2016/07/31

放射線に不安の声 都内で富岡町住民懇談会

(「住民からは飲料水や土壌に放射性物質がどの程度含まれているかといった質問」とあるが、当然、説明があってしかるべき前提条件ではないかと思います。空間線量だけで、それも20ミリシーベルトを基準に、次々と帰還を迫っていくやり方は、早く見直さなくては。ついに富岡町まで8月下旬には長期滞在に向けて動き出します。子ども全国ネット)


2016.7.31  産経新聞
http://www.sankei.com/life/news/160731/lif1607310041-n1.html

東京電力福島第1原発事故で全域が避難区域となっている福島県富岡町は31日、帰還に向けた課題を住民から聞く懇談会を東京都内で開いた。住民からは放射線への不安の声が上がった。

町は、目標とする来年4月の帰還に向け、除染の実施状況や、診療所の設置などインフラ整備の取り組みを説明した。政府は夜間も含め自宅に長期滞在できる準備宿泊を8月21日から実施したい考えを示した。

住民からは、飲料水や土壌に放射性物質がどの程度含まれているかといった質問や、避難指示解除後も帰還しない住民への支援の継続を求める意見も出た。

宮本皓一町長は「確実に復興再生にシフトは変わりつつある。新たな富岡町をつくっていく発想で進めていく」と述べた。


全域が避難区域となっている福島県富岡町が
都内で開いた、帰還に向けた課題を住民から聞く
懇談会=東京都品川区

2016/07/30

栃木/国の押しつけ 行き詰まる

2016年7月30日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201607/CK2016073002000177.html

「県内の指定廃棄物は、県内一カ所で処分するべきだ」。この国の方針に基づいた処分場計画は今、大きな岐路にある。

隣の茨城県では今年二月、国が地元の意向を踏まえ、各地に指定廃棄物を置いたままの状態を保つ分散保管の継続を認めた。千葉県の候補地となった千葉市では今月、基準値を下回った廃棄物の指定が全国で初めて解除された。市内の保管量が「ゼロ」となったため、市が候補地選定の無効化を主張。今後の国の対応に注目が集まっている。

ただ、建物の中に仮置きされた焼却灰などが中心の両県と違い、栃木県では農家に残された牧草や稲わらが多い。これ以上の風評被害を生まず、安全に処分する観点からは、処分場が必要だとする声も分からなくはない。

国は今年に入り、県内の各市町にも、廃棄物の指定解除のルールを提示した。総量を減らして処分を促進させる狙いで、塩谷町が処分場建設を受け入れやすくなるとの思惑も透けて見える。

六月には、保管の現状を調べるため、県内の一時保管場所から約四十カ所を選び、放射性物質濃度の再測定に着手。九月にも結果を公表する見通しだ。

だが、指定廃棄物を抱える市町では、再測定を機に指定の解除が進み、廃棄物を処分する責任が国から市町へ移ることを警戒する声が高まっている。これまで指定廃棄物問題の議論に積極的に関わってこなかった市町も、わが事として向き合わなくてはならなくなっている。

同時に、国は指定解除も処分場計画も、やすやすとは進まないことを覚悟すべきだ。国は、候補地の選定や新しいルールなど、あらゆることを「決定事項」として当事者へ押しつけてきた。その手法では地元の信頼を得られず何も前に進まないことが、この二年間ではっきりしたはずだ。 
(大野暢子)

<原発事故>二本松市が放射性廃棄物焼却炉容認

2016年7月30日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201607/20160730_61015.html

東京電力福島第1原発事故で発生した稲わらなど農林業系の放射性廃棄物を処理する仮設焼却炉を巡り、二本松市の新野洋市長は29日、同市東和地区に建設する国の計画を受け入れる意向を表明した。福島県内に設置する農林業系廃棄物の処理施設6カ所のうち、同市の施設建設だけが決まっていなかった。

井上信治環境副大臣と同日、福島市で会談した新野市長が「環境回復のため事業を進めなければならない。苦渋の決断だ」と述べた。会談には搬出側の高松義行本宮市長と押山利一大玉村長が同席した。

施設は民有地4ヘクタールに整備。安達地方2市1村の農林業系と除染で出た廃棄物計10万8000トンを焼却する。施設稼働に2年、処理完了まで5年を見込む。概算の整備・解体費は100億~150億円。焼却灰は放射性物質濃度に応じ、大熊、双葉町に計画する中間貯蔵施設などに運ぶ。

環境省は2014年12月、東和地区の自然公園内への施設整備計画を打ち出したが、住民らが反発。設置場所を変更した上で、今年6月下旬から住民説明会を開いてきた。

浜岡原発周辺、セシウム過去変動幅内 福島事故後初 /静岡

2016年7月30日 静岡新聞
http://www.at-s.com/news/article/social/shizuoka/hamaoka/265581.html

中部電力浜岡原発(御前崎市佐倉)周辺で定期的に実施している環境放射能調査で、県は29日、7月までにまとめた採取試料の測定結果が2011年3月に起きた東京電力福島第1原発事故後初めて、過去の変動幅の範囲内だったと発表した。

調査では同原発からおおむね半径10キロ圏内で採取した環境試料を分析し、放射性セシウムの値を測っている。今回結果をまとめたのは、降下物と海水、海底土、浮遊塵(じん)、ムラサキイガイ、カキ、海岸砂の7種で、いずれも最大値が福島第1原発事故以前の10年間に調べた測定値の範囲内だった。

同じ圏内で実施している空間放射線測定でも、2015年10月までにまとめた結果で、福島第1原発事故の影響による人工放射性物質の年間外部被ばく量が0ミリシーベルトになっている。環境放射能調査は月ごと採取試料が異なるため、今後再び、過去の反動幅の範囲を超える測定結果が出る可能性はあるが、県原子力安全対策課は「事故から時間が経過し、放射線量は全体的に下がる傾向で推移している」と説明する。

栃木/塩谷町選定から丸2年 計画宙に浮く

2016年7月30日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201607/CK2016073002000178.html

高濃度の放射性物質を含む「指定廃棄物」の処分場(長期管理施設)の候補地に塩谷町が選ばれてから、30日で丸2年となる。町は一貫して候補地の白紙撤回を訴え続けているが、国は県内に処分場を造る方針を変えていない。先の見えない反対運動に苦悩する塩谷町民と、一時保管の負担を強いられている人々のはざまで、首都圏で最多となる約1万3500トンの処分計画は、いまだに宙に浮いたままだ。 (大野暢子)

■避難先が候補地に
「やっとついのすみかを見つけたと思ったのに…」

塩谷町上寺島の処分場候補地から約10キロの家で暮らす上神谷野理男(かみかべやのりお)さん(69)は、伏し目がちに語り始めた。2011年の東京電力福島第一原発事故に伴い、故郷の福島県富岡町から、妻の美恵子さん(62)と強制避難してきた。

富岡町の家は原則、日帰りしか認められていない居住制限区域内。帰還の見通しが立たないわが家をいずれは手放す覚悟を固め、13年冬、新居として中古住宅を買ったのが、塩谷町だった。

町内に少しずつ知り合いが増え、趣味の散歩を楽しむゆとりも生まれ始めた14年7月、国が上寺島の国有林を、指定廃棄物の処分場候補地に選定。「引き裂かれるような思いで故郷を出たのに、この先も放射能の問題から逃げられないのか」とがくぜんとした。

原発事故前、定期検査中の原発の除染を請け負う企業に、30年近く勤めていた。「複雑な立場だ」と自覚し、塩谷町の反対運動を静かに見守ってきた。だが、第二の故郷と決めた地に原発の負の遺産が持ち込まれる計画には、納得できないでいる。

「候補地は昨秋の豪雨で冠水した。選定は間違いだったと、私は信じたい」

■一時保管者は被害者

県内に約160カ所ある指定廃棄物の一時保管場所のうち、8割は農家や事業所などの民有地だ。自宅の敷地内に数トンの指定廃棄物を一時保管している那須町の和牛農家の男性は「県職員から『2年間の辛抱ですよ』と説得されたが、処分場ができないまま、原発事故から五年以上もたってしまった」とため息をつく。

男性の土地にある指定廃棄物は、牛の餌になるはずだった稲わらが中心。指定された際の放射性物質濃度は、1キログラム当たり約19万ベクレルに上り、指定基準の8000ベクレル超を大幅に上回った。

