2016/11/14

【自主避難者から住まいを奪うな】京都で支援団体が公聴会

改めて無償提供継続求める~井戸弁護士は「福島県に責任を押し付けるのは国の〝逃げ〟」と批判

2016年11月14日 民の声新聞
http://taminokoeshimbun.blog.fc2.com/blog-entry-78.html

原発事故で福島県から京都府に〝自主避難〟した当事者と支援者らが4カ月後に迫った住宅無償提供打ち切りについて話し合う「いのちと避難生活をまもる第6回京都公聴会」が13日午後、京都市内で開かれ、避難者らが改めて無償提供継続を求めた。複数の訴訟で原発事故被害者と向き合っている井戸謙一弁護士(滋賀弁護士会)は「みなし仮設打ち切りの法的問題点」と題して講演。「福島県に責任を押し付けて『県知事が決めた事』と口にするのは国の〝逃げ〟だ」と指摘し、改めて国の責任を強調した。打ち切りまで残り4カ月。闘いに疲弊した避難者には今こそ、周囲の理解と寄り添う姿勢が必要だ。

【「原発事故に災害救助法は不適」】

講演の冒頭、井戸謙一弁護士が怒りを込めて発した言葉に、住宅無償提供打ち切りの問題点が端的に表されていた。

「何の責任も無い原発事故被害者を、こんなにも苦しめているこの国というのは、本当に恥ずかしい」

井戸弁護士がまず指摘したのが「災害救助法における救助の責任は国にある」という点。これまで国は、避難者との交渉の場で何度も「災害救助法の実施主体は都道府県知事。今回で言えば福島県知事。国は県知事からの協議内容を同意するだけ」と発言。責任を回避するかのような主体性に欠く発言を繰り返している。井戸弁護士は「災害救助は国の責任で行われるべきものだ。福島県に責任を押し付けて『県知事が(住宅の無償提供を)延長しないと決めたからしょうがない』などと言うのは〝逃げ〟だと思う。もっと国の責任を追及するべきだ」と、国の姿勢を厳しく批判した。

みなし仮設住宅としての住宅無償提供は災害救助法が法的根拠となっている。現在、全員ではないが原発事故避難者が家賃負担無く公営住宅や民間賃貸住宅で生活が出来ているのは、仮設住宅とみなした無償提供が続いてきたため。それとて、原発が爆発した翌年の2012年12月28日には新規受け付けが終了しており、家賃を自己負担している避難者も少なくない。

仮設住宅の提供は建築基準法上2年が限度。以後、必要に応じて1年ごとに提供を延長できる仕組みになっている。避難者は毎年のように延長されるか祈る状況が続いてきたが、福島県の内堀雅雄知事は「政府の避難指示が出ていない区域に関しては、除染などで生活環境が整ってきた」、「避難せず、普通に暮らしている県民の方が多い」などとして2017年3月末で無償提供を打ち切ると決定。国も同意した。

井戸弁護士は「そもそも、自然災害を念頭に置いた災害救助法は原発事故には適合していない。原発事故は自然災害と異なり長期化する。新たな法律をつくる必要があった」と語り、災害救助法による原発事故避難者救済には自ずと限界があると主張。今後想定し得る訴訟の可能性について①避難者が被告となり福島県や避難先自治体から住まいの明け渡しを求められる「受動訴訟」、②避難者が原告となり、福島県や避難先自治体を相手取って2017年4月以降も住み続ける権利がある事を主張する「能動訴訟」の両面から解説した。

「住宅問題は切羽詰まっている」と語った井戸弁護士。「住宅問題で訴訟を起こすなど具体的要請があるのなら、ニーズに応えられるように努力したい」と話した。「その場合は、出来るものなら国を被告にしたい。一番の当事者ですから」。




時には涙を流しながら住宅無償提供継続の必要性を訴えた避難当事者たち。異口同音に「原発事故は収束していない」「子どもの健康への影響を考えると福島には戻れない」と語った
=京都府京都市伏見区・呉竹文化センター

【京都市は有償での継続入居認める】

公聴会を主催した支援団体「うつくしま☆ふくしま in 京都」の奥森祥陽さん(京都府宇治市)はこれまで、行政との交渉など様々な場面で避難者をけん引。「福島県の〝新たな支援策〟では、多くの人がこぼれ落ちてしまう。一部見直されたが微調整にすぎない」と批判。「多くの避難者が、いま住んでいる公営住宅などでの生活継続を望んでいる。それを何とか実現したいと取り組んできた」として、これまでの京都での行政交渉を報告した。

