2016年1月31日 福島民報
http://www.minpo.jp/news/detail/2016013128488
昨年末に、県と国際原子力機関(IAEA)の専門家会議があった。議論の中で、IAEAの専門家が福島県で出荷されるコメは全数が安全検査を受け、市場には安全・安心なコメしか出ていないことを知らないことに気付いた。
翌日の会議で、福島県ではカリウム散布を行いセシウムのコメへの吸収を抑制し、平成27年産米約1千万袋の全数検査でセシウムが基準値を超えたものはないこと、また26年産米は個人の使用目的でカリウム散布をしなかった2袋だけが基準値を超えたという結果を説明した。測定機器の精度の議論の後、専門家全員が直ちに福島のコメの安全性を理解してくれた。
昨年11月に欧州連合(EU)は野菜や牛肉等を輸入規制の対象外としたが、コメは残念ながら規制から外されなかった。今後、さらに規制緩和を目指すには専門家の理解を深めるのも大切だと思った。チェルノブイリ事故で汚染した欧州の環境と比較すれば福島の状況は率直に理解してもらえると思うので、その視点から欧州との比較をしてみた。
福島県の土地の70%は森林であり、福島県の環境の状況を知るには森林が一つの目安となる。森林の除染は行われていないし、森を汚染したセシウムは毎年0・3%程度しか雨などにより森から流出しないと推定されている。従って、多くのセシウムは森にとどまっていると考えられる。
福島県環境創造センターは、福島の環境調査の一環として森の野生動物の筋肉中セシウム量の変化を調査研究している。ドイツの論文で、チェルノブイリ事故以来20年間にわたりドイツのボーデンマイスの森に生息するノロジカの筋肉中に存在するセシウムを調査したものがある。そこで、会津に生息する日本ジカのセシウムの毎年の変化と比較してみた。これは、両者の環境汚染を比較するための一つの指標として意味があると考えられる。
ボーデンマイスの森とチェルノブイリ原発の間にはウクライナ、スロバキア、チェコがあり、約1500キロ離れている。ノロジカの筋肉中のセシウムは、事故直後は一キロ当たり約10000ベクレルを超えていたが、20年後は1000ベクレルまでに減少した。一方、会津は福島第一原発から100キロ離れている。会津の日本ジカは原発事故直後、1キロ当たり300ベクレルであったが、4年後には100ベクレル以下に減少している。このデータからみると、福島の環境汚染は欧州と比べてかなり小さかったと推定される。
EUは昨年11月に輸入緩和の方針を決めたが、さらなる緩和が望まれる。福島県は原発事故以来、積極的に市場に出る農産物の安全性を高める工夫と監視を続けてきた。その結果、市場に出回っている食品は全て国際的な安全基準を一桁は下回っており、安全性は十分確保されている。県はさまざまな形で安全性をPRしているが、規則の改定には専門家も関わってくるはずなので、国際的な専門家会議にも積極的な情報発信が必要と思えた。(角山茂章、会津大前学長)
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