地域の人が不安がらないよう、保管場所に選んだのは隣家から遠く離れた牧草地。「この辺りに生えた草を牛に食べさせようとは、もう思えない」と漏らす。

国は一時保管の協力者に金銭的な補償をしておらず、当事者の負担感に拍車をかける。「原発事故被害者の私たちが、さらなる苦労を引き受けている」と男性は憤るが、「保管量の少ない塩谷町が県内の全量を受け入れる計画を拒否するのは当然。別の処分法を探る時期では」とも語る。

男性が国の姿勢以上に残念に感じているのは、県民の間でこの問題があまり積極的に議論されていない印象を受けることだ。

「不満を言えば『いつまで騒いでいるのか』と言われかねない。せめて県内の人々には、誰が被害者なのかを忘れないでほしい」

<指定廃棄物> 
東京電力福島第一原発事故による放射性物質で汚染された焼却灰や汚泥、牧草など。国は栃木、茨城、群馬、千葉、宮城の5県で処分場を整備する方針。民主党政権だった2012年、国は矢板市をいったん栃木県の候補地に選んだが、反対運動で撤回に追い込まれた。この反省を踏まえ、国はその後、県内の市町村長会議で新しい選定方法を決め、あらためて塩谷町の候補地を提示した。

2016/07/29

東農大、福島県中山間地の節足動物体内の放射性セシウム量の推移を明らかに

2016年7月29日 マイナビニュース
http://news.mynavi.jp/news/2016/07/29/021/

東京農業大学(東農大)は7月28日、福島県の中山間地に生息する節足動物体内の放射性セシウム量の推移を解明したと発表した。

同成果は、東京農業大学国際食料情報学部国際農業開発学科 足達太郎教授らの研究グループによるもので、7月20日付けの国際科学誌「Journal of Environmental Radioactivity」に掲載された。

同研究グループは、福島県の中山間地で採集した節足動物の放射能汚染状況について調査を行ってきた。この調査の結果、節足動物から福島第一原発事故に由来するものとみられる放射性セシウムを検出。詳細に解析した結果、2012年から2014年にかけて、植食性のバッタ類と雑食性のコオロギ類に蓄積された放射線セシウムの量は一貫して減少する傾向にあることが明らかになった。これは主に、節足動物の餌が存在する農耕地および住宅地周辺の除染作業と放射性セシウムの自然減衰によるものと推測されるという。

一方、造網性クモ類に蓄積された放射性セシウム量には減少傾向はみられず、2014年9月の時点で、調査した節足動物のなかでもっとも高い204Bq/kgが検出された。造網性クモ類が餌とするハエ類などの飛翔性昆虫は、除染作業が行われない山林や池などにある放射性物質を多く含む腐植などを餌とするため、このような高濃度の放射性セシウムが検出されたものと考えられるという。

また、節足動物に蓄積された放射性セシウム量と生息地の空間放射線量率とのあいだには、有意な正の相関がみられ、食性の異なる節足動物に蓄積する放射性セシウム量が中山間地生態系における放射能汚染状況を反映していることが示唆された。

今回の結果について同研究グループは、今後の農業復興に向けて、除染効果を判定する新たな指標としての節足動物の活用が期待されるとしている。
(周藤瞳美)



福島県中山間地に生息する節足動物体内に蓄積した放射性セシウム(134Cs+137Cs)量の推移


原発・炉内構造物 埋設基準、年0.3ミリシーベルト以下

2016年7月29日  毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160729/k00/00m/040/128000c

原発の廃炉で出る低レベル放射性廃棄物のうち原子炉内の構造物について、原子力規制委員会の有識者検討会は28日、地下への埋設完了後に周辺の人が受ける追加被ばく線量を年0.3ミリシーベルト以下にする基準案をとりまとめた。規制委へ報告後、処分場の規制基準に盛り込まれる見通し。

対象は原子炉内の核燃料近くにある部品など汚染度の高い廃棄物。規制委は5月、放射線の影響がほぼなくなる10万年後まで地下70メートルより深い場所に埋めることを柱とした規制基準の基本方針をまとめたが、被ばく線量の基準が検討課題として残っていた。

現在、日本原子力発電東海原発(茨城県)などで廃炉作業が進んでいるが、対象となる廃棄物はまだ出ていないという。【岡田英】

NCC平和・核問題委、写真展「チェルノブイリ30年フクシマ5年」開催へ 8月3~5日

2016年7月28日 Christian today
http://www.christiantoday.co.jp/articles/21556/20160728/ncc-peace-nuclear-committee-photo-exhibition-chernobyl-fukushima.htm

日本キリスト教協議会(NCC)平和・核問題委員会は、8月3日(水)から5日(金)までの3日間にわたり、午前9時30分から午後8時まで、東京YWCA会館(東京都千代田区)で、フォトジャーナリスト、広河隆一氏の写真による写真展「チェルノブイリ30年フクシマ5年」を開催する。

写真は、チェルノブイリ60枚、フクシマ20枚、イラク10枚、世界の核汚染10枚などを展示。キャプション(説明文)付きだという。「放射能被害の本質を静かに訴える力を持っている」と、同委員会はチラシの中で説明している。

「今年で、チェルノブイリ原子力発電所の事故から30年を迎えます」と同委員会は説明。「30年といえば、セシウム137の物理的な半減期の年数です。大地と大気を核汚染した放射性物質は半減しただけです。高度に汚染された土地は今も汚染され続け、大地や水、空気からの内部被ばく、次世代への健康被害も、ますます深刻になっています」

「日本ではフクシマの事故から5年。子どもたちの間で甲状腺ガンが増えています。汚染は県内に止まらず内部被ばくの危険性が大変案じられます。因果関係が分からないとして健康被害が無視されることは許されません」と、同委員会は訴えている。

同委員会によると、この写真展を見れば、チェルノブイリ・フクシマの現状・未来、また原子力・核産業のゴミによって広く人類が受ける影響の大きさ、深刻さの実相が伝わるという。

「ぜひ、お出かけください! チェルノブイリも福島の原発事故も風化させてはならない、との思いを実感することでしょう」と、同委員会は述べるとともに、「周囲の方にもお声かけをお願い致します」と呼び掛けている。

入場は無料。会場では101会議室で映画「日本と原発」ダイジェスト版を繰り返し上映するという。上映日時は、3、4日が午前11時から午後4時、5日が午後1時から午後4時で、観覧は無料。

問い合わせは同委員長の内藤新吾牧師(日本福音ルーテル教会稔台教会、
Eメール:sf-naitou*nifty.com[*を@に替える]、電話:047・362・4857)まで。

最寄り駅など会場の地図が書かれたチラシのPDFファイルは、NCCのウェブサイトでダウンロードできる。
(行本尚史)


日本キリスト教協議会(NCC)平和・核問題委員会が8月3日から5日まで
東京YWCA会館で開く写真展「チェルノブイリ30年フクシマ5年」のチラシ


愛知)原発問題考える 僧侶ら絵本出版

2016年7月29日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASJ6W63THJ6WOIPE043.html 

東日本大震災の被災地支援を続けている僧侶らが、東京電力福島第一原発事故をモチーフに、絵本「おやまのぽんた」を発刊した。発起人で真宗大谷派名古屋別院(東別院、名古屋市中区)職員の中村亮さん(39)は「震災の風化は進んでいる。原発の問題を考えるきっかけにしてくれれば」と話している。

作者は中村さんや随縁寺(同市中川区)副住職の土井恵信さん(39)ら9人。物語は創作で、放射能などを言葉では表現せず、「モケモケ」と例えた。あらすじは――。

絵本を作った真宗大谷派名古屋別院の職員、中村亮さん(右)ら
=名古屋市中区橘2丁目

里山に、男の子「ゆうき」と子ダヌキ「ぽんた」がいた。春がくると、毎日一緒に遊ぶ仲良しだ。そんな中、地震が起き、津波も襲いかかる。次の日には「ドーンと大きな音」がした後、「モケモケ」が出現し、ゆうきは外で遊べなくなった。

ある日、ゆうきが山に向かい、ぽんたにお願いする。「山を出よう!モケモケがいないところだったら、好きなだけお外であそんでいいって」。ぽんたは「こわくてできないよ」と返答した。

後日、ゆうきが山を下りながらお母さんに問いかける。「モケモケってなあに?ぼくたちはいったい、何をしたの?」。お母さんは黙ったままゆうきの手を握りしめた……。

この物語の下地には、土井さんが所属し、被災地に義援金などを直接手渡している僧侶らのバンド「G・ぷんだりーか」が2011年冬につくった曲「テツナギマーチ」がある。「ほうしゃのうがないばしょであそびたい」「ほうしゃのうがないころにもどりたい」――。

