2015/12/20

<焦点>風評被害「基準値が助長」

2015年12月20日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201512/20151220_63006.html

東京電力福島第1原発事故による農林水産物の風評被害に関して、食品中の放射性物質基準値が助長につながっているとの指摘が、有識者や地元関係者から出ている。国が国際水準より厳しく設定したことで、検査結果が基準内に収まっても、数値が高い印象を与えがちだからだ。
(若林雅人)

<影響評価し設定>
海外と日本の基準値は表の通り。ある食品から1キログラム当たり50ベクレルを検出した場合、米国では基準値1200ベクレルに遠く及ばないが、日本だと100ベクレルに近接し、安全面の余裕がないかのように見える。

福島県のモニタリング検査で基準値を超えた食品の割合は12年度1035件(全体の3.9%)、13年度391件(1.4%)、14年度113件(0.4%)と年々減っているが、検査開始当初は基準値に近い数値も目立ち、消費者の敬遠を招く結果になった。

原子力規制委員会の田中俊一委員長は基準値に異論を唱える一人だ。

 「100ベクレルは国際的には異常に低い。『だから(風評)被害が甚大だ』と言う首長が何人かいた」。桜井勝延南相馬市長と会談した10月22日、第1原発周辺の市町村長の受け止め方を代弁した。
田中氏は昨年10月、河北新報社のインタビューに対しても「国際会議などで日本の基準値は低すぎると言われたことがある。見直しの議論はいずれしなければならない」と発言。真意を国会で問われた。
日本の基準値が低いのは、原発事故の当事国として影響を受けている食品の割合を50%と、米国(30%)や欧州連合(EU、10%)より大きく見積もっていることが主因だ。一方、チェルノブイリ原発事故が起きたウクライナやベラルーシでは青果物が40~100ベクレルなどと一部で日本より厳しい。

<国は維持の考え>
消費者庁が全国の消費者約5000人を対象に継続実施する意識調査の最新回(8月)では「放射性物質が含まれていない食品を買いたい」と答えた約1100人のうち、約80%が「購入をためらう産地」に福島県を挙げた。岩手、宮城を含む被災3県に対しては約54%、東北6県にも約24%が「ためらう」と答えた。

低線量被ばくの影響評価が定まっていないことも不安を抱かせる要因だが、福島県幹部は、政府が原発事故当初に迷走した点を指摘。「国民が国を信頼できず、基準値にも不信感を持った。それが尾を引いている」との見方を示す。

厚生労働省基準審査課は「基準値に意見があることは承知しているが、見直すことで不安を与えたり市場に混乱を招いたりする恐れがある。現時点で見直すべき科学的根拠もない」と当面は維持する考えだ。


[食品の放射性物質基準値]東京電力福島第1原発原発事故直後、国は1キログラム当たり一般食品500ベクレル、牛乳(乳製品含む)と飲料水各200ベクレルの暫定規制値を設けた。その後、食品の国際基準を決めるコーデックス委員会の指標に基づいて食品からの被ばく線量を年間1ミリシーベルトまでとし、放射性セシウムについて一般食品(乳製品含む)100ベクレル、牛乳と乳児用食品(新設)各50ベクレル、飲料水10ベクレルとする現行の基準値を策定、2012年4月に導入した。

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