http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201603/CK2016031302000164.html
◆未来の世代守りたい
「ここは毎時〇・三四マイクロシーベルト。少し高いですね」
二月下旬の夕方。那須塩原市関谷の元町公民館前で、線量計を持った自営業の平山徹さん(39)と高田昇平さん(66)の表情が曇った。
そこから西へ約百メートル離れた市役所出張所の裏に、原発事故後に国が設けた「モニタリングポスト」がある。線量を常に測っているこの機械が示す値は、〇・〇八五マイクロシーベルト。周りの地表を取り除くなどの除染をしたため、低線量になっている。高田さんは憂う。「この場所より、児童公園や通学路の線量の方が高いんです」
那須塩原市は国の方針を受け、土を剥がす本格的な除染は、子どもがいる家庭や校庭に限っている。「普通に暮らしても、本当に影響はないのかな」。子育て世代の平山さんは原発事故後、心配でたまらなかった。ただ、地域には農家や観光施設が多く、大きな声では不安を言いづらかった。
「地域全体で放射線を冷静に見つめていこう」。二〇一二年夏、平山さんと自治会長の高田さんが呼び掛け、線量を自主的に測って記録する「関谷・下田野地区 未来を考える会」をつくった。地元住民の信頼を得ながら長く活動できるように、七つの自治会を母体にした保護者たちのチームという位置付けで出発した。
年一回の定点観測では、通学路沿いの公園や草むらの計二十カ所に立ち、地上一メートルの空間線量を調べる。一三年には一番高い所で〇・七九マイクロシーベルトあったが、一四年には〇・四六マイクロシーベルト、一五年には〇・三六マイクロシーベルトと時間とともに下がっていった。その半面、基準超の場所が根強く残っていることも分かった。
学校に近い土手や公民館も同じように測り、年に四回、記録を盛り込んだグラフや地図を通信にまとめ、約六百世帯に配っている。
観測結果に基づき、市に除染を要望すると、市も一部の除染の必要性を認めた。ただ、汚染土の置き場がないことなどがネックとなり、会が望んだ本格的な土の入れ替えではなく、一部の堆積物の除去や、草刈りによる除染にとどまった。
「先の見えない問題ということは覚悟している。今は住民として、正確な観測結果を積み重ねたい」と平山さん。住み慣れた地域で、安心して子育てを続けるための模索が続いている。
◆矢板の主婦、草の根甲状腺検査
「こういう場がほしかった。本当にありがとう」
矢板市の主婦、井田紫衣(しえ)さん(58)は、子どもの甲状腺検査を終えた女性から、こんな言葉をかけられた。
井田さんは、県内で甲状腺検査の大切さを広めようと、一三年秋にできた民間団体「子供の未来を考える会ハチドリ」の一員だ。
矢板市が一二年九月、高濃度の放射性物質を含む「指定廃棄物」の処分場候補地にいったん選ばれたことを機に、放射線の影響を学び始めた。震災後、十代の長女を連日、野外の給水の列に並ばせていた。「私が行けばよかった」と悔やんだこともあった。
栃木は福島と違い、児童の甲状腺検査が国費で行われていない。「草の根でやるしかない」と一四、一五年の冬、民間基金と協力し、矢板市や隣の塩谷町の公民館で甲状腺検査をした。予想を超える約二百五十人が受診し、感謝の声も寄せられた。
塩谷町の主婦で三児の母の大山香織さん(51)も、会の結成時からのメンバー。くしくも地元は、矢板市の候補地が白紙撤回された後の二度目の候補地に選ばれた。
「放射線といい、指定廃棄物といい、私たち大人は未来の世代に問題を押しつけてばかり。甲状腺検査の保障は当然の義務では」と大山さん。今後も行政に向け、震災を経験した県内の子どもたちが将来にわたり、無料で甲状腺検査を受けられる権利を求めていく。
会の名の「ハチドリ」は、森の火事を消すために、くちばしに一滴ずつ水をためて運ぶハチドリが登場する海外の民話から取った。
「私たちの活動は、水滴を運ぶようなささやかなもの。思いが通じる日まで、原発事故に責任がある大人として、活動を続けます」 (大野暢子)
<県内への放射線影響> 国は原発事故後、平均的な空間線量が毎時0・23マイクロシーベルトを上回った県内の8市町を、国が除染費用を補助する「汚染状況重点調査地域」に指定。特に汚染が深刻だった那須塩原、那須の両市町は小学校の校庭や希望者の住宅、企業の除染を進め、計画に基づく除染はあと1年程度で終わる見通し。ただ、本格的な除染が行われた場所は一部にとどまり、基準超の場所も残る。
「ここは毎時〇・三四マイクロシーベルト。少し高いですね」
