(放射線によるリスクは、相当の線量でない限り「ただちに影響はない」わけで、それをもって「命奪うのは放射線ではない」と断言はできないはずです。また、ベビースキャンのほうが、一般のホールボディカウンターよりも検出限界が低いにしても、安全を強調することなく、できるだけ被ばくを低減するようアドバイスをお願いしたいです。 子ども全国ネット)
http://www.sankei.com/affairs/news/160219/afr1602190042-n1.html
小さな診察室に穏やかな空気が流れた。
「大丈夫。今の生活で食べているものは、何も問題ありませんよ」
子供が被曝していないか不安そうな母親をなだめるように、医師の坪倉正治さん(34)は言葉をかけた。「ありがとう」。女の子がはにかむと、坪倉医師は185センチの長身をかがめて「どういたしまして」とほほ笑んだ。
東京電力福島第1原発から北に約23キロ離れた福島県南相馬市立総合病院。坪倉さんは東大医科学研究所に研究員として籍を置きながら、週の半分をここで過ごす。毎週火曜日の午後は、乳幼児専用のホールボディーカウンター(WBC)「BABY SCAN(ベビースキャン)」を使い、6歳以下の児童の内部被曝量を測定している。体外から放射線を浴びる外部被曝に対し、飲食物から被曝する内部被曝は、健康への影響がより大きい。
この日、長女(5)の検診で訪れた女性(36)は、平成23年3月の東京電力福島第1原発事故で、まだ生後3カ月だった長女とともに県外へ避難し、2年ほど前に南相馬市の実家に戻った。
「子供に内部被曝の検査を受けさせていないことが、ずっと心に引っかかっていた」。結果を聞き、「ほっとした。2人目も安心して育てられる」。間もなく生まれる新しい命に語りかけるように、大きくなったおなかをさすった。
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坪倉さんが南相馬市に入ったのは、原発事故から約1カ月後の23年4月。これまでに南相馬市と周辺自治体の延べ10万人以上の内部被曝検査に携わってきた。
また、南相馬市が事故後、全市民を対象に希望者に配布したガラスバッジ(個人線量計)のデータ延べ約5万人分の解析も進めるなど、現場の医師としては唯一、「内部」と「外部」の両方から住民への影響を調査し続けている。
23年9月から24年3月までのおよそ半年間では、被験者の35%で放射性セシウムが検出されたが、翌年の夏は10%以下、26年以降は5%以下で推移している。
26年から県内3カ所で導入したベビースキャンは通常のWBCの5~6倍の検出能力を持つ。これまでに4千人以上を検査したが、放射性セシウムが検出された児童は1人もいない。
にもかかわらず、検査と同時に実施したアンケートでは、福島県産の野菜やコメ、水道水を避ける親の割合が約6割に上った。「通常の食生活で内部被曝することはない」。坪倉さんは“安全性”を発信する必要性を感じ、これまでに県内の小学校などで100回以上の講演を重ねてきた。
原発事故は福島の社会を大きく変化させた。避難で長時間の移動に耐えられず亡くなった高齢者、身体の異変を感じても受診せず末期がんになった女性、脳卒中でたびたび入院する除染作業員…。住民は健康を害し、「弱者」があぶり出された。坪倉さんはこうした実態を目の当たりにしてきた。
データも坪倉さんの見てきた現実を裏付ける。原発事故後、南相馬市立総合病院では脳卒中で入院する患者が倍増した。糖尿病や高脂血症などの生活習慣病が事故後に増加していたことも分かり、避難した人の方が避難しなかった人よりも病気の悪化率が大きいという結果も出ている。
「住民の命を奪っているのは放射線ではない。放射線をリスクの1つとしてとらえながら、本当に命を守りたければ、社会全体の問題として本気で取り組んでいかないといけない」。坪倉さんはそう訴えた。
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原発事故から5年近くがたつが、放射線への不安はなかなか消えない。被曝リスクの実態はどこまで分かっているのか報告する。
【用語解説「放射線被曝」】 人体が放射線を浴びることで、影響の大きさは実効線量(単位はシーベルト)で表される。放射線医学総合研究所によると、年間では宇宙からも大地からもそれぞれ0・3ミリシーベルトほど被曝するほか、食事からも約1ミリシーベルトを摂取している。自然の放射線による被曝の積算線量は年間で2・1ミリシーベルト(日本平均)になる。ほかにも、胸のエックス線検査は1回0・06ミリシーベルト、東京-ニューヨーク間を航空機で往復すると0・19ミリシーベルトを浴びる。
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