2016/02/22

原発自主避難賠償判決 実情に応じた救済につなげたい

2016年02月22日 愛媛新聞 
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201602220909.html

東京電力福島第1原発事故で自主的に避難した家族が損害賠償を求めていた訴訟で、京都地裁は3千万円を支払うよう東電に命じた。自主避難者に対する東電の賠償責任を認めた判決は初めてとみられ、救済の追い風になることを期待する。

争点は、損害の項目や範囲などを定めた国の指針の位置付けだった。判決は「対象外でも個別具体的な事情に応じて損害を認めることはあり得る」とし、賠償は指針の範囲内に限るとの東電の主張を退けた。一方的な線引きや機械的な判定に異を唱えたともいえる。国は実情に応じた救済が可能になるよう、指針をはじめ賠償制度の見直しを急がねばならない。

提訴していたのは、福島県から京都市に自主避難した40代の夫婦と子どもだ。判決は、夫が発症した不眠症やうつ病と原発事故との因果関係を認め、経営していた会社の休業に伴う損害や避難の費用、慰謝料などの支払いを東電に命じた。

判決の意義は東電の賠償責任を認めたことにとどまらない。賠償額は、原子力損害賠償紛争解決センターの裁判外紛争解決手続き(ADR)で、原告と東電双方の主張を踏まえて提示された1100万円を大きく上回った。自主避難者を勇気づける司法判断を、全国で相次ぐ集団訴訟につなげてもらいたい。

事故の賠償をめぐっては、かねて避難指示区域内の住民と自主避難者との格差が指摘されてきた。賠償の請求は、東電との直接交渉で決着しなければADRの申し立てに進むのが一般的な流れ。しかし自主避難者の場合、区域内の住民に比べて和解提示額が低くなる例が多いことは、センターを所管する文部科学省も認めている。

再申し立てでも納得できなければ提訴するしかないが、訴訟費用や立証手続きなどハードルの高さから断念するケースも少なくあるまい。集団訴訟に加わることさえ容易でない人もいよう。ADRそのものの在り方を見直し、賠償格差を埋める努力も求めておきたい。

看過できないのは、賠償に消極的と映る東電の姿勢だ。損害を受けた住民らに真摯(しんし)に向き合っているとは言い難い。

和解案に応じないケースもある。全町避難が続く福島県浪江町の住民1万5千人によるADRでは、センターが慰謝料増額の受け入れを迫る異例の勧告書を突き付けたが、東電は受諾を拒否した。法的拘束力はないとはいえ、経営再建ありきで賠償を軽視しているとの批判は免れまい。原発事故の責任をあらためて肝に銘じるべきだ。

事故からもうすぐ5年。福島県は1万8千人と推計する自主避難者について、住宅無償提供を来年3月で打ち切ると決め、政府も就業・就学支援の縮小などの検討に入った。一律な対応で、必要とする人に支援が届かない事態を危惧する。柔軟な救済の重要性を示した判決を、重く受け止めなければならない。

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