被災した福島県二本松市の園児と母親が思いをつづった歌詞で、手を取り合って前に進もうという思いがこもっている。

土井さんの友人の中村さんが、この歌詞をもとに絵本の制作を決めたのが14年冬。有志で集まった9人で内容を話し合い、故郷を離れる人と離れたくない人の葛藤や、放射能を子どもに説明できない母親の苦しみなどを表現したという。

今年は震災から5年が経った。震災の記憶がない子どもは増えつつある。中村さんは「原発の是非を問いたいわけではない。震災を過去のことだと終わらせず、震災を知らない世代とも一緒に問題を考え続けることができれば」と話した。

A4判変型で44ページ。挿絵は名古屋造形大の学生が担当した。税別1500円で、東別院の教化事業部で販売している。問い合わせは、同部(052・331・9578)へ。(後藤隆之)






仮焼却施設、二本松市受け入れへ 環境省が計画 きょう市長に要請/福島

2016年7月29日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160729/ddl/k07/040/113000c

東京電力福島第1原発事故で汚染された稲わらなどの放射性廃棄物を焼き、体積を減らす仮設焼却施設を二本松市東和地区に建設する環境省の計画で、同市が計画を受け入れる方針を固めたことが28日、分かった。井上信治副環境相が29日、福島市内で新野洋市長らに受け入れを要請し、最終調整を経て、正式決定される見通し。

同省は二本松市、本宮市、大玉村の安達地方3市村で出た計10万8000トンの放射性廃棄物を二本松市で焼却処理することを計画。2014年、東和地区を建設候補地に選んだものの、放射能汚染を不安視する住民の反対を受け、候補地の見直しを表明した。このため、県内の焼却施設で安達地方のみ設置場所が決まらない事態となっていた。

同省は、他に建設条件に合った地域を見つけることができず、今年6月になり、再び東和地区に建設する計画を住民説明会で提示。反対する一部の住民が市や同省に候補地撤回を求める要望書を提出するなどしていた。

市によると、今月27日、新野市長らが市役所東和支所で、東和地区の行政区長ら約60人に計画を受け入れる考えを伝えて理解を求めたという。市幹部は取材に対し「廃棄物を処理しないと復興を加速できないのに、安達地方だけ処理の枠組みが決まっていない。反対意見も大事にしたいが、最終的には大局的な判断をせざるを得なかった」と述べた。【土江洋範】

基準未満の側溝汚泥は国費で除去 環境省方針


2016年7月29日 福島民報
https://www.minpo.jp/news/detail/2016072933229

東京電力福島第一原発事故で汚染された道路側溝の汚泥を巡り、環境省は地上から高さ1メートルの空間放射線量が国の除染基準(毎時0.23マイクロシーベルト)を下回った場合も国費で除去する方針を固めた。井上信治環境副大臣が28日、福島民報社の取材に対し、「課題解決に向け国として責任を持って努力する」との意向を明らかにした。

道路側溝の汚泥除去は環境省や復興庁などが連携して対応する。関係者の話を総合すると、関連事業費を平成29年度予算概算要求に盛り込む方向で調整する。今年度内に事業に着手できるよう復興関連の交付金などの活用も検討している。

汚泥除去の実施主体や実施対象地点、国の財政負担割合、汚泥を中間貯蔵施設に搬入するか別の処分方法を導入するかなど、詳細は今後詰める。

汚染状況重点調査地域に指定された39市町村では国の財源で道路側溝の汚泥を除染してきた。しかし、時間の経過に伴う放射性物質の自然減衰や流入土砂などの影響で空間放射線量が基準値を下回り、除染の対象外となるケースが中通りを中心に生じている。原発事故後、手付かずの側溝も少なくない。市町村から早急な対応を求める声が強まっていた。

県北地方の8市町村は28日、環境省に対し、道路側溝堆積物の処理費用の財政措置、除去した堆積物の中間貯蔵施設への搬入を要望した。小林香福島市長らが環境省で井上副大臣に要望書を提出した。

自民党の東日本大震災復興加速化本部は28日の幹部会で政府に東京電力福島第一原発事故で汚染された道路側溝堆積物をはじめ指定廃棄物とならない土壌などの処理推進を求める方針を固めた。第6次提言の骨子案に盛り込む。

加速化本部は第6次提言を8月中旬以降に決定する。

提言に掲げた施策の実現に向けて、関連事業費を各省庁の平成29年度予算概算要求などに反映させるよう求める方針。

<除染廃棄物>伊達の小学校から双葉へあす搬出/福島

2016年7月29日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201607/20160729_63047.html

環境省は28日、東京電力福島第1原発事故に伴う除染廃棄物の中間貯蔵施設(福島県双葉、大熊町)への搬出に向け、伊達市の小学校1校から双葉町の一時保管場への輸送を30日に始めると発表した。

学校の除染廃棄物を双葉町に輸送するのは本年度初めて。対象校の敷地脇に地上保管されている300立方メートルを約1週間かけて運ぶ。

学校の除染廃棄物搬出を巡っては、早期移送のため5月に自民党が双葉、大熊両町に対し、建設される中間貯蔵施設予定地内の町有地の提供を要請。双葉町は8月上旬にも一時使用の容認を正式決定したい考えで、町有地使用に先立ち、既存の一時保管場に運ぶことになった。

大熊町の町有地への搬送は今月2日に始まっている。

放射性物質濃度 政府基準を規制委田中氏批判

(飯舘村の教職員がこのようなひどい内容の研修を受けたということにがく然とします。諸外国の食品基準は、かつて日本がそうであったように、他国で放射能汚染が起こり、その影響を受けた食品が輸入される場合にかけられる基準です。よく考えればわかるように、自国で汚染が起こり、日常的に摂取する可能性がある場合とでは、基準が異なるのは当然です。日本の基準は、各年齢層の摂取量と公衆の年間の追加被ばく限度1ミリシーベルトとを換算して決められました。外部被ばくを考慮していないなどの不備はありますが、それでも「思いつき」で決められた数値ではありません。田中氏がどれほどいい加減な見解しか持ち合わせていないかということがよくわかります。 子ども全国ネット)



2016年07月29日 河北新報
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201607/20160729_63061.html 


原子力規制委員会の田中俊一委員長は28日、福島市で講演し、放射性セシウム濃度で1キログラム当たり100ベクレルの日本の食品基準値(飲料水や乳製品を除く)について「外国人に笑われるような変な基準だ」と自身の見解を改めて示した。


田中氏は食品にはカリウム40など他の放射性物質が自然に含まれているとして「(原発事故で発生した)セシウムだけを怖がる必要はない」と強調。「国際的には1000ベクレルが基準」と説明した。

日本の基準策定に関しては「(策定した)2011年12月当時の厚労相の思い付き。根拠はなく、政治的判断で決められた」などと批判した。

講演は、東京電力福島第1原発事故で全村避難する福島県飯舘村の教職員研修会で行われた。田中氏は「飯舘村は世界から注目されている。(復興に向けて)新たな村をつくってほしい」とエールを送った。

講演する田中氏

2016/07/28

福島第1原発事故 側溝汚染土、撤去できず 福島など、線量減で対象外に /福島

2016年7月28日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160728/ddl/k07/040/020000c


東京電力福島第1原発事故に伴い県内市町村が実施する道路側溝の除染を巡り、当初は空間放射線量が除染対象となる国の基準値以上だったものの、時間の経過などで基準を下回り、側溝にたまっていく土砂を撤去できない場所が各地で生じている。除染の対象外になると、国から撤去費用が出ない上、住民が放射線を不安視するため、土砂の処分先を確保できないからだ。

県北の8市町村、国に負担要望へ


福島市など県北8市町村は28日、基準値未満でも撤去費用を負担し、土砂を中間貯蔵施設(大熊、双葉町)に搬入できるよう求める要望書を国に提出する。


国が除染の対象とする基準は、地上から1メートルの空間放射線量が毎時0・23マイクロシーベルト以上の地点。原発事故の避難指示区域内は環境省、区域外は各市町村が除染を実施し、費用は国の交付金で賄う。除染で出た土砂は、国の中間貯蔵施設に搬入する。


福島市によると、市道(総延長2948キロ)の除染の進捗(しんちょく)率は1日現在で45%。市は、高線量の地点から除染を進めてきたものの、未着手の地点は放射能濃度の自然減衰などで線量が除染基準を下回る場所も出てきており、少なくとも総延長の1〜2割を占めるとみられるという。


