2016/02/29

福島の土壌に雲母が多いことが幸いした…セシウム吸着効果で農林水産物汚染は着実に減少

2016年2月29日 産経新聞
http://www.sankei.com/premium/news/160229/prm1602290014-n1.html

■魚も排出機能で汚染抑制
東京電力福島第1原発の事故で放射性物質が検出された福島県の農林水産物。この5年間で基準値を超えるものは大幅に減ったが、森林では深刻な汚染が続く。自然環境や動植物は放射性物質をどのように蓄積、排出しているのか。そのメカニズムを探った。(伊藤壽一郎)

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◆雲母の粘土が固定
原発事故では約90万テラベクレル(テラは1兆)もの放射性物質が放出され、福島県全域に飛散した。県の調査によると、2011年度産の野菜・果実のうち、約2%が国の一般食品の放射性セシウム基準値(1キロ当たり100ベクレル)を超えた。年間約1千万袋を生産しているコメも、12年産の玄米71袋が基準値を上回った。

だが汚染は着実に減っている。野菜・果実は13年度以降、基準値超えはなく、全袋を検査している玄米も15年産の基準値超えはゼロだ。東京大の田野井慶太朗准教授(放射線植物生理学)は「福島の土壌は雲母に由来する粘土質が多いことが幸いした」と解説する。

原発から放出されたセシウムは約3カ月で地表から深さ6センチ程度にまで浸透。セシウムは水に溶けるとプラスの電気を帯びるが、雲母由来の粘土の粒子はマイナスの電気を帯びているため、セシウムを引き寄せて吸着する。

粘土の粒子は層状で、時間が経過すると互いにくっつき合い、セシウムを層の間にがっちりと挟み込む。こうなると、セシウムが植物に取り込まれることはない。

また、畑や水田で大量に使用されるカリウム肥料も貢献した。土壌中にカリウムとセシウムがあると、カリウムは植物の根に先に入り込み、セシウムの吸収を阻害する。植物はカリウムを十分に取り込んだ状態になると、セシウムを吸収しなくなる。

減少に向かう放射能汚染
減少に向かう放射能汚染

◆海は以前の水準に
海流の影響でセシウムが拡散しやすい海洋も、汚染は減っている。東京海洋大の石丸隆特任教授(海洋生物学)は「原発近くを除いた大半の沖合で、海水中のセシウムは事故前と同水準の1リットル当たり数ミリベクレルに下がった」と話す。

海底の土は場所によって1キロ当たり100ベクレル超のセシウムが現在も検出される。だがセシウムを大量に含むのは泥のような堆積物であることが多く、その大半を占めるミネラルはセシウムを強く吸着して離さない性質がある。

魚の餌となるゴカイを汚染された堆積物で飼育する実験を行ったところ、セシウムはほぼ取り込まれないことが確認されたという。こうした海底の小動物を食べる魚にも、セシウムは移行しないことになる。

また、海の魚は海水から塩分を取りすぎないようにするため、えらに塩分を積極的に排出する機能がある。セシウムは魚の体内で塩分やミネラルと同じ動きをするため、取り込んでも次々に排出されるわけだ。

福島沖の魚は事故当初、大量のセシウムが検出されたが、15年4月以降は基準値を超えたものはない。県漁業協同組合連合会は国より厳しい1キロ当たり50ベクレルの自主基準を設け、これを安定的にクリアした70種以上の試験操業を開始した。

ただ、スズキ、クロダイ、メバル、アイナメ、ヒラメなど沿岸の大型魚を中心とする約30種は一部で自主基準を超えており、現在も出荷制限が続いている。寿命が比較的長い魚が多いことから、事故直後に高濃度に汚染した個体が生き残っている可能性が高いとみられている。

魚の世代交代や、半減期に応じたセシウムの崩壊は今後も進む。石丸氏は「新たなセシウムの供給がないかぎり、海水魚の汚染が解消されるのは時間の問題だ。来年ごろには50ベクレル超の魚もいなくなるだろう」と話している。

◆森林は深刻な汚染続く

森林の汚染は現在も深刻な状態だ。天然のウドやフキ、ゼンマイなどは、2015年度も基準値の約2倍のセシウムが検出された地域があった。天然キノコも全59市町村の9割強で出荷制限が続く。

住宅地や農地周辺の樹木は、セシウムが付着した葉や枝を高圧水で洗浄したり、樹皮を剥がしたりする除染が行われている。だが、住宅地や農地から離れた森林は国の除染対象となっておらず、回復の見通しは立っていない。

森林の地表はセシウムがついた葉や枝、樹皮が降り積もり、汚染度の高い腐葉土が敷き詰められている。山菜やキノコが大量のセシウムを含むのは当然だ。土の中にすむ虫を食べるイノシシも15年度で65%が基準値を超えている。キジやツキノワグマも高い傾向がある。

腐葉土のセシウムは雨水などとともに河川へ入り込む。海水魚と違い塩分が貴重な淡水魚は、体内で同じ動きをする塩分とセシウムを両方とも積極的に蓄積するため、イワナやヤマメは基準値超えが続いている。

東京大の二瓶直登准教授(放射線環境工学)は「スギの幹はセシウムを吸収しやすいことが最近の研究で判明し、林業への影響も懸念される。森林の汚染は長期的な課題になりそうだ」と話す。


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