2016/03/02

【福島から問う】賠償 綻びと再生5年(3)夫の裏切りを知ったとき、家庭は… 1000万円超の賠償金が生んだトラブル

2016年3月2日 産経新聞
http://www.sankei.com/affairs/news/160302/afr1603020029-n1.html

「大金に舞い上がったのか」
当時の夫の「裏切り」を知ったときは、目の前が真っ暗になった。

「交際女性に海外ブランドの高級バッグや指輪を買って渡していた。賠償金なしではとても買えなかったもの」。30代のパート女性が重い口ぶりで語った。夫の不倫が原因で女性は離婚。現在、福島県沿岸部で、両親と小学生の長男と4人で暮らす。

東京電力福島第1原発事故は、夫と長男との3人家族だった女性の運命を一変させた。

「長男と、将来2人目を考えていた自分の健康を考えた」という女性は、長男とともに県外へ自主避難。一方、夫は営業を停止した職場の残務処理と両親の世話のため県内に残った。1千万円を超す賠償金は、世帯主である夫が家族分をまとめて受け取った。

避難から約1年半後、毎日あった電話は徐々に減り、生活費が振り込まれる日も定まらなくなった。夫は「新しい仕事が忙しい」と話したが、共通の知人から「彼に交際相手ができた」と知らされた。離婚後、夫から女性と長男分の賠償金や慰謝料が支払われたが、わだかまりは残る。

「以前は家族3人で質素でも幸せだった。真面目そうだった元夫も大金に舞い上がってしまったのか、私に魅力を感じなくなったのかは分からない。前を向くしかないが、今も事故がなければ、こんなことにはならなかったのにと思うときがある」

原発事故後、夫の不倫が原因で離婚した女性。現在はシングルマザーとして子育てをしている 
=2月19日、福島県内(小野田雄一撮影)

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賠償金は一部世帯では1億円を超す。事故から5年を前に、賠償金に絡んだ家族や親族内のトラブルが表面化してきている。

賠償金で働かなくなった夫や子供を注意した妻が暴力を受けた▽父親が家族分の賠償金を無断で投資につぎ込んだ▽家出した子供が突然現れ、「自分の分の賠償金を渡せ」と親に迫った▽しゅうとめが嫁に賠償金を渡さない▽親族から賠償金をせびられた-。複数の被災者らへの取材で判明したトラブルの一端だ。

「賠償金を含む家族間トラブルは表面化しにくい上、それを理由とした離婚数なども統計的に把握するのは困難だが、実際には相当数あるのは確かだ」。警察や司法、教育の関係者と連携し、被災者の心のケアに取り組んできた福島大学大学院人間発達文化研究科の生島(しょうじま)浩教授(59)=家族臨床=は指摘する。

その上で、「東日本大震災や原発事故で突然おかしくなったというより、潜在的にリスクを抱えていた家庭で、賠償金を一つのきっかけにトラブルが顕在化したと見るべきだ。震災から5年がたつ現在は問題が噴出する一歩手前の状態で、今後、社会的に大きな問題に発展していく可能性が高い」と警鐘を鳴らす。

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原発事故後に自身で見聞きしたことを、“語り部”として各地で講演してきた「原発震災を語り継ぐ会」主宰の高村美春さん(47)=同県南相馬市=は被災地に「タブー」があると感じている。良い面も悪い面も現実をありのままに語ることが復興につながると考えているが、壁が存在するという。

「一部の被災者が眉をひそめさせるようなお金の使い方をしていることや、実際に起きたお金のトラブルなどを話すと、『余計なことを言うな』とバッシングされてきた」

生島教授は「家族内トラブルで一番被害を受けるのは子供だ。そうした子供が大人になり、悪影響が数世代にわたって続く恐れもある。リスクを抱えた家庭を的確に把握し、専門機関につなげる仕組み作りが必要だ」と訴えた。

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