2015/04/13

栃木/住民票は福島に 1票託せぬ避難者多数

2015年4月13日 東京新聞地方版
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/20150413/CK2015041302000219.html


東京電力福島第一原発事故から四年を経て行われた今回の県議選。県内で今も暮らす約二千九百人の避難者の多くは、住民票を福島県に残しており、投票に参加できない立場から、県内の選挙戦を見守った。住民票を移していない理由はさまざまだが、故郷との縁を切りたくないと考える一方、現在暮らしている地域への思いを一票に託せないことに、複雑な感情を抱く人もいる。 

下野市内のコミュニティーセンターで十日に開かれた、避難者団体「ふくしまあじさい会」の昼食会。約五十人が和やかな雰囲気の中で弁当を広げ、互いの近況や避難生活の情報をやりとりした。中には県内で定住を決めた人の姿もあったが、大半は「住民票は残したまま」と口をそろえる。

双葉町から宇都宮市に避難した六十代の女性も、住民票を移す考えはない。県議選のポスターを見掛けても「故郷以外の場所で、地域の代表を選ぶ心境になれない」と素通りしている。

浪江町から下野市へ移住した五十代の男性は「帰還をあきらめきれないから、住民票は残している」と話す一方、「こちらでお世話になった人に投票したい思いもある」とつぶやいた。

あじさい会は二〇一二年、外部の支援者に頼らない交流組織としてスタート。運営や交流行事の企画、月一度の昼食会の準備など、ほぼ全ての活動を避難者が主体となって続けてきた。

あじさい会会長で、南相馬市から下野市へ避難した佐々木正教(まさのり)さん(78)は「県議選では原発を争点にしてほしかったが、あまり話題にならなかった」と落胆。今後の生活への不安から住民票は移していないが、「原発事故が風化すれば、被害がなかったことにされる」と、投票を通じて県政に参加できないことに焦りも覚える。

福島県外に避難した人のケアに当たる福島県避難者支援課の担当者は「住民票の移転に慎重な人は地域を問わず多い」と指摘。東電の賠償や国の支援が将来どうなるか見通せないことが、背景にあるとみている。

栃木県内で避難者への聞き取りを重ね、あじさい会とも交流のある宇都宮大国際学部の清水奈名子(ななこ)准教授も、避難者が避難先の地域で意思表示をしにくくなっている現状を憂う。宇都宮市に避難している七十代の女性から以前、「お世話になった避難先で苦情なんて言えない」という趣旨の手紙を受け取ったこともある。

避難者の声なき声を伝えようと、今春から宇都宮大で、避難者の証言集を使った授業を本格的に始める。「生きていくのに精いっぱいで、声を出したくても出せない人がいるということを、一票を持つ私たちは忘れてはいけないんです」

県内への避難者でつくる「ふくしまあじさい会」の交流会に
参加する人々。貴重な情報交換の場にもなっている=下野市で





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