http://www.sankei.com/premium/news/160117/prm1601170034-n1.html
通学時や屋外での部活動中の被曝は、それほど気にしなくてもよい-。そんな結果が平成27年11月、東京電力福島第1原発から10~40キロの範囲にある福島県南相馬市の子供たちを調査した研究チームの論文で明らかになった。保護者の多くが「通学中の被曝リスクが最も高い」と認識し、ほとんどが車で送迎しているという現実とは「対照的」な結果で、屋外での放射線被曝について、必要以上に懸念されている状況が浮き彫りとなった。(原子力取材班)
長時間いる場所が重要
長時間いる場所が重要
論文は英国インペリアル・カレッジ・ロンドン公衆衛生大学院の野村周平氏らのチームが発表し、日本放射線影響学会の機関誌オンライン版に11月25日に掲載された。
調査は、原発事故から約1年半が経過した平成24年9~11月、南相馬市内の小中高校の児童と生徒520人を対象に実施した。個人線量計で測定した外部被曝量と、通学や部活動など屋外での活動時間との関係を調べた。また、児童らの生活環境である自宅前や、学校の校庭の空間線量も合わせて解析した。
調査結果によると、個人線量計で測定した3カ月間の外部被曝線量は平均0・34ミリシーベルトで、このうち0・14ミリシーベルトは自然にもともとある放射線による被曝だった。
児童らの生活様式との関係では、自宅前の空間線量が毎時0・1マイクロシーベルト上がると、被曝量が1・1倍に上昇し、校庭の空間線量が毎時0・01マイクロシーベルト上がると1・02倍に上昇するなど、家や学校の空間線量と被曝量に一定の関連が見られた。
一方、通学やクラブ活動などの屋外での活動時間については、被曝量と有意な関係は認められなかった。
論文では、対象となった児童らの84%の通学時間が30分未満であったことなど、「全体的に屋外にいる時間が少なかった」と前置きした上で、「1日の中で長時間生活する場所の線量が被曝量の決定要因であり、短時間の屋外活動は被曝量には大きく影響しない」と結論づけている。
イメージが先行
ところが、対象児童らの保護者を対象としたアンケートでは、約4割が「通学中の被曝リスクが最も高いと思う」と回答、「子供たちを車で送迎している」という保護者は全体の約8割に上り、調査結果とは全く逆の認識を持っていることが分かった。
この点について、研究に参加した南相馬市立総合病院の医師で、東京大医科学研究所特任研究員の坪倉正治氏は、「いわゆる『ホットスポット』といった言葉のイメージが先行している。屋外や数値のより高いところに関心が行きがちだが、現状ではトータルの被曝量への影響は小さい」と説明する。
確かに、除染後も線量が高く、ホットスポットと呼ばれるような場所では、空間線量が毎時数マイクロシーベルトというところもある。ただ、仮に毎時10マイクロシーベルトの場所を通学中に10秒通過するとしても、被曝量は10×360分の1=0・027マイクロシーベルト。空間線量が0・1マイクロシーベルトの家に8時間滞在した場合の被曝量は0・1×8=0・8マイクロシーベルトで、比較すると影響は十分小さいことが分かる。
今回の調査結果は、こうした科学的な外部被曝の「リスク」の考え方について、500人を超える児童の被曝量と行動の関係から、一定の妥当性を示している。
外出敬遠で運動不足も
子供たちの通学や外出時の被曝に対する保護者の懸念は、南相馬市に限ったことではない。
文部科学省の学校保健統計調査では、運動不足が原因とみられる肥満傾向児が、福島県で24年以降3年連続で全国平均よりも高い傾向となっている。
26年度の速報値では、福島県の肥満傾向児の割合は9歳が全国平均(8.14%)の1・8倍の15・07%に上るなど、6歳、7歳、11歳、12歳、13歳の6つの年齢層で全国最多だった。
福島県などによると、こうした増加は放射線による健康被害を不安視して外遊びを控えさせる家庭が増えたり、通学が徒歩から車に変わったりしたことが一因とみられ、体育の改善などを進めているという。