「京都市も、1年前までは『現在、避難者が入居している公営住宅からはいったん、退去してもらう』、『その後も入居を希望する場合には他地域の公営住宅に住み替えてもらう』などと言って譲らなかった。この間、署名集めや議会への請願など、多面的な運動を展開して来た」と振り返った奥森さん。その結果、10月下旬に行われた京都市との交渉の場で「市営住宅への継続入居を希望する避難者については『公営住宅法に基づく特定入居』や『子ども被災者支援法に基づく優先入居』などを利用して継続入居が出来るように対応する」との回答を得たという。現在、福島県と共同で展開している戸別訪問に関しても「避難者を現在の住まいから追い出すための戸別訪問では無いことが確認出来た」という。

「確かに家賃負担は発生するが、減免措置などでかなり抑えられる。住み替える必要も無くなった。福島県が来春の打ち切りを強行したとしても避難者を路頭に迷わせないという点で一定の前進はあったと思う。茨城や千葉など、福島県外からの避難者についても、継続入居の道が開かれたと認識している」

一方で「そうは言っても有償になってしまうので、新たな訴訟で損害賠償を求めていく事も視野に入れる必要はある」とも。「無償提供継続を求める旗を下ろしたわけでは無い。京都はまれな事例で、全国的には来春には多くの避難者が住まいを失う。国家公務員宿舎に入居している避難者などに対する京都府の対応がまだ固まっておらず、運動を継続していく必要がある。心情として避難者を受け入れてくれた自治体を相手取った訴訟は起こしたくないが、命を守るためには裁判もやむなしと考えている」と奥森さんは語った。

(上)住宅打ち切りの法的な問題点について講演した井戸弁護士。「災害救助は国の責任。もっと国の責任を追及するべきだ」と強調した


(下)公聴会では、改めて「避難者を1人も路頭に迷わせない」事が確認された。打ち切り期限は迫っているが、避難者は国や福島県との交渉、世論喚起を続けていく

【「帰りたくても帰れない」】

福島県三春町から当時、9歳の娘を連れて避難した母親は「気持ちは帰りたいですよ。ママ友もたくさんいましたし。私たちは普通のお母さんですから。この5年間、帰る、帰らないでずっと葛藤しています。普通の生活が壊されてしまったんです」と揺れる心情を吐露した。「でも、子どもの健康を考えたら娘が成人するまでは京都にいたい。後悔するよりは、いま出来る事をしてあげたいと考えています。普通の地震で終わったのではありません。原発事故が起きたんですから。簡単に安全だと言える状態では無いですよ」ときっぱりと語った。

いわき市から避難中の母親はこれまで、国や行政との交渉にも積極的に参加し、メディアの取材も数多く受けた。「正直言うと、ゆっくり暮らしたいです。疲れます。毎日の生活の事で疲れています。でも、運動をやめたら避難者はいない事にされてしまう。負けたくないです。国の思惑通りに進められたくないんです」と苦しい胸の内を明かした。

「本当は帰りたいですよ。いわきの家にはたくさんの思い出があります。先日も、庭の花に水を遣っている夢を見ました…」

母親は、そう言って言葉に詰まってしまった。目からは大粒の涙があふれていた。帰りたい。でも汚染がある。被曝リスクが存在する。帰りたいけど帰れない。「ふと、自分は間違った選択をして京都に来てしまったのではないかと思ってしまう時があるんです。他の避難ママに避難は間違いじゃないって確認してしまう瞬間があるんです。誰だって好き好んで避難したわけじゃない。原発事故が無ければ避難の必要だって無かったのですから」。

「被曝の問題を抜きにして住宅問題は語れない」。そう話したのは南相馬市から避難中の母親。「原発事故はいまだ収束していません。被曝も、感受性が個々で異なるから、誰に健康被害が生じるかなんて分からないんです」と避難の合理性について訴えた。「でも、避難当事者が闘うのってつらいんですよ。表に出られるのはほんの一握りの人だけ。みんなパートなどで頑張って生活しているんですから。顔を出せば何を言われるか分からないですしね」。

自身も福島市からの避難者である宇野朗子さんは、こう語る。

「避難者を孤立させない事が大切です。ぜひ避難者もSOSを発して欲しい。きっと他のみんなにも共通する悩みですから」

避難生活を継続するだけでも大変なのに、なぜ当事者が国や行政と闘わなければいけないのか。避難の合理性、住宅無償提供の必要性について私たちが正しく理解する事が、どれだけ避難者の心の負担を軽くするだろう。打ち切りまで4カ月。あなたは〝自主避難者〟が目の前で切り捨てられていくのを黙って見過ごしますか?

0 件のコメント:

コメントを投稿