http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG05H1V_Z10C16A2CC1000/
東京電力福島第1原子力発電所事故の影響を調べるため、福島県いわき市の末続(すえつぎ)地区では住民自らが市からの委託事業で個人の被曝(ひばく)線量を計測している。内閣府原子力災害対策本部によると、地区全体でのこうした取り組みは珍しいという。住民は「生まれ育った土地で安全に暮らす方法は、自分たちで考えていきたい」と話している。
いわき市北部にある末続地区には約200人が暮らす。農家の新妻ヨシ子さん(76)は1月下旬、1人分余計につくった食事を袋に詰め、自宅に来た区長の高木宏さん(73)に手渡した。食事は小松菜や大根など自ら育てた作物を使った。
末続地区では昨年1月から、家庭の食事を定期的に回収して保健所で放射線量を検査し、作物の測定会も毎週行っている。新妻さんは「これで安心して作物を食べられるようになった」と話す。
住民が被曝線量を測るのに使う「個人線量計」は昨年、原発事故後に開発された新型に更新された。新型は積算の線量だけでなく、1時間ごとの線量を記録でき、どんな行動をとると放射線を浴びやすいかも分かる。2カ月に1度回収し、1時間ごとの線量をグラフ化して配布している。
末続地区で住民が自ら取り組む活動は、線量調査のほか、内部被曝の検査、放射性物質を含む廃棄物の保管施設の空間線量の測定、医師の相談会など多岐にわたる。
末続地区でこうした取り組みが広がったのは、農家の遠藤真也さん(47)の事故直後の活動にある。遠藤さんは地区の安全性を調べるため、地元企業や住民の協力を得て、全120世帯の空間線量と全450カ所の田畑の土壌の放射線量を計測した。
この計測データが、放射線の世界的な基準を作成する国際放射線防護委員会(ICRP)の目に留まり、同委員会の幹部が事故翌年に末続地区を視察した。
その際、遠藤さんらは幹部に「末続に住んで大丈夫か」と尋ねたが、答えは「皆さん自ら判断してほしい」だった。遠藤さんは「末続の線量は避難指示地域と比べてかなり低い。この事実をどう受け止めるか。他人に決めてもらうことじゃないとハッとさせられた」と振り返る。
それ以降、末続地区では専門家を呼んで個人線量の分析を続けている。昨年1月からは市の委託事業として予算がつき、新型の個人線量計の導入などにつながった。
高木区長は「安全だから住む、危険だから住まない、ということじゃない。生まれ育った末続で生きていきたいから、自分たちで安全に暮らす方法を考えていく」と話している。
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