http://mainichi.jp/articles/20160219/k00/00m/040/150000c
自主避難で初の賠償命令 原発ADRより高額を評価
東京電力福島第1原発事故を巡り、自主避難者に対する東電の賠償責任を初めて認めた18日の京都地裁判決。避難生活の中で精神疾患を発症した原告の個別 事情を一定程度踏まえ、原発ADR(裁判外紛争解決手続き)で示された額より多い賠償を命じた一方、自主避難の合理性を認める期間を限定する内容。自主避 難をしている人たちや関係者の受け止め方はさまざまだ。
「当面の生活ができてホッとしているが、夫が(精神疾患で)働けない状況でこの金額では将来の見通しが立たない」。判決後、原告側代理人の井戸謙一弁護士は記者会見し、男性の妻のコメントを紹介した。
井戸弁護士は2006年に志賀原発の運転差し止め判決(金沢地裁)を出した元裁判官。「主たる争点が認められ、評価できる判決だ。東京電力の低い賠償金で泣き寝入りする自主避難者もたくさんいる。個別に訴訟を起こすべきだ」と訴訟の意義を強調した。
関係者によると、これまで自主避難者が申し立てたADRの和解案では、東電や原子力損害賠償紛争審査会などが定めた賠償基準が高いハードルとなり、慰謝 料が大人1人で8万円しか認められず、自主避難者の就労不能期間についても「6カ月」が基準とされるなど、低い賠償水準が定着していたという。だが判決は 男性の慰謝料を100万円とした。
多くのADR申し立てを手掛ける秋山直人弁護士(第二東京弁護士会)は「基準に縛られずに個別事情を反映した、自主避難者に希望を与える判決だ」と評価 する。ADRに詳しい大阪市立大大学院の除本理史教授(環境政策論)は「国や東電が一度決めた基準を変えるとは考えにくいが、個別訴訟の判断を積み重ねる ことで、実質的に基準を変えるきっかけになる」と語った。
原発事故で避難した人たちは全国各地で集団訴訟を起こしている。
「原発被害者訴訟原告団全国連絡会」共同代表で、福島県郡山市から2人の子供と大阪市に避難した森松明希子さん(42)は「自主避難者の個別状況を判断 して、ADRを上回る賠償を命じたことは画期的。今後、多くの人が声を上げられるようになれば、より被害の実像が世間に明らかになる」と期待した。
だが「自主避難が合理的と認められる期間が2012年8月末まで」と限定されたことには「国の宣伝の受け売りで、おかしい。その日以降も被ばくに弱い子どもを連れた多くの世帯が自主避難している。現実を全く見ていない」と不満を示した。
京都地裁で国や東電を相手取り集団訴訟を起こしている原告の一人で、同県いわき市から京都市伏見区に子供2人と避難する高木久美子さん(49)は東電か ら自主避難者に対する賠償金計約150万円を受け取ったが、すぐに底をついた。現在は市役所の嘱託職員として働き、何とか生計を立てている。「生活が苦し くても、放射能を心配して暮らすよりまし。自主避難者にはほとんど賠償が認められておらず、国や東電は避難者の実態を理解すべきだ」と訴えた。
【鈴木理 之、川瀬慎一朗】
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