2016/03/01

【震災から5年】「県民健康調査」 調査の在り方 転換期に

2016年3月1日 福島民報
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/03/post_13361.html

東京電力福島第一原発事故を受け、県は放射線被ばく線量の評価や健康維持を目的とした「県民健康調査」を展開し、県民の健康を守る取り組みに力を入れてきた。医師や放射線の研究者らで構成する県民健康調査検討委員会は今後の調査方針や、これまでの見解を集約する「中間取りまとめ」の策定作業を急いでいる。震災と原発事故から間もなく丸5年。調査は転換期を迎えようとしている。

■甲状腺本格検査移行 年度内に検討委中間取りまとめ策定
県民健康調査で原発事故当時18歳以下の子どもらを対象にした甲状腺検査は本格検査(平成26、27年度)に移行している。

本格検査で昨年12月末までに甲状腺がんと確定したのは16人。23年度から25年度まで実施した一巡目の先行検査と合わせると、がん確定は116人となった。がんの疑いは先行検査と本格検査合わせて50人。

検討委員会の星北斗座長(県医師会副会長)は「現時点で放射線の影響は考えにくい」との見解を示している。その理由としてチェルノブイリ原発事故で多く見つかった5歳以下からがんが見つかっていない点などを挙げている。

県は甲状腺検査について、対象者が20歳までは2年に一度、その後は5年に一度の受診を計画として掲げている。ただ、検査の終了時期は示していない。時間の経過とともに受診率の低下も懸念されている。

中間取りまとめは、委員からの意見を集約し、今年度中にもまとめる方針。


■基本調査回答頭打ち
原発事故後4カ月間の外部被ばく線量を推計する「基本調査」問診票の回答率は頭打ちの状態が続く。県は事故当時の記憶が薄れ、行動記録の記入が難しくなっているためとみている。

回答率は昨年12月末現在、27・4%にとどまる。


■「放射線影響考えにくい」 中間取りまとめ最終案 検討委盛り込む

県民健康調査検討委員会の星北斗座長は2月に開かれた会合で、調査の今後の方針やこれまでの見解を集約する「中間取りまとめ」の最終案を示した。子どもの甲状腺がんの発生については「放射線の影響とは考えにくい」との見解を盛り込んだ。

最終案では今後の調査目的について、「原発事故による被ばく線量の評価を行うとともに、被ばくによる健康への影響について考察する」などと明記した。

さらに基本調査については「問診票の回答率向上を目標とせず、自らの被ばく線量を知りたい県民に対して窓口を用意するという方向にシフトすべきだ」とした。


■避難生活で体力、気力減 被災地医療に尽力 越智小枝医師 (相馬中央病院)
 食生活の乱れ、運動不足懸念

相馬市の相馬中央病院内科診療科長の越智小枝医師(41)は東日本大震災、東京電力福島第一原発事故発生後、本県に赴任し、地域医療に尽くしている。

留学を経て平成24年夏から相馬市の仮設住宅で健診などに当たってきた。一週間ほどかけて各仮設住宅で往診し、血液検査、レントゲン、運動器テストなどに取り組んだ。県内各地から「健康講話」の講師に招かれる機会も多い。

震災と原発事故から間もなく丸5年。避難生活を契機に、それまで従事していた漁業、農業から離れたため体力低下や気力の減退などが見受けられるという。相馬市では糖尿病患者の割合が増えていると分析。運動不足や魚、野菜の摂取不足が要因とみている。避難生活で塩分量の多い食事の摂取機会が多かったため、一時期は高血圧患者が増加した事例も確認された。

放射線の影響を心配し、地元産食材の摂取を避ける人が今も多いと感じている。一方で、野菜が不足し、ファストフードや加工品の摂取が増えると逆に健康リスクを高める恐れがある。健康講話では放射性物質を正しく理解し、日常生活を送ることが大切と伝えている。

「不安に感じる人がいても仕方ない。ただ、食生活の乱れや運動不足、ストレスなどで不健康にだけはならないでほしい」と願っている。

おち・さえ 東京都出身。東京医科歯科大医学部卒。東京都立墨東病院勤務、インペリアルカレッジ・ロンドン公衆衛生大学院への留学を経て平成25年11月から現職。専門は膠原(こうげん)病・リウマチ内科。剣道6段。41歳。

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