2015/10/12

福島の海、今を知る 放射性物質を測定「いわき海洋調べ隊・うみラボ」 東日本大震災5年目

2015年10月12日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/DA3S12012356.html


福島第一原発(右奥)を望みながら、調査用の魚を求めて釣りをする「うみラボ」のメンバー
=福島県沖




原発事故の被害を受けた福島の海がどうなっているのか、自分の手で調べたい。地元の釣り人らが、東京電力福島第一原発の近くで魚を釣って放射性物質の濃度を測る「いわき海洋調べ隊・うみラボ」の活動を続けている。今春、現状を広く知ってもらうため、地元水族館とタッグを組み、来場客の前で測る「調(た)べラボ」の取り組みも始まった。

■原発から1.5キロ、月1回調査

8月上旬、福島県いわき市久之浜(ひさのはま)町の漁港に、うみラボのメンバーや地元の釣り人、県職員、記者など21人が集まった。釣り船「長栄丸」に乗り込み、約30キロ北の東京電力福島第一原発の近海をめざす。

福島では、
原発事故直後に放射性物質を含む高濃度の汚染水が海に漏れた。2012年6月に試験的な漁が一部で始まり、安全が確認された魚種から出荷を再開している。だが、その後も原発から汚染水漏れが頻発してきた。

うみラボは13年秋に始まった。政府や東電のデータに頼らずに海の汚染がどうなっているかを調べたいと、
いわき市の会社員八木淳一さん(39)と地元の釣り仲間が思い立った。

月1回、放射線の専門家の協力を得て調査。一緒に漁船に乗る参加者を公募している。八木さんは「大好きな海がダメになったと言われているのに、自分の言葉で反論できず、もどかしかった」と話す。

岸に沿って北上すること1時間。
福島第一原発が見えてきた。爆発事故によるがれきを撤去するため、1号機建屋のカバーが外されている姿や、赤い作業用クレーンが確認できる。

船は原発から約1・5キロ沖で止まった。
福島第一原発の建設に伴い、1966年に東電と地元漁協が結んだ協定で、それより近くで魚を取ることはできないという。うみラボのメンバーで獣医師の富原聖一さん(42)が専用の容器を使い、水深約15メートルの海底土を採取した。持ち帰って放射性物質の濃度を測定する。

空間
放射線量を測る。持参した線量計は毎時0・014マイクロシーベルトを示した。東京都内の代表的な観測点よりも低い値だ。富原さんらによると、海上なら原発から1・5キロの近さでも線量は低い値になるという。事故で放出された放射性物質は海底に沈殿する。海水が放射線を遮る役目を果たしている。

船は魚が釣れるポイントを探し、原発沖約2キロの地点に移った。参加者が
釣り糸を垂らし始めた。間もなくすると、ヒラメやアイナメがかかり始めた。のどかさに、目の前に事故を起こした原発があることを忘れそうになる。2時間半で約20匹が釣れた。調査には十分だ。帰路についた。


■釣った魚、目の前でさばき検査
採取した泥や魚は富原さんが勤める、
いわき市の水族館「アクアマリンふくしま」に運びこまれ、来場客の前で放射性物質の濃度を測る。「調(た)べラボ」は月1回、開かれている。

家族連れでにぎわった7月中旬。富原さんは原発沖で釣った魚を慣れた手つきでさばき、筋肉にあたる身から骨を取り除いていく。「放射性
セシウムが一番たまるのが筋肉だからです」。富原さんは子どもたちに説明した。測定器にかけ、スクリーンに映し出される検査結果を解説する。

最初に計測したのはアイナメ。
出荷制限の対象魚種だが、測定器で測れるほどの放射性セシウムは検出されなかった。会場から「原発近くで取れた魚でもこんなに低いんだ」と驚きの声があがった。

だが、次のシロメバルは1キロあたり58・7
ベクレル。国が定める基準値(1キロあたり100ベクレル)は下回った。だが、出荷のために地元漁協が設けた、より厳しい基準値「1キロあたり50ベクレル以下」は上回った。富原さんによると、事故当時に生まれていたかどうかで数値に差が出るという。

家族4人で訪れた、
長野県佐久市の柳沢さつきさん(38)は「漠然とした怖いイメージがあったけど、福島の海が徐々に回復しているのがわかった。目の前で魚を測定するのは説得力がある」と話した。

試験操業が行われているのは第一原発から20キロ圏外の64魚種。漁協の基準値以下の魚が、地元の
鮮魚店築地市場に出荷されている。県の検査では、国の基準値を超える個体は4月以降見つかっていない。現在、出荷制限されている29魚種も徐々に解かれていくとみられる。

調べラボでは、漁業者が試験操業で水揚げした出荷用の魚を調理し、ふるまっている。マダラのフライにワタリガニのクリームパスタ。匂いにつられて立ち寄る家族も多い。
放射性物質の健康への影響をめぐっては様々な見方がある。八木さんは「無理に安全性を押しつけたいわけではない。『いわきの魚食べたんだ』『え、食べられるの?』。そんな会話を通じて、福島の海のことを考える人が増えてくれればいい」と話す。
 (高橋尚之)

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