ワークショップなどに活用できる空間。
②パークランド:スケートボード、ボルダリング等が体験できる屋内運動施設。
③飲食モール:郷土料理から、地元で人気の食事まで福島の様々な「食」が集う。
④ショップ:スポーツ用具、福島グッズ、県産物等の販売スペース。
⑤ネイチャースペース:木登り遊具やツリーハウスなどを設置し、森遊びが体験できる。
⑥発電ラウンジ:ステップ発電設備を設置し、身体を動かしながら電気を学べるスペース。
⑦各種放射線測定装置:NPO法人ふくしま30年プロジェクトと連携し、ホールボディーカウンター(子どもは無料・大人は3千円/10分間測定)、放射線測定装置を設置(食品は1500円。約30分で測定)。健康相談会も開催。


パークランドのボルダリング
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パークランドのスケートボード場
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ショップ
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福島の自然をモチーフにした施設のエントランス、ステージ、施設の総合的なカラープロデュースは、ツリーハウスの第一人者・小林崇氏が監修した。


フリースペースのステージ上に設けられたツリーハウスとステップ発電設備
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F-WORLDの平学代表理事は施設のコンセプトをこう説明する。
「福島県の自然と向き合いながら、ここは安全だ、ここは危険だということを明確にして、子どもたちが自然から離れないようにしていきたいですね。子どもたちにとって大切なのは環境。たとえばスケートボードをきっかけに、スノーボードやサーフィンなど、自然に飛び出していくことができる。世界中からトップライダーを招いて交流する中で、子どもたちが未来に向けてやりたいことを見つけられる場所、自然への案内所になるような施設にしていきたいと考えています」


F-WORLD・平学代表理事
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「人が集う場所で、放射線に対する自分自身の考えの答え合わせをしてほしい」


未曾有の大災害により、震災前には200万人を超えていた福島県の人口(2010年10月現在)は192万6961人にまで減少した(2015年4月1日現在)。また、福島県外への避難者は2012年3月の6万2831人をピークに減少しているものの、現在でも県外避難者46170人、県内避難者69341人を数える。つまり県民の約6%にあたる11万5千人以上がいまも不自由な避難生活を余儀なくされている。

震災以降、福島県での暮らしは大きく変わった。県内ではいまも原発事故によって飛散した放射性物質の除染作業が続き、8万8000か所を超える仮置き場には除染により生じた黒いフレキシブルコンテナバッグが積まれている。復興庁の試算によれば、このまま除染が進んでいくと、福島県内での総量は東京ドーム約18杯分にも相当するという。

筆者は2011年から福島県内外で震災の影響を取材をしてきた。そうしたなかで子育て世代の保護者から何度となく聞いてきた言葉がある。それは、「子どもたちを外で遊ばせていいのかどうか」という放射線に対する不安の声だ。

もちろん小中学校や保育園などでは、子どもたちが安全に学び、遊べるように除染が進められている。除染により放射線の空間線量率も確実に下がった。福島で暮らす人々は放射線についての知識を深め、考えぬいた末に自分なりの答えを出して生活を送っている。しかし、それでも保護者の悩みが完全に解消されたわけではない。

また、世代を問わず、多くの人から聞こえてきたのが「実際に暮らしていると、なかなか周囲の人に放射線の話題を口にしづらい」という問題だ。前出の平代表理事もこう語る。 「原発事故後、放射能の問題については『イエスかノーか』でみんな意見が分かれました。そして事故から4年が経ち、福島県民はもう疲れ果てています。疲れ果てて、放射能の問題について話していいのか、悪いのか、それすらわからなくなっています。話したいけれども、話すと拒否反応が出たりする。そうするとますます閉じこもってしまい『自分はもうこの問題に向き合っていけない』と言う人たちも少なくありません。そうした人たちが『楽しい空間』をハブにして出会い、『私はこう思うんだけど』とコミュニケーションを取り合うための施設が『CHANNEL SQUARE』なんです」

このインドアパークが作られた背景の一つとして、東京電力福島第一原子力発電所の事故後、福島県内の学校では屋外活動が制限されてきたことがあげられる。外遊びを控える家庭が増えた結果、福島県内の子どもの慢性的な運動不足が指摘されているのだ。

実際にその影響は数字で出ている。2014年度の文部科学省の学校保健統計調査によると、肥満度が一定の水準を超えた「肥満傾向児」の割合は5〜17歳の全年齢層のうち6つの年齢層で福島県が全国最多を占めている。この傾向は震災後の2012年度から続いている。  また、避難生活の長期化により、地域コミュニティの弱体化も懸念されている。 「地域コミュニティの復興」と「体力増進の支援」ーー。世代を超えて直面する複数の課題を解決していくための場になることが「CHANNEL SQUARE ふくしま」には期待されている。

「放射線に対する不安が取り除けないという人たちには、楽しい場所、人が集まる場所で不安を取り除ける方法を知ってもらいたい。この施設には、NPO法人ふくしま30年プロジェクトと連携したホールボディーカウンターや食品の放射能測定装置もあります。ツリーハウスを設置するなど自然をモチーフにした施設の中で、放射能の問題を自分で理解できる、自分自身の考えとの答え合わせができる施設にしていきたいんです」


NPO法人ふくしま30年プロジェクトと連携して設置されたホールボディーカウンター
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放射線測定装置
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同施設では、小学生以下の子どもの施設利用料は無料だ。もちろん大人も会員になり、施設利用料を支払うことで子どもと一緒に汗を流すこともできる。

「ターゲットを子どもだけに絞らなかったのは、福島の現状、福島の課題には、まず大人たちが向き合わなければならないと考えたからです。子どもも大人も楽しめるインドアスポーツ施設を作り、『これからの福島』について会話できるような施設にしていきたいですね。一人年間2千円で施設を支えていく『サポータークラブ』の会員も全国、全世界から募集しています。ぜひ、支えて下さい」(平氏)。

将来にわたって人々が集える場所は、必ずや復興の追い風となるはずだ。「遊び」を起点にしたコミュニケーションの活性化に期待したい。 

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