2016/03/02

内部被ばく線量を隠す理由とは? ICRPでも内部被ばく委員会が廃止に

2016年3月2日 ヘルスプレス
http://healthpress.jp/2016/03/icrp-1.html 

連載第4回 これから起きる“内部被ばく”の真実を覆う、放射能の「安心神話」

今年2月29日、東京電力福島第1原発事故を巡り、東京第5検察審査会から起訴議決を受けた東京電力の勝俣恒久元会長ら旧経営陣3人が、業務上過失致死傷罪で東京地裁に在宅のまま強制起訴されました。

原発事故が発生する可能性を予見できたのに、防護措置を取る注意義務を怠ったというものです。双葉病院(福島県大熊町)から長時間避難せざるをえなくなった入院患者ら44人を死亡させ、原発でがれきに接触するなどした東電関係者や自衛隊員ら計13人を負傷させたとされています。

事故の直後、東京電力の社員3人は250ミリシーベルト以上被ばくし、すぐに放射線医学総合研究所に搬送されて検査されました。

新聞報道によると、被ばく線量は、30代社員678ミリシーベルト(外部被ばく88ミリシーベルト、内部被ばく590ミリシーベルト)、40代社員643ミリシーベルト(外部被ばく103ミリシーベルト、内部被ばく540ミリシーベルト)、20代社員335ミリシーベルト(外部被ばく35ミリシーベルト、内部被ばく300ミリシーベルト)でした。

20代の男性は外部被ばくよりも内部被ばくが8.5倍も多かったのです。これだけ見てもわかりますが、内部被ばくを隠さなければ被ばく線量が多くなり、原子力政策を進めるうえで労働者を働かせることができなくなります。

ICRP(国際放射線防護委員会)が1950年にできた当初、外部被ばくを扱う第一委員会と、内部被ばくを扱う第二委員会がありました。ところが1年後に、内部被ばくの委員会の審議を中止しました。なぜでしょうか? 内部被ばくの委員会から報告書が出てきたら、原子力政策を進められなくなるからです。

廃止された内部被ばく委員会の初代委員長であるカール・モーガンは、2003年に出版された著書『原子力開発の光と影』(昭和堂)の中で、「ICRPは原子力産業の支配から自由ではない。(中略)この組織がかつて持っていた崇高な立場を失いつつある理由がわかる」と書いています。このようにして内部被ばくを隠蔽する歴史が始まっているわけです。

シーベルトは推測値

病院で日常的にみなさんに使われる注射器は、実は2万グレイ(Gy)の放射線を使って滅菌処理されています。グレイは、「もの」が単位質量あたりに放射線から受けるエネルギーを示す値であり、吸収線量と呼ばれます。1グレイは物質1キログラム当たりに1ジュール(J)のエネルギーを吸収したということを意味しています。

これは人為的に取り決めた「定義量」なのです。

注射器だけでなく医療器具は放射線で滅菌されていますが、私たちはそれを使っても影響を受けることはありません。外部被ばくというのは、一度物体を突き抜けて、それで終わりだからです。

人体への放射線の影響を評価するにはシーベルト(Sv)という単位を使います。しかし、シーベルトという値は、体重計や身長計のように実際に測ったものではなく、放射線が全身に均等に当たっていると仮定し、臓器毎の放射線感受性を実証性のない仮想の補正係数で算出した極めて不確実な「推理値」なのです。

福島第一原発事故の直後に被ばくした東電社員は
外部被ばくよりも内部被ばくが8.5倍も多かった 

全身化換算のトリックとは

そして内部被ばくについても、外部被ばくと同様に身体の臓器に均一に吸収されると仮定して計算されているのです。しかし、内部被ばくの影響は、それでは正確にとらえられません。アルファ線は体内では40ミクロン程度しか飛びませんし、ベータ線も周囲数ミリの細胞にしか当たりません。

ですから実際に放射線が当たるのは、アルファ線やベータ線を出す物質の周辺の何層かの細胞であり、アルファ線やベータ線による内部被ばくの場合は、1キログラムの塊に放射線は届くことはないのです。

正確には、実際に当たっている細胞集団の線量を計算すべきなのですが、全身化換算して表現するために、内部被ばくの線量は極めて低い値となります。

たとえて言えば、目薬を口から2~3滴投与した投与量を全身化換算しているようなものです。目薬は目に点すから効果や副作用があるわけですが、それを口から2~3滴飲んでも全身的にみればまったく影響ない量であることはおわかりでしょう。

線量が同じであれば、外部被ばくも内部被ばくも影響は同等と考えると取り決められているので、内部被ばくは極少化された線量となるため、問題とならないとされてしまうのです。こんな計算上のトリックがなされています。ICRPの考え方は、吸収線量が同じであれば、総損傷数は同じと考え、発がんリスクも同じと考えています。


西尾正道(にしお・まさみち)
北海道がんセンター名誉院長、北海道医薬専門学校学校長、厚生労働省北海道厚生局臨床研修審査専門官。
函館市生まれ。1974年札幌医科大学卒業。卒後、国立札幌病院・北海道地方がんセンター(現 独立行政法人国立病院機構 北海道がんセンター)で39年間がんの放射線治療に従事。2013年4月より北海道がんセンター名誉院長、北海道医薬専門学校学校長、北海道厚生局臨床研修審査専門員。著書に『がん医療と放射線治療』(エムイー振興協会)、『がんの放射線治療』(日本評論社)、『放射線治療医の本音‐がん患者2 万人と向き合って-』(NHK 出版)、『今、本当に受けたいがん治療』(エムイー振興協会)、『放射線健康障害の真実』(旬報社)、『正直ながんのはなし』(旬報社)、『被ばく列島』(小出裕章との共著、角川学芸出版)、『がんは放射線でここまで治る』(市民のためのがん治療の会)、その他、医学領域の専門学術著書・論文多数。

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