2016/02/25

3・11後のサイエンス 5年経て考える測定の意義


2016年2月25日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160225/ddm/016/070/024000c

今月8日、福島県立福島高校3年の小野寺悠(はるか)さんと東京大理学部の早野龍五教授が日本外国特派員協会で記者会見した。テーマは個人線量計「D− シャトル」を使ったプロジェクトの成果。英専門誌「放射線防護」に掲載された論文には高校生を中心に共著者233人が名を連ねる。

「他の地域と比べて被ばく線量が高いのかを知りたい」。小野寺さんら福島高校の生徒が考えたことをきっかけに、県内外の12高校131人、フランス、ベラルーシ、ポーランドから85人の計216人が2014年の2週間、D−シャトルを身につけて生活した。

ここからわかったのは、線量の中央値やばらつき方はほとんど変わらないということだ。放射性セシウムによる土壌汚染はあるのになぜかといえば自然放射能 が低いため。「客観的な事実に基づいてリスクを評価する重要性がわかった」。英語でしっかり受け答えする小野寺さんの言葉に福島市民としての思いを感じ る。

「最初は内部被ばくに注目していた」。プロジェクトを支援した早野さんがこの5年を振り返る。本職は反物質の実験物理学者だが、人々の不安に応えようと 行動を起こしてきた。ホールボディーカウンター(WBC)による3万人以上の内部被ばくの測定に協力し13年に英文論文に発表。12年秋には福島県三春町 の小中学生全員を対象にしたWBC測定で検出限界を上回る子どもがいないことを示した。給食のセシウムも測ってきた。検出限界が通常の5分の1〜6分の1 の乳幼児用WBC「ベビースキャン」を開発。15年春までに延べ2700人以上を調べ、検出限界以上の被ばくがないことも示した。

さらに「何を食べたか」を聞いて対応できるWBCと違って、行動と線量を結びつけにくい外部被ばくにも注目。1時間ごとの積算線量が読み出せるD−シャ トルの利用を後押ししてきた。数値が高ければ「この時どこにいた?」と聞くことで対話ができる。高校生のプロジェクトでも生活圏のどこで線量が高いかがわ かった。

こうした調査から、普通に生活している限り「内部被ばくは無視できる。外部被ばくも自然放射能を含め年1ミリシーベルト内外の人が多いことがわかった」 と早野さんはいう。ただ、はっきりしないのは放射性ヨウ素による初期被ばくで、当時、きちんと測定しなかったことの弊害は今も尾を引く。

とにかく測定し、公表すること。早野さんが実践してきたことの重要性は今後も変わらない。
(専門編集委員)

小野寺悠さん(左)と早野龍五・東京大教授=2016年2月8日、青野由利撮影 

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