環境省は、基準値未満の土砂の撤去に、財政措置しない方針のため、市は、撤去に着手できない。だが、土砂がたまり続けると、大雨で側溝から水があふれたり、悪臭が発生したりする恐れがあるという。市費で撤去したとしても、近隣住民が放射性物質の飛散などを懸念しているために、市の埋め立て処分場は使えず、汚染土の行き場がないという。


市の担当者は「線量が基準値未満でも汚染された土砂だ。除染で撤去した土砂と同様に国は財政措置をし、中間貯蔵施設に搬入すべきだ」と話している。


郡山市やいわき市などでも、同じ問題が起きており、環境省に福島市と同様の要望をしている。同省の担当者は「線量が基準値未満なら除染の必要はなく財政措置は難しい。撤去した土砂を中間貯蔵施設に搬入するかどうかは検討している」と説明している。(土江洋範)

【報道まとめ】栃木/塩屋町長選・指定廃棄物問題等について公開討論

(住民の声に押されるように奮闘してきた現町長に対して、政権与党とのパイプによって交渉を進めるという対立候補者ですが、政権与党が廃棄物問題でどのような政策を推し進めてきたかはすでに自明の通りです。地域の会や住民がどう奮闘されるのか、ぜひ見守っていきたい選挙です。 子ども全国ネット)



栃木/塩谷町長選、出馬予定の2人が討論 指定廃棄物問題などに答える

2016年7月27日 下野新聞
http://www.shimotsuke.co.jp/category/life/welfare/environment/news/20160727/2399660

任期満了に伴い8月2日告示、7日投開票で行われる塩谷町長選をめぐり、立候補予定者による公開討論会が26日夜、塩谷中アリーナで開かれた。出席したのは、50音順でいずれも無所属で前職の手塚功一(てづかこういち)氏(67)=自民推薦=、現職の見形和久(みかたかずひさ)氏(63)の2人。約500人が耳を傾けた。

たかはらさくら青年会議所が主催。町内の国有林が候補地に選定された、放射性物質を含む指定廃棄物処分場問題や人口減少など町の課題について、両氏が考えを述べた。

指定廃棄物問題で手塚氏は「白紙撤回させなければならない。政権与党の自民党や知事に頼まなければ絶対に解決しない。町長は環境省と交渉できる人でないといけない。一日も早く解決し、若い人たちが希望の持てる町にしていかないと」と訴えた。

見形氏は「(選定以降)町民の皆さんとがんばってきた。(反対署名に町内外で)18万人の協力を得た。栃木県だけが解決すればよい、ではいけない。分散保管の方法もあるが、本当の意味での解決は国内1カ所に集め処分すること」と主張した。

地域の雇用創出について、手塚氏は「国や県とのパイプを生かしトップセールスで企業誘致に努める」。見形氏は「地方創生の中で(農産品の付加価値を高める)6次化事業などに取り組み、少しずつ輪を広げていく」とそれぞれ訴えた。

少子化に伴う将来の小学校統廃合について、見形氏は「できるだけ地域に残したい。コミュニティーが崩れることが心配。しかし複式学級では教育上好ましくない。地域の協力を得て検討したい」と述べた。

手塚氏は「年間約50人しか生まれていない。統廃合せざるをえない。コミュニティーが崩れるのは町のマイナス。1、2年では決められない問題。今から考える必要がある」と述べた。







塩谷町長選前に2氏が公開討論会 処分場撤回の手法めぐり激論

2016年7月28日 東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/tochigi/list/201607/CK2016072802000206.html


◆「国内1カ所に集め処分」現職の見形和久さん(63)

◆「与党や知事に協力頼む」元職の手塚功一さん(67)

8月2日告示、7日投開票の塩谷町長選を前に、立候補を表明している現職の見形(みかた)和久さん(63)、元職の手塚功一さん(67)が26日夜、町内で開かれた公開討論会に臨んだ。2008、12年の町長選でも一騎打ちの激戦を演じた2人。今回は、町が候補地となっている高濃度の放射性物質を含む「指定廃棄物」の処分場(長期管理施設)への対応が争点になる見込みで、双方の主張がぶつかり合った。 (中川耕平)

候補地の選定から今月三十日で二年となる処分場問題を巡り、手塚さんは「(処分場計画を)白紙撤回させなければいけない」とし、「解決するには、政権与党である自民党や知事に頼むべきだ」との持論を展開。国の接触を一貫して拒否している見形さんの姿勢を暗に批判した。

一方、一期目の途中からこの問題に向き合ってきた見形さんは「最終的な解決は(指定廃棄物を)国内一カ所に集めて処分すること」と説明。昨年九月の記録的豪雨で、候補地の国有林が冠水したことにも触れ、「昨年十二月に候補地の選定を返上し、ボールは環境省側にある」と訴えた。

「今は環境省の出方を見る」との見解を示した見形さんに、手塚さんは「(返上によって)選定地から外れたわけではない」。その根拠に、環境省が町の全世帯に処分場計画への理解を求めるためのダイレクトメールを繰り返し送付していることなどを挙げた。

町内への処分場設置には反対という立場で一致する二人。ただ、町長選で自民から推薦を受ける手塚さんが「処分場を造るのも自民党なら、解決するのも自民党だ」と政権与党とのつながりを強調すると、見形さんは「首長が一党に属するのは好ましくない。多くの皆さんの意見を聞かなければ、まちづくりにならない」と、手法の違いが鮮明になった。

このほか、小学校の統廃合や、町のPR、雇用創出もテーマとなり、それぞれが考えを述べた。

討論会は、たかはらさくら青年会議所が主催し、約五百人が参加した。全国で公開討論会の支援をしている非政府組織(NGO)「リンカーン・フォーラム」の小池秀明さんがコーディネーターを務めた。

正しい情報つかみ行動を 福島の市川さん、高校生らに教訓語る/京都

2016年7月28日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160728/ddl/k26/040/530000c

福島県いわき市の児童養護施設「いわき育英舎」の施設長、市川誠子さん(62)は27日、京丹後市を訪れ、東日本大震災の教訓を語った。福島原発事故が発生した後、施設の水の確保のために何もわからないまま山水をくみに行った経験を語り、「今もつくづく反省している。原発は安全で大丈夫とだけ聞かされ、放射能についての知識がなかった。正しい情報を自分でつかみ、そのうえで行動することが震災の教訓」と振り返った。【塩田敏夫】

育英舎の7人の子どもたちは丹後の住民でつくる「ふくしま・こどもキャンプ丹後の海」の招きで、京丹後市丹後町の宇川ハウスでキャンプ中。府立峰山高生らがボランティアとして参加しており、市川さんが震災の経験を高校生や地域住民に語ることにした。

大震災が発生した当時、育英舎には23人の子どもがいた。幸い全員無事だったが、食料と水の確保が緊急の課題となった。市川さんによると、震災直後に2回山水をくみに行った。やむに止まれない行動だった。ところが、3月15日、いわき市の広報車が回ってきた。「いわきにもヨウ素が落ちている。山水は絶対に飲まないで」とアナウンス。とんでもない事態になっていることに初めて気付いた。

育英舎は福島原発から直線で34キロ。市川さんは福島県に「子どもをどうするのか。食料も水もない。避難しなければならない」と必死で対応を求めたが、県は「避難するのは国が定めた30キロ圏内」とする回答を繰り返した。

市川さんは高校生たちに「いざと言う時、正しい知識が無ければ正しい行動が取れない。目の前の事実に自分は関係ないと目をそらしてはいけない」と語りかけた。

また、大震災をきっかけに育英舎の子どもたちが「自分たちよりも大変な人がいる」と優しくなったと語った。被災者のために懸命に働く看護師の姿を見て感動し、自分も看護師になると決意した子どももいると紹介。その子は実際に看護師の国家試験に合格し、今年4月から医療現場に立ったという。
〔丹波・丹後版〕

高校生たちに「自分で情報を整理することが大切」と語りかける市川さん(左端)
=京都府京丹後市丹後町で、塩田敏夫撮影

2016/07/27

塩谷町長選 選挙後に新町長と知事意見交換も /栃木

2016年7月27日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160727/ddl/k09/010/019000c


福田富一知事は26日、塩谷町長選に絡み、東京電力福島第1原発事故に伴う指定廃棄物問題について、「選挙戦を通じて大いに議論が深まるものと思う」と話し、選挙後に新町長の考えを聞く方針を示した。26日の定例記者会見で言及したもので、これまで堅持してきた処分場建設について、含みを持たせる発言もあった。


