2016/02/24

避難者に寄り添う 会津木綿の内職通じ孤立防ぐ

2016年2月24日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160224/ddl/k36/040/630000c 

首元を飾るのは、しま柄が特徴的な会津木綿のストール。「肌にどんどんなじむ。愚直でまじめな素材だ」。少し窮屈そうに巻いた大柄の谷津(やづ)拓郎(29)は手に持った赤や緑の鮮やかな生地をいとおしそうに見つめた。

ストールは東京電力福島第1原発事故の避難者の手作り。谷津は会津木綿を使った商品を通じ避難者に寄り添い、孤立しそうな人々を支えてきた。

福島県会津坂下(ばんげ)町で、谷津は生まれ育った。高校生のころ、シャッター通りになった地元商店街を見て「言いようのない寂しさを感じた」のが、地域活性化に興味を抱いた原点だ。

早稲田大大学院で地域おこしの取り組みを研究、街づくりNPO法人に就職するため故郷に戻って東日本大震災に遭う。

炊き出しなどのボランティアに取り組んでいるとき、仮設住宅に暮らす避難者の言葉に衝撃を受けた。「何もすることがないのがつらい」

■仕事してもらえたら
「このままでいいのか」。谷津の頭に浮かんだのは、廃れつつある郷土の伝統工芸、会津木綿だった。「地元の伝統素材を使って、仕事をしてもらえたら」

内職を10人ほど募り、2011年末から会津木綿の製品作りを開始した。当初はミシンを使いハンカチやクッションを作ったが、慣れない作業に戸惑う人も。「特別な技術や機械は使わず誰でも作れるものを」と考案したのが、今では主力商品として全国販売しているストールだ。

谷津は個人で始めたこのプロジェクトを「IIE」と名付けた。大震災の発生日「3・11」を逆さまにしたイメージで「イー」と読ませる。

「大震災をひっくり返し復興していくという思いを、さりげなく伝える」ことを狙った。震災から2年後、谷津はこの名を社名にした株式会社を立ち上げる。起業したときは「目の前の状況を何とかできないか」と考えただけだった。「被災者支援」をあえて前面に出さず、品質で勝負する姿勢を貫いてきた。会社化によって「お客のために価値を出し続ける」という責任がより重くなった。

■「作業に助けられた」
生地の端近くの横糸を1本ずつ丁寧にほぐして取り、残った縦糸をいくつかの束にまとめ飾りにする。ストール作りは地道な作業だ。3年以上にわたって作り手を務める広嶋めぐみ(41)の指先は休むことを知らない。

福島第1原発から数キロの大熊町熊川地区に住み、ガソリンスタンドに勤務していた。震災直後は消防団員として津波の不明者捜索に当たった夫と離れ、小学生と幼稚園児だった2人の息子を連れ新潟県に避難。その後会津に移り、仮設住宅暮らしは3年以上に及んだ。

「友達も散り散りになり、家にこもるだけの日々。作業に集中すると余計なことを考えない。助けられた」と振り返る。

震災から5年を迎えるが、多くの作り手の出身地・大熊町の大半は、帰還困難区域のままだ。戻れるめどは立たない。

■報酬の多寡だけでは
作り手は20~70代の女性約20人。広嶋を含む大半は仮設住宅を出て、新しい暮らしを築きつつある。収入は毎月1万~3万円ほどだが、報酬の多寡だけでこの仕事の価値は測れない。

広嶋は言う。「会津のものを自分が作り、谷津さんが外に広めてくれたら、受け入れてくれた会津への恩返しになるかな」

会津木綿は17世紀、江戸時代に生産が始まり、野良着などの素材として親しまれた。生産工場は最盛期に30社近くあった。戦後、化学繊維に押され需要も減少したことから、残るのはわずか2社だ。存続の危機にある。

谷津が振り返った。「昔は地域ごとに柄が違いアイデンティティーを競い合った」。事務所を構える会津坂下町の青木地区は、「青木木綿」と呼ばれた代表的ブランドの中心地だった。

■ブランドの再興にも
この地区の工場も約30年前までに全て廃業。会津木綿にほれ込んだ谷津はブランド再興も見据え、廃工場に放置されていた約100年前の織機を15年秋に譲り受けた。幼稚園を再利用した事務所に再び使命を得た10台の織機が並ぶ。

「会津木綿をもっと多くの人に知ってもらいたい。会津を、福島を好きになるきっかけをつくりたい」。技術指導を受けながら織機を修理し、少しずつ布地の生産にも取り組む予定だ。

谷津の仕事ぶりに「山田木綿織元」の代表、山田悦史(よしぶみ)(66)は「ストールは従来と異なった分野での商品開発だった。見たときは新鮮な驚きがあった」と期待を寄せる。

谷津はある作り手の言葉が忘れられない。「やっと日の光を浴びることができた……」。内職によって孤独から救われ生きがいができたことへの感謝だ。避難者の苦しみを少しでも軽くしたいと思うと勇気が湧いてくる。(敬称略)

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