2015年12月20日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201512/20151220_63010.html
東京電力福島第1原発事故の影響を大きく受けた福島県産品は生産、出荷ともに回復傾向にある半面、風評被害は今なお続く。生産者らは福島産に対する敬遠ムードの固定化と闘っている。
<悔しくて涙出た>
伊達市梁川町の農業宍戸里司さん(64)方に11月、美しいオレンジ色のカーテンが降りた。特産の干し柿「あんぽ柿」の出荷に向け、陰干し作業が最盛期を迎えていた。
あんぽ柿は原発事故以降、加工の自粛が続き、再開は2013年だった。農地のうち、放射性物質基準値(1キログラム当たり100ベクレル)の10分の1以下にある区域が8割以上を占めることを条件に加工が認められ、全量検査をして出荷している。
原発事故後、宍戸さんら伊達地方の農家は柿の木の皮をむき、高圧洗浄機で除染した。約26万本に上った。「11、12年産は収穫した柿を全部捨てた。悔しくて涙が出た」と振り返る。
伊達みらい農協(伊達市)のあんぽ柿出荷量は震災前の10年度は1230トンだった。それが13年度は128トンに激減。14年度も225トンと回復のペースは遅い。それでも宍戸さんは「あんぽ柿という福島の食文化を後世に残したい」と前を向く。
柿を干す作業に当たる宍戸さん。あんぽ柿の出荷量はまだ回復途上にある =11月下旬、伊達市 |
<農産物は光明も>
漁の自粛が続く海産物と異なり、福島の農産物には光も差している。仙台中央卸売市場(仙台市)の福島県産青果物の取扱量と平均価格の推移はグラフの通り。14年度は価格で野菜、果実とも10年度に近づき、取扱量は果実で震災前を上回る。
ただ、市場関係者からは「関東より西で扱わなくなった分が仙台に流れている」との指摘も。全農福島県本部によると、14年産青果の全国での販売実績は重量で10年比89%、金額で79%にとどまる。
福島県が実施している農産物の放射線モニタリングでは、ことし4~11月に検査した野菜や果実、穀類など464品目計1万7840点のうち、基準値を超えたのは16点。99.9%は検出限界値以下などで基準値内に収まっている。
福島県産品の安全性の回復と証明の取り組みは、全国には伝わっていない。消費者庁が13年から実施する約5000人対象の意識調査では、食品の放射性物質検査の存在を知らない消費者がことし8月の調査で約35%を占め、過去6回で最多となった。
同庁が各地の要請で開く食と放射能に関する説明会は福島県以外での開催が減っている。12年度は計189回のうち101回に上ったのが、本年度は12月まで計74回のうち10回だけ。消費者安全課は「福島産以外は気にする必要がないとの認識が定着した」とみる。
福島県農産物流通課の担当者は「今も福島産を避ける『固定客』に振り向いてもらうのは至難の業。県産品の魅力を高め、『固定客』以外に福島ファンを増やしたい」と話す。
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