福田知事は同町が最終処分場の候補地に選定されて間もなく2年となるのを前に、県の果たすべき役割を問われ、「選挙戦を通じて聞いた町民の意見を新町長から聞き、国にも(放射性物質濃度の)再測定結果とともに処理方針を聞きながら役割を果たしていきたい」と話した。


また、処分場建設の方向性について現時点で変わりないとした上で、「再測定結果で(1キロ当たりの基準値の)8000ベクレル超が仮に10分の1などという話になれば、望まれる処分場の大きさも当然変わるし、国がどういう考えをもつのか聞かなくてはならない」と述べ、柔軟な対応に含みを持たせた。(高橋隆輔)



原発事故後初、海産魚類「基準超ゼロ」 福島県放射性物質検査

(基準値超ゼロということ自体は歓迎すべきことなのですが、セシウム134の半減期による自然減衰の影響が大きいことは記事中にもある通りで、ここからはなかなか下がらないと予想されます。注意していただきたいのは、あくまでも「海産魚類」であって、「湖や河川の魚」は基準値超えもあり、まだまだ注意が必要だということです。子ども全国ネット)

2016年07月26日
http://www.minyu-net.com/news/news/FM20160726-095190.php

本県沖の海産魚介類を対象とした県の放射性物質検査で、2015(平成27)年度(4月~翌年3月)に採取された8438点全てが食品の放射性セシウムの基準値(1キロ当たり100ベクレル)未満だったことが25日、分かった。東京電力福島第1原発事故後、単年度の集計で基準値を超えた割合がゼロとなったのは初めて。

セシウムが検出限界値未満だったものは全体の91.27%に当たる7702点で、初めて9割を超えた。本年度も15日までの採取分2722点全ての海産魚介類が基準値未満となっている。

検査対象は試験操業の魚種以外も含まれる。11年度は34.74%、12年度は12.55%、13年度は2.30%、14年度は0.48%と減少傾向にある。一般食品の基準値は11年度に暫定値として1キロ当たり500ベクレルだったが、集計では現在の基準値100ベクレルで評価した。

15年度、本県沖で漁獲された魚介類でセシウム濃度が最も高かったのは試験操業対象外のアカエイで、1キロ当たり94ベクレルだった。

セシウム濃度の低下で試験操業の魚種は当初の3種類から73に拡大。6月には本県を代表する高級魚ヒラメの出荷停止指示が解除され、対象魚種への追加が検討されている。濃度低減の理由について県は、放射線を出す力が半分になる「半減期」を迎えたセシウム134(半減期約2年)の減少などを挙げる。

一方で、試験操業の漁獲量(1~12月)は12年の122トンから、15年は10倍以上の1512トンに増加。しかし原発事故前の沿岸漁業の年間漁獲量約2万5000トンの6%にとどまっており、本格操業への移行は見通しが立っていない。

県の放射性物質検査の対象海域には、試験操業の対象外となっている第1原発から半径20キロ圏内も含まれている。第1原発の港湾内は調査対象外。25日現在、21魚種が国の出荷停止指示を受けている。

一方、湖や河川など内水面で採取された魚で基準値を超えた数も減少傾向にある。昨年度、基準値を超えたのは全533点のうち7点だった。最高値はヤマメの1キロ当たり180ベクレル。養殖魚については13年度以降、基準値超えは出ていない。

避難者らの証言映像をネット公開 筑波学院大と東京大

2016年7月27日 福島民報
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/07/post_13979.html

筑波学院大(茨城県つくば市)と東京大の研究チームは26日、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故に伴う避難者や支援者らの証言をまとめた映像アーカイブ(記録庫)をインターネットで公開した。

つくば市に避難した双葉町民をはじめ、つくば市や民間の支援団体の代表者ら17人を約1年かけてインタビューした。支援活動の背景や内容、工夫した点、課題などを聞き取り、計3時間半の映像にまとめた。大津波に襲われた記憶、避難者受け入れ時の混乱、避難所運営の課題などが語られている。

インタビューや編集作業には郡山市からつくば市に避難している映像制作会社社長の田部文厚さん(45)が携わった。聴取対象者の言葉だけではなく、表情や視線にこだわり撮影を進めたという。

プロジェクトリーダーの武田直樹筑波学院大講師は「避難者支援の記録を残し、今後の災害に役立てたい。つくば市モデルとして情報発信していく」と語った。

ホームページアドレスはhttp://sites.anthro.c.u-tokyo.ac.jp/tsukuba/


魚介類昨年度基準超ゼロ 本県沖放射性物質検査/福島

2016年7月27日 福島民報
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/07/post_13981.html

本県沖の魚介類を対象とした県の放射性セシウム検査で、平成27年度に結果を公表した130種類・8541点全てが食品衛生法の基準値(1キロ当たり100ベクレル)を下回ったことが26日、分かった。基準値超の検体数は検査を開始した23年度以降、減少傾向にあり、初めてゼロとなった。


放射性セシウムが検出下限値未満だった検体も27年度は全検体の91.2%を占め、初めて9割を超えた。28年度は20日までに公表した2821点のうち、全ての検体で基準値を下回っている。

23年度から27年度までの検査結果の推移は【グラフ】の通り。基準値を超えたのは23年度が3058点の34.2%に当たる1045点、24年度は6232点の12.8%の795点、25年度は7804点の2.3%の180点、26年度は8726点の0.6%の48点となっている。

県は基準値超の検体が減っている要因として、セシウム134の半減期が約2年である点、魚介類の世代交代が進んだことなどを挙げている。



福島県漁連 原発20キロ圏内海域、がれき撤去着手へ

2016年7月27日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160727/k00/00e/040/242000

福島県漁連は、東京電力福島第1原発から半径20キロ圏内の海域で、8月中にも漁船による海中がれきの撤去作業に着手することを決めた。旧警戒区域に当たる20キロ圏内で自粛している試験操業の漁場を拡大していくために必要な措置としている。

25日に福島県いわき市で開いた会議で実施計画を承認した。水産庁の漁場復旧対策支援事業として国の補助を申請し、認められればいわき市、相馬双葉の両漁協に委託して来年2月まで回収を進める。5キロ圏内は対象としない。

20キロ圏外については各漁協が2011年度から4年間、底引き網などを使って、がれきだけを集中的に引き揚げる「一般回収型」の撤去事業を実施した結果、漁場の状況は大きく改善されたという。今回、20キロ圏内でも同様の一般回収型で撤去を進める。

いわき市漁協は久之浜、四倉、豊間の各漁港に、相双漁協は請戸漁港(浪江町)に、回収したがれきを陸揚げする。県漁連は「がれきの放射性物質濃度は問題のないレベル」とみており、陸揚げ後に処理業者が測定する。

また、20キロ圏外の試験操業で網にかかるなどしたがれきについても、「操業中回収型」の撤去事業の対象として回収を進めることも決めた。【乾達】


2016/07/26

低線量被ばくの発がんリスク解明に期待-「がん幹細胞」研究進展で

2016/07/26  電気新聞
http://www.shimbun.denki.or.jp/news/main/20160726_01.html


◆原子力業界、動向に注目

血液や胃、腸などの細胞を生み出す幹細胞と似た性質を持つ「がん幹細胞」を起源とした発がんメカニズムが近年提唱され、放射線防護の分野でも注目を集めている。国際放射線防護委員会(ICRP)は昨年12月に新たな勧告を出し、研究者に対し基礎研究の方向性を示した。今後、放射線発がんに関する幹細胞生物学の研究が進めば低線量被ばくによる発がんリスクについて、新発見が出てくる可能性がある。

再生医療の発展により、幹細胞と同じような性質を持つ「がん幹細胞」を起源とする発がんメカニズムが近年提唱されている。幹細胞は組織ごとの特定の部位に偏在し、自らと同じ幹細胞を複製する能力と、通常の組織の細胞を生み出す能力がある。「がん幹細胞」も同じようにがん細胞を増やし、がんが進行すると考えられている。これまで、がんはヒトの60兆個全ての細胞にあるDNAのどこかに傷が入ってがん細胞に変質、それが異常なスピードで増殖する病気と考えられていた。

幹細胞は「ニッチ」と呼ばれる微小環境の中でしか生きられず、数や寿命などが制限され、幹細胞同士がニッチの取り合いをしている。がん幹細胞も同様で、常に正常な幹細胞と競合し、負ければ排除されてしまう。また低線量被ばくの場合、放射線で傷ついた幹細胞と無傷の幹細胞が共存し、傷ついた幹細胞が「がん幹細胞」に変異する前に、競合によって排除される可能性が高い。こうして、がんの発生リスクが下がったり、組織への放射線損傷が蓄積されなかったりすると考えられる。

