2016/03/11

「3・11」以降の5年間読み解く 県内各種データから/三重

2016年3月11日 中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/mie/20160311/CK2016031102000008.html

東日本大震災の発生から11日で丸5年となる。時が経つにつれ、薄れていく震災の記憶。なかなか進まない災害への備え。そうした中、今も多くの被災者たちが避難生活を余儀なくされている。県内の各種データから、「3・11」以降の5年間を読み解いた。

◆県意識調査 年々薄れる危機感
県が毎年続けている「防災に関する県民意識調査」の結果を、経年変化で分析した。東日本大震災の発生時に高まった災害への危機感は急速に鈍り、家庭や地域での防災対策にも影を落としている。

調査では震災翌年の二〇一二年度以降、防災意識の変化について▽震災以前から高い防災意識を持ち続けている▽震災時の危機意識を変わらず持ち続けている▽時間の経過とともに危機意識が薄れつつある▽震災時に特に危機意識は持たなかった-の四択で質問。「時間の経過とともに危機意識が薄れつつある」と答えた人の割合は、調査開始の一二年度で41・9%だったが、年々増え、一五年度は56・6%に上った。



自宅の家具類や冷蔵庫、テレビなどを固定しているかどうかを尋ねた質問では、「固定していない」との回答の割合は、震災前の一〇年度は52・0%で、一三年度は45・0%にまで減少。だが、その後は上昇に転じ、一五年度は47・8%となった。



地域や職場の防災活動への参加状況も、同様の傾向を示した。過去一年間で「参加した」と答えた人の割合は、一三年度の57・6%をピークに伸び悩み、一五年度は47・4%に落ち込んだ。



意識の低下が進む現状を踏まえ、県は本年度から、地域の自主防災組織と消防団の連携を促し、防災力を高めるプロジェクトに取り組んでいる。防災企画・地域支援課の担当者は「風化はいろんな面で表れてきているが、そのペースを少しでも下げるため、地道に訴えていく必要がある」と話す。


◆住宅耐震、まだ不十分

大地震の発生で住宅が倒壊すれば多くの命が犠牲となるが、県内の木造住宅の耐震化が、十分に進んだとはいえない。

県住宅課によると、震災を契機に耐震化への関心が高まり、震災翌年の一二年度には県内の木造住宅の耐震化工事が四百十六件に上った。だが、その後は減少傾向が続き、一五年度は一月末現在で百四十八件。震災前の水準を下回っている。

同課によれば、壁の補強や屋根のふき替えなどの耐震化工事には、国や県、各市町などの補助制度を利用できる。例えば、工事費が二百万円の場合、自己負担額は半額の約百万円で済むケースもある。県は、今後も耐震化への補助事業を続ける考えで、積極的な利用を呼び掛けている。


◆県内避難者、今もピーク時の8割超

東日本大震災以降、福島県や岩手県、宮城県などから全国各地へ散らばった避難者たち。三重県内では震災から五年がたった今も、ピーク時の八割超に当たる四百人以上が避難生活を続ける。



県防災対策総務課のまとめでは、避難者が最も多かったのは二〇一二年十一月の五百十二人で、今年一月末現在では四百三十人。県内の支援団体やボランティアでつくる「311みえネット」によると、避難生活を続ける理由は家庭によってさまざまだが、放射能への不安や、「故郷を捨てた」という差別への恐れなどで帰還できないケースも。仕事や家庭の事情で、さらに他県へと移り住む避難者もいるという。

四百三十人の出身県で最も多いのは福島県の百七十二人で、岩手県の百十五人、茨城県の六十人、宮城県の五十一人が続く。避難者の居住地は四日市市の二百四十六人が最多で、津市が四十六人、伊勢市と鈴鹿市がそれぞれ二十八人などとなっている。県は避難者に対し、県営住宅や県職員住宅の提供、被災地の情報発信などの支援を今後も続ける。


◆防災を地域の文化に 三重大院・川口准教授に聞く

南海トラフ巨大地震が発生した場合、海に面し、高齢化による「災害弱者」の増加も進む三重県では、大きな被害が予想される。防災が専門の三重大大学院工学研究科の川口淳准教授(50)に、今後の課題を聞いた。

川口淳准教授

-県内の防災の課題は。

志摩地方のリアス式海岸など、東日本大震災の被害が深刻だった東北地方と地形の類似点もある。津波対策は喫緊の課題だ。

東日本大震災で防災への関心は高まったと思うが、五年がたった今、震災の記憶が薄れていると感じる。ちゃんとやるべき対策をやれているのか、という思いもある。一時的に関心を高めるだけの防災キャンペーンは良くない。


-地域の防災力を高めるにはどうすればいいのか。

教育現場では知識の浸透が進んでいる。特に小中学校では「防災ノート」を使った授業が功を奏しており、子どもたちが津波の避難方法などを自発的に考える仕組みができた。教育現場のほか、地域と家庭でもしっかりと防災意識を高める必要があるが、地域や家庭によって差が大きい。

期待しているのは、防災の担い手としての子どもたちだ。意識の高い子どもが、地域や家庭に知識を伝えながら大人になっていけば、震災の発生時には地域の中核を担ってくれる。防災を地域の「文化」としてとらえ、育むことが必要だ。
 (河郷丈史、池内琢)

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