もちろん、保護者や本人の意向にかかわらず、避難により通学ルートが変わり、やむを得ず通学手段を車に変えた子供たちも多い。また、線量が高いと分かっている場所に、子供たちを長時間滞在させることはできる限り避けたい。
ただ、「イメージ」で外出や運動の機会を極端に減らすことが、結果として子供たちの心身の健康につながるのだろうか。個人線量計や自治体が公表している空間線量などの数字を、どう活用するのか、あるいはしないのかは、考え方次第でもある。
調査は、原発事故から約1年半が経過した平成24年9~11月、南相馬市内の小中高校の児童と生徒520人を対象に実施した。個人線量計で測定した外部被曝量と、通学や部活動など屋外での活動時間との関係を調べた。また、児童らの生活環境である自宅前や、学校の校庭の空間線量も合わせて解析した。
調査結果によると、個人線量計で測定した3カ月間の外部被曝線量は平均0・34ミリシーベルトで、このうち0・14ミリシーベルトは自然にもともとある放射線による被曝だった。
児童らの生活様式との関係では、自宅前の空間線量が毎時0・1マイクロシーベルト上がると、被曝量が1・1倍に上昇し、校庭の空間線量が毎時0・01マイクロシーベルト上がると1・02倍に上昇するなど、家や学校の空間線量と被曝量に一定の関連が見られた。
一方、通学やクラブ活動などの屋外での活動時間については、被曝量と有意な関係は認められなかった。
児童らの生活と外部被曝量の関係 |
イメージが先行
ところが、対象児童らの保護者を対象としたアンケートでは、約4割が「通学中の被曝リスクが最も高いと思う」と回答、「子供たちを車で送迎している」という保護者は全体の約8割に上り、調査結果とは全く逆の認識を持っていることが分かった。
この点について、研究に参加した南相馬市立総合病院の医師で、東京大医科学研究所特任研究員の坪倉正治氏は、「いわゆる『ホットスポット』といった言葉のイメージが先行している。屋外や数値のより高いところに関心が行きがちだが、現状ではトータルの被曝量への影響は小さい」と説明する。
確かに、除染後も線量が高く、ホットスポットと呼ばれるような場所では、空間線量が毎時数マイクロシーベルトというところもある。ただ、仮に毎時10マイクロシーベルトの場所を通学中に10秒通過するとしても、被曝量は10×360分の1=0・027マイクロシーベルト。空間線量が0・1マイクロシーベルトの家に8時間滞在した場合の被曝量は0・1×8=0・8マイクロシーベルトで、比較すると影響は十分小さいことが分かる。
今回の調査結果は、こうした科学的な外部被曝の「リスク」の考え方について、500人を超える児童の被曝量と行動の関係から、一定の妥当性を示している。
外出敬遠で運動不足も
子供たちの通学や外出時の被曝に対する保護者の懸念は、南相馬市に限ったことではない。
文部科学省の学校保健統計調査では、運動不足が原因とみられる肥満傾向児が、福島県で24年以降3年連続で全国平均よりも高い傾向となっている。
26年度の速報値では、福島県の肥満傾向児の割合は9歳が全国平均(8.14%)の1・8倍の15・07%に上るなど、6歳、7歳、11歳、12歳、13歳の6つの年齢層で全国最多だった。
福島県などによると、こうした増加は放射線による健康被害を不安視して外遊びを控えさせる家庭が増えたり、通学が徒歩から車に変わったりしたことが一因とみられ、体育の改善などを進めているという。
もちろん、保護者や本人の意向にかかわらず、避難により通学ルートが変わり、やむを得ず通学手段を車に変えた子供たちも多い。また、線量が高いと分かっている場所に、子供たちを長時間滞在させることはできる限り避けたい。
ただ、「イメージ」で外出や運動の機会を極端に減らすことが、結果として子供たちの心身の健康につながるのだろうか。個人線量計や自治体が公表している空間線量などの数字を、どう活用するのか、あるいはしないのかは、考え方次第でもある。
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