茨城/東海村 6万3000ベクレル汚泥 濃度告げず産廃処分 福島第1事故後 山田村長 「対応に問題」

2016年7月26日 茨城新聞
http://ibarakinews.jp/news/newsdetail.php?f_jun=14694580226439

東京電力福島第1原発事故で放出された放射性物質を巡り、東海村が2011年7月、1キロ当たり約6万3千ベクレルの放射性セシウム濃度が測定された汚泥を、濃度数値を知らせずに産廃業者に引き渡し、処分していたことが25日、分かった。汚泥がその後、どこでどういった形で処分されたか、村は「分からない」としている。山田修村長は「産廃業者に濃度数値を伝えなかったのは不適切だった。村が一時保管するなど他に最善の方法はあり、対応に問題があった」とした。

汚泥は重さ約470キロで土のう24袋分。同村船場の村営屋外プールの底にたまっていた。当時は同8千ベクレルを超す放射性物質を含む「指定廃棄物」基準は設定されていなかった。

村教委によると、村からプールの管理を委託されている村文化スポーツ振興財団は11年6月2日、水が張られたプールの底の汚泥を採取し、翌3日に汚泥から1キロ当たり約6万3千ベクレルの放射性セシウム濃度が測定された。財団は同9日に財団を所管する村教委の指示でプール脇の土中に汚泥を埋設。その後、財団は7月5日、汚泥を掘り起こして土のう計24袋に詰め、ブルーシートで覆ってその場に保管。同12日に村教委の指示に基づき産廃会社に処分を委託、汚泥を引き渡した。

同社に処分を委託する際、財団は汚泥に含まれる放射性物質濃度の数値を伝えていなかった。村教委の聞き取りに対し、同社社長は「村側から放射性物質を若干含んだ汚泥とは聞いたが、数値は教えられなかった」と答えたという。

汚泥に関し、村教委は村災害対策本部に一切報告しておらず、当時の村上達也村長や教育長も状況を知らされていなかった。処分を了承した当時の教育次長は茨城新聞の取材に「一刻も早く人が集まる場所から汚泥を移動させたかった」と説明。当時の判断について「村民が被ばくする危険性を除く最善の方法だった」とした。

ただ、村教委には、誰がどういった経緯で判断し、財団に指示したかなどの記録は残っておらず、同社に引き渡した後、汚泥がどう処分されたか分からなくなっている。

山田村長は「(汚泥の扱いは)本来は災対本部で協議すべき事案で、情報共有ができていなかった」と話した。 (斉藤明成)

★放射性物質を含む汚泥などの廃棄物
東京電力福島第1原発から放出された放射性物質を含む廃棄物については2011年12月、環境省令で同8千ベクレルを超す廃棄物は環境大臣が指定し、国が処分すると規定。「指定廃棄物」は国に引き渡すまで各自治体・民間事業者が適切に管理しなければならないとされた。

福島/青ノリ復活へ実証実験 県、セシウム低減目指す

2016/07/26 福島民報
https://www.minpo.jp/news/detail/2016072633113

東京電力福島第一原発事故の影響で本格的生産の自粛が続く相馬市松川浦の青ノリについて、県は今秋にも放射性セシウム濃度をより低減させる実証実験に乗り出す。今春、モニタリング調査した検体は全て相馬双葉漁協独自の出荷基準値(1キロ当たり50ベクレル)を下回った。県は一層の安全と信頼確保に向けて加工法を確立させ、平成29年度以降の出荷再開と東日本最大級の産地再興につなげる。

実証試験は県水産試験場が平成27年度末にまとめた放射性セシウム除去についての研究結果を活用する。青ノリの加工中にちりが付着すると、放射性セシウム濃度は上昇するとみられる。このため、相馬双葉漁協に所属する約70軒の漁業者にそれぞれの加工施設内の除染や洗浄を徹底するよう促す。
 
養殖場は松川浦に流れ込む宇多川などの河口付近にあり、上流から運ばれた土砂に付着した放射性物質がたまる傾向にあるという。ノリは洗浄すれば放射性セシウム濃度を低減できることが分かっており、うま味を落とさずに洗う手法を極める。
 
県は近く、相馬双葉漁協を通じて協力する漁業者を募り、ノリの種付けが始まる秋にも現地で実証実験を始める。結果はマニュアルにして他の漁業者に周知する。さらに、出荷に向けた生産が円滑に再開できるよう、販路の確保を支援し資材の購入費用の一部を補助する方向で検討している。
 
食品衛生法上の放射性セシウム濃度の基準値は1キロ当たり100ベクレルだが、相馬双葉漁協は青ノリの出荷基準値を県漁連が独自に設定している試験操業の基準値に合わせ厳しく設定した。県水産試験場が今年2月から5月に実施した松川浦産の乾燥ノリのモニタリング調査では、30検体全てでセシウム濃度が出荷基準値を下回った。
 
松川浦にはかつて養殖の竹柵が2万4000基あったが、平成23年の東日本大震災の津波で壊滅的な被害を受けた。この年から漁業者は青ノリの本格的生産を自粛している。一方、相馬双葉漁協は約2000基を復旧させ、ノリの種を絶やさないために胞子を網に付着させる作業を行ってきた。
 
同漁協松川浦地区代表の菊地寛さん(70)は「放射性セシウム低減に向けた県の取り組みを歓迎する。漁協としても早期にノリを出荷できるよう、漁業者間で足並みをそろえて準備を進めたい」としている。

いわきと浪江に荷揚げ 原発半径20キロ圏海中がれき回収

2016年7月26日 福島民報
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/07/post_13977.html

来月にも撤去作業が始まる東京電力福島第一原発から半径20キロ圏内の海中にある災害がれきの荷揚げ場は当初から予定されていた浪江町の請戸漁港に、いわき市の久之浜、四倉、豊間の各漁港が加わる。25日にいわき市で開いた県漁連などによる会合で決めた。

会合では、出席したいわき市漁協や近隣自治体などの関係者が「半径20キロ圏内の海中がれきの多くは放射性物質の影響を受けていない」として、いわき市内への荷揚げを了承したという。8月上旬の作業開始を目指す。


半径20キロ圏内の海中がれきの撤去作業は20キロ圏内の海中がれきと同様、水産庁が漁場復旧対策支援事業を活用し、県に補助する形で実施する。県は県漁連を通じて相馬双葉漁協といわき市漁協の漁業者に撤去作業を依頼する。荷揚げしたがれきは現地保管し、速やかに処分する。


一方、半径5キロ圏内の作業は立ち入りに国への申請が必要なため、当面の間、見合わせる。


相談会:~原発事故により避難されているみなさまへ~全国一斉弁護士による無料電話相談ウィークのお知らせ

2016年07月15日 関東弁護士連合会
http://www.kanto-ba.org/news/2016/07/post-48.html

福島第一原子力発電所事故により全国各地に避難されているみなさまを対象として「一斉電話相談ウィーク」を開催します。

避難者のみなさまの様々なお悩みに弁護士が無料の電話相談でお答えします。

原子力損害賠償に関するご相談については、別途、個別に対面相談日を設けることも可能ですので、この機会にぜひご利用下さい。

【電話番号】 0120-615-030

【開催期間】 7月25日(月)~ 7月30日(土)

【開催時間】 午前10時~午後6時まで

主催:関東弁護士会連合会

後援:日本弁護士連合会


2016/07/23

夏休み保養ステイ のびのび過ごして 福島の子どもたち、今年も伊豆に招待 市民団体が来月/静岡

2016年7月23日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160723/ddl/k22/040/047000c 


原発事故のあった福島県から小学生を招き、放射能を気にせずのびのび遊んでもらう「夏休み保養ステイ」が8月1〜5日、伊東市伊豆高原のペンションを宿泊先に行われる。市民団体「子どもたちを放射能から守る伊豆の会」が主催して8回目。今回参加するのは小学生18人と付き添いの親2人で、累計は131人と15人になる。

代表の安部川てつ子さん(72)は、2011年3月に福島第1原発事故が起きた後、放射能の影響を受けた土地から国が子どもたちを避難させると思ったという。しかしそうはならず、親子の利用も多い同高原のNPO「絵本の家」や地元紙などの協力を得て、翌12年1月に市内の有志十数人で会が発足した。