二月下旬の夕方。那須塩原市関谷の元町公民館前で、線量計を持った自営業の平山徹さん(39)と高田昇平さん(66)の表情が曇った。
そこから西へ約百メートル離れた市役所出張所の裏に、原発事故後に国が設けた「モニタリングポスト」がある。線量を常に測っているこの機械が示す値は、〇・〇八五マイクロシーベルト。周りの地表を取り除くなどの除染をしたため、低線量になっている。高田さんは憂う。「この場所より、児童公園や通学路の線量の方が高いんです」
「ここは線量が高くない」。地元の小学校周辺で空間線量を測り、 胸をなで下ろす平山さん(左)と高田さん=那須塩原市で |
那須塩原市は国の方針を受け、土を剥がす本格的な除染は、子どもがいる家庭や校庭に限っている。「普通に暮らしても、本当に影響はないのかな」。子育て世代の平山さんは原発事故後、心配でたまらなかった。ただ、地域には農家や観光施設が多く、大きな声では不安を言いづらかった。
「地域全体で放射線を冷静に見つめていこう」。二〇一二年夏、平山さんと自治会長の高田さんが呼び掛け、線量を自主的に測って記録する「関谷・下田野地区 未来を考える会」をつくった。地元住民の信頼を得ながら長く活動できるように、七つの自治会を母体にした保護者たちのチームという位置付けで出発した。
年一回の定点観測では、通学路沿いの公園や草むらの計二十カ所に立ち、地上一メートルの空間線量を調べる。一三年には一番高い所で〇・七九マイクロシーベルトあったが、一四年には〇・四六マイクロシーベルト、一五年には〇・三六マイクロシーベルトと時間とともに下がっていった。その半面、基準超の場所が根強く残っていることも分かった。
学校に近い土手や公民館も同じように測り、年に四回、記録を盛り込んだグラフや地図を通信にまとめ、約六百世帯に配っている。
観測結果に基づき、市に除染を要望すると、市も一部の除染の必要性を認めた。ただ、汚染土の置き場がないことなどがネックとなり、会が望んだ本格的な土の入れ替えではなく、一部の堆積物の除去や、草刈りによる除染にとどまった。
「先の見えない問題ということは覚悟している。今は住民として、正確な観測結果を積み重ねたい」と平山さん。住み慣れた地域で、安心して子育てを続けるための模索が続いている。
◆矢板の主婦、草の根甲状腺検査
「こういう場がほしかった。本当にありがとう」
矢板市の主婦、井田紫衣(しえ)さん(58)は、子どもの甲状腺検査を終えた女性から、こんな言葉をかけられた。
井田さんは、県内で甲状腺検査の大切さを広めようと、一三年秋にできた民間団体「子供の未来を考える会ハチドリ」の一員だ。
矢板市が一二年九月、高濃度の放射性物質を含む「指定廃棄物」の処分場候補地にいったん選ばれたことを機に、放射線の影響を学び始めた。震災後、十代の長女を連日、野外の給水の列に並ばせていた。「私が行けばよかった」と悔やんだこともあった。
栃木は福島と違い、児童の甲状腺検査が国費で行われていない。「草の根でやるしかない」と一四、一五年の冬、民間基金と協力し、矢板市や隣の塩谷町の公民館で甲状腺検査をした。予想を超える約二百五十人が受診し、感謝の声も寄せられた。
塩谷町の主婦で三児の母の大山香織さん(51)も、会の結成時からのメンバー。くしくも地元は、矢板市の候補地が白紙撤回された後の二度目の候補地に選ばれた。
甲状腺検査の必要性について話し合う井田さん(右)と大山さん=矢板市で |
「放射線といい、指定廃棄物といい、私たち大人は未来の世代に問題を押しつけてばかり。甲状腺検査の保障は当然の義務では」と大山さん。今後も行政に向け、震災を経験した県内の子どもたちが将来にわたり、無料で甲状腺検査を受けられる権利を求めていく。
会の名の「ハチドリ」は、森の火事を消すために、くちばしに一滴ずつ水をためて運ぶハチドリが登場する海外の民話から取った。
「私たちの活動は、水滴を運ぶようなささやかなもの。思いが通じる日まで、原発事故に責任がある大人として、活動を続けます」 (大野暢子)
<県内への放射線影響> 国は原発事故後、平均的な空間線量が毎時0・23マイクロシーベルトを上回った県内の8市町を、国が除染費用を補助する「汚染状況重点調査地域」に指定。特に汚染が深刻だった那須塩原、那須の両市町は小学校の校庭や希望者の住宅、企業の除染を進め、計画に基づく除染はあと1年程度で終わる見通し。ただ、本格的な除染が行われた場所は一部にとどまり、基準超の場所も残る。
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