第1回は12年3月。この年は5月の連休と夏休みを合わせ3回、翌13年は春と夏の2回行った。交通費、宿泊費、飲食費などを会が負担し、遊び場への移動や食事作りはボランティアによるため、14年からは夏休みの1回だけにした。宿泊先のペンションが固定し朝夕食を作らず済むようになったのも14年。昨年から1人3000円の参加費を取り、県社会福祉協議会ふれあい基金の助成金30万円が交付されている。

安部川さんは「すごく楽しくて、それぞれ知らなかった子が帰って連絡を取り合ったりしている。続けられる限りやっていきたい」と話し、ボランティアと資金カンパを歓迎している。連絡先は安部川さん(0557・51・1335)。【梁川淑広】


2016/07/22

汚染環境回復へ 三春に県の調査研究施設 /福島


2016年7月22日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160722/ddl/k07/040/122000c 

東京電力福島第1原発事故による放射性物質で汚染された環境の回復に向けた県の調査研究施設「環境創造センター」のオープン式典が21日、施設がある三春町で開かれた。

センターは三春町や南相馬市などの施設で構成。放射性物質を分析する装置などを備え、昨年10月から一部で運用が始まっていた。国際原子力機関(IAEA)や日本原子力研究開発機構と連携し、県内に広がった放射性物質の実態を把握し、除染技術を開発して環境の回復につなげたい考え。

放射線や事故後の福島の歩みを学習できる展示室もあり、22日から一般公開される。

式典後、施設を見学した内堀雅雄知事は記者団に「世界の人たちにも来てもらい、原発事故や復興を目指す福島の姿を生で感じて将来への遺産になればと考えている」と語った。

【報道まとめ】琵琶湖など堆積土砂の放射能調査結果発表 環境保護団体/滋賀

琵琶湖のセシウム値公表 環境保護団体、4カ所で調査

2016年7月22日 中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/shiga/20160722/CK2016072202000100.html 

環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」(東京)は二十一日、県庁で会見し、琵琶湖や東京電力福島第一原発周辺の堆積土砂の放射能調査結果を発表した。琵琶湖はごく低い値を示したが、福島では原発から五十キロ以上離れても高濃度を示す場所があり、同団体は「放射性物質は距離に関係なく堆積する。福井県の原発で過酷事故が起こった場合、風向きや地形などから、琵琶湖には福島を上回る汚染が及ぶ可能性がある」と指摘する。

琵琶湖での調査は、福井県の原発で過酷事故が起き、放射性物質が放出、蓄積された場合の比較材料にしようと実施。三月下旬に、高島市、長浜市北部、同南部、草津市の四カ所で沿岸の土砂を採取し、セシウム濃度を分析した。長浜市南部の土砂は一キロ当たり十三ベクレル、同北部は七・一ベクレルとごく低い値を検出。高島市と草津市からは、検出されなかった。

福島県では周辺の海底や河川の土手など計四十四カ所を調査。福島県南相馬市の新田川土手では、琵琶湖の二千倍となる二万九千八百ベクレルを計測。福島第一原発から七十五キロ離れた宮城県亘理町の阿武隈川土手でも六千五百ベクレルと高い値を示した。

団体は「広範囲に放出された放射性物質は生態系内に長くとどまって循環し、森林や淡水系は放射能の供給源となり続ける。一度の除染では解決しない」と指摘。「琵琶湖が汚染源となることは防がなくてはならない」と、電力事業者に対し自然エネルギーへの転換を求めた。(井本拓志)


琵琶湖の堆積物 放射線異常なし 環境保護団体調査 /滋賀

2016年7月22日 毎日新聞
http://mainichi.jp/articles/20160722/ddl/k25/040/523000c

環境保護団体「グリーンピース・ジャパン」は21日、琵琶湖で実施した堆積(たいせき)物の放射線測定結果を発表した。放射性セシウムは堆積物1キロ当たり17〜3ベクレルで、2011年の東京電力福島第1原発事故の影響は見られないという。

調査は今年3月22〜24日、琵琶湖の沖合50〜30メートルの4カ所の湖底で、無人水中探査機を使って堆積物を採取、うち2カ所からセシウムを検出した。同時期に調査した福島県の新田川土手の土壌で検出した1キロ当たり2万9800ベクレルと比べて微量で、琵琶湖のセシウムは500回以上実施された大気圏核実験や旧ソ連のチェルノブイリ原発事故の影響と見ている。県庁で記者会見したグリーンピースの担当者は「福井県で原発の過酷事故が起きれば琵琶湖は深刻な影響を受ける。今回のデータを県などでも生かしてほしい」と話した。【北出昭】

琵琶湖での放射線調査結果を発表するグリーンピース・ジャパンのメンバーら
=滋賀県庁で

家屋解体来年度に完了 避難区域の県内11市町村/福島

2016年7月22日 福島民報
http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/07/post_13964.html

環境省は東京電力福島第一原発事故に伴う居住制限区域と避難指示解除準備区域が設定された計11市町村で申請があった家屋の解体作業を平成29年度までに完了させる方針を固めた。同省が撤去の目標時期を設定するのは初めて。政府は来年3月までに帰還困難を除く区域の避難指示を解除する方針で、住民帰還に向けた生活環境の復旧を急ぐ必要があると判断した。

11市町村は田村、南相馬、川俣、楢葉、富岡、川内、大熊、双葉、浪江、葛尾、飯舘で、同省によると、6月現在で申請があった家屋約8800件のうち、田村市と川内村は撤去を完了し、残る9市町村の約5600件は解体が完了していない。

 市町村ごとの仮置き場への搬入目標年度、解体申請と未完了の件数、完了率は【表】の通り。避難指示の解除が進んだ南相馬、楢葉、葛尾各市町村の計2230件、申請件数が比較的少ない双葉、大熊、川俣各町の計400件は28年度の完了を目指す。申請件数が1000件を超えている浪江、富岡、飯舘各町村の計2970件は29年度を目標とした。



家屋解体の手続きや作業の流れは【図】の通り。同省は撤去後の廃棄物を十分に受け入れるのに必要な仮置き場を、直接焼却場へ運んだ田村市を除く10市町村に確保した。基本的には各市町村で焼却処理し、放射性物質濃度によって中間貯蔵施設や管理型処分場に運び込む。廃棄物の量を極力減らすため、一部は土木資材などに再利用する。

同省は今年3月までに、災害廃棄物の中でも帰還作業の妨げになるコンクリート片や車両など「津波がれき」の撤去を完了した。家屋解体の申請状況もほぼ落ち着き、作業スケジュールが見通せるようになったとしている。


※環境省による被災家屋撤去の対象地域 東京電力福島第一原発から半径20キロ圏内の旧警戒区域と比較的放射線量が高い旧計画的避難区域に設定された11市町村(一部を含む)が対象。避難区域再編後の帰還困難区域を除く、居住制限と避難指示解除準備の両区域では、被災者から希望があった被災家屋については災害廃棄物として全額国費負担で国による撤去作業が行われている。



首都ミンスクに到着 ベラルーシ高校生訪問団

2016年07月22日 福島民友
http://www.minyu-net.com/news/news/FM20160722-094254.php 

チェルノブイリ原発事故で被災し、放射能対策に取り組んでいるベラルーシを交流、学習目的で訪問する「日本・ベラルーシ友好訪問団2016」は21日午後(日本時間同日夜)、同国の首都ミンスクに到着した。

訪問団は浜通りと宮城県の高校生やスタッフら59人。この日は、浜通りの高校生21人らが現地のサポーターと共にショッピングセンター散策などを楽しんだ。

22日は国立健康リハビリ・バルネオセラピーセンターや国立図書館、オペラ・バレエ劇場、支援企業のゲームストリーム社などを訪問する予定。

ミンスク市のホテルに到着した浜通りの高校生やスタッフ
=現地時間21日午後2時15分ごろ 

福島の避難指示解除 住民追い詰めない丁寧な対応を

2016年07月22日 愛媛新聞
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201607226608.html 

東京電力福島第1原発事故で福島県内に出されていた避難指示が、先月から今月にかけ南相馬市や川内村などで相次ぎ解除された。政府は来年3月末までに、帰還困難区域を除く全ての避難指示を解除する方針だ。帰還か移住かの難しい決断を迫られる住民を追い詰めないよう、きめ細かな対応を求めたい。

南相馬市では市立病院や商業施設、鉄道が再開するなど生活インフラ整備が進んではいる。とはいえ住民が置かれた環境はさまざまだ。行政が「背中を押す」ことで、ためらっていた一歩を踏み出せる人がいるのは分かるが、それでも決断できず、望まぬ方向に進まざるを得ない人を切り捨ててはなるまい。

仮設住宅の高齢者らの中には「先が見えない」と苦悩する人が少なくない。避難指示解除に伴い、いずれ退去を余儀なくされるためだ。「自宅に戻っても人がいない」「復興公営住宅に入れたとしても周囲との交流がなくなる」―孤立への不安は多くの人に共通する。

 新たなコミュニティーづくりに注目が集まる。ある仮設住宅は、退去後に「シェアハウス」での共同生活を模索している。市は「公営住宅として想定していない形態」と支援に否定的だが、復興には規定や前例にとらわれない柔軟な対応が求められる。行政と住民が知恵を出し合い、行き場がなく孤立する人をなくす取り組みを急ぐべきだ。

仕事や教育、放射線への根強い不安などで今すぐには戻れないが、将来の可能性は残したいという人もいるだろう。帰還する住民が少ない行政区の統合が取り沙汰される地域もある。新たな分断や不利益が生じることがないよう、政府や自治体は決断に時間を要する住民への目配りも怠らないでもらいたい。

 被災地には除染廃棄物が詰まった袋が積み上げられている。原発近くの中間貯蔵施設に移送されるはずが、完成の遅れでほぼ手つかず。地権者2365人のうち契約できたのは160人余り、面積は全体の3%に満たない。生活圏のそばに放射性物質を含む廃棄物が置かれた状態で、住民に帰還を促す矛盾から政府は目を背けてはならない。

 帰還困難区域の解除に向けた動きも表面化した。2017年度から除染などを本格化させ、21年度をめどに役場や駅周辺など一部地域を段階的に解除するという。避難区域でとりわけ放射線量が高いだけに一筋縄ではいくまい。復興のアピールを重視するあまり、帰還の道筋が描けぬまま見切り発車することがないようくぎを刺しておく。

 来年3月に帰還可能になる飯舘村の菅野典雄村長は、役場機能を5年ぶりに村に戻した先日の帰庁式でこう述べた。「ゼロからのスタートではなく、ゼロに向けた長い復興の道のりのスタートだ」。被災地の声を受け止め、正しく知ることが復興につながるのだと、一人一人が肝に銘じたい。避難指示の解除は一つの要素にすぎない。

2016/07/21

【報道まとめ】千葉市 指定廃棄物指定解除

千葉市保管の指定廃棄物 全国初の指定解除へ

2016年7月21日 NHK
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160721/k10010603481000.html

東京電力・福島第一原子力発電所の事故で発生した放射性物質を含む指定廃棄物のうち、千葉市が保管している廃棄物の濃度が国の基準を下回ったことから、環境省は全国で初めて指定を解除することを決めました。

原発事故のあと、各地の自治体などで保管が続く放射性物質を含む指定廃棄物について、環境省は原発事故から5年がたち、濃度が国の基準の1キロ当たり8000ベクレルを超えるものが大幅に減ったとみられることから、測定の結果、基準を下回れば指定を解除し、一般のゴミとして処分できるようにしました。

このうち、千葉市が市内の清掃工場で保管している7トン余りの指定廃棄物の濃度を測定したところ、国の基準を下回ったことから、先月末、指定の解除を申請し、環境省は、審査の結果、指定の解除を行うことを決めました。

指定の解除は全国で初めてで、環境省の井上副大臣が22日、千葉市の熊谷市長と会談し、正式に伝えることにしています。

一方、環境省は、千葉市を千葉県内に保管されている指定廃棄物の処分場の候補地としていますが、市はすでにこれを拒否する姿勢を示しています。

今回の指定解除を受けて、市は改めて拒否するとみられ、環境省は今後も協議を続ける方針です。




千葉市の指定廃棄物、解除へ 環境省、原発事故後初めて

2016年7月22日 朝日新聞
http://www.asahi.com/articles/ASJ7P4QZGJ7PULBJ00D.html

東京電力福島第一原発事故による放射性物質で汚染された指定廃棄物について、環境省は21日、千葉市が保管する全量約7・7トンの指定を解除することを決めた。22日、井上信治副大臣が同市を訪れて伝える。指定が解除されるのは全国で初めて。

指定廃棄物は、汚染されたごみのうち、放射能濃度が1キロあたり8千ベクレルを上回るものを、自治体の申請に基づき環境相が指定する。本来は国が処分するが、4月の省令改正で、基準を下回れば指定を解除し、一般ごみとして自治体が処分できるようになった。解除には保管者らへの事前の通知が必要なため、解除は23日付になる。

千葉市の指定廃棄物は、市内の清掃工場で保管中の焼却灰と水質浄化に使われるゼオライト。市による放射能の再測定で、焼却灰は1キロあたり約4千ベクレル、ゼオライトは同約6千ベクレルと確認されたとして、市は6月末に解除を申請。環境省は再測定の方法などを確認し、解除後の処理方針などを市と協議してきた。市は当面現地での保管を続ける方針。(小坪遊)



指定廃棄物、初の解除へ…千葉市保管分

2016年07月21日 読売新聞
http://www.yomiuri.co.jp/eco/20160721-OYT1T50136.html

環境省は21日、東京電力福島第一原子力発電所の事故で発生した指定廃棄物のうち、千葉市の保管分について指定の解除を決めた。

放射性物質濃度が指定基準の1キロ・グラム当たり8000ベクレル超を下回ったためで、解除は全国で初めて。22日午後に同省の井上信治副大臣が同市を訪れ、熊谷俊人市長に伝える。

同省は4月、放射性物質汚染対処特措法の施行規則を改正し、基準を下回った場合、指定解除ができるようにした。千葉市は6月、市内の清掃工場で保管している指定廃棄物7・7トンの濃度を測定。基準を下回ったため解除を申請し、同省が審査していた。




【速報・汚染焼却灰】全国初、環境省が「指定」解除通知 千葉市保管の7・7トン

2016年7月22日 千葉日報
http://www.chibanippo.co.jp/news/local/338987

環境省は22日、東京電力福島第1原発事故で発生し、千葉市が保管する指定廃棄物7・7トンの指定解除を、同市に通知した。全国初のケースで、放射能濃度が基準を下回った廃棄物の指定を解除し、一般ごみと同様の処分を認める国の新ルールに基づく手続き。

井上信治環境副大臣が千葉市役所を訪れ、熊谷俊人市長に通知書を手渡した。解除は23日付。

指定廃棄物は12都県で計約17万トンに上るが、時間の経過に伴い放射線量の自然減衰で基準を下回る廃棄物が増えているとみられ、今後、他自治体でも指定解除申請の動きが出る可能性がある。

環境省は4月末に放射性物質汚染対処特別措置法の施行規則の一部を改正。放射性セシウム濃度が基準値(1キログラム当たり8千ベクレル)以下と確認された指定廃棄物の指定解除が可能となった。

これを受け、千葉市は新港清掃工場(同市美浜区)で一時保管している指定廃棄物(7・7トン)の濃度を再測定。8千ベクレル以下であることを公表し、先月28日に指定解除を申請していた。

川の土に高濃度放射性物質 福島、宮城でと環境保護団体

2016年7月21日 共同通信
http://this.kiji.is/128774205205381126

福島、宮城両県にある河川周辺の土壌中に東京電力福島第1原発事故からの放射性物質が高濃度に蓄積しているなどとする調査結果を、環境保護団体、グリーンピースが21日、発表した。

最高だった新田川(福島県南相馬市)脇の土の濃度は1キロ当たり2万9800ベクレルで、ほぼ同時期に採取した滋賀県琵琶湖の底泥の2千倍超。事故で出た放射性セシウムが河川によって運ばれ、蓄積したとみられる。

グリーンピースのケンドラ・ウルリッチさんは「大量の放射性物質が生態系の中で循環し、森林や淡水系が放射能の供給源となり続ける」と指摘、長期間の環境監視の必要性を強調した。

宮城県内の阿武隈川周辺で土壌のサンプルを採取するグリーンピースの調査チーム
=2月(グリーンピース提供)(C)Greenpeace/Raquel Monton

3.11 トークイベント「納得できてる?低線量被ばくの影響 -科学でしめす、社会が選ぶ-」

(イベント告知および報告をまとめてアップしておきます)

http://www.miraikan.jst.go.jp/m/event/1602151519375.html


2011年3月、福島第一原子力発電所の事故で放射性物質が飛散しました。

5年後の現在、県民の被ばく状況や健康状態を把握するために大規模な健康調査が行われています。被ばくの影響として甲状腺がんのリスクが懸念されており、18歳以下の子ども(被ばく時)に対しては甲状腺検査を実施しています。この結果をめぐっては、日本全国平均と比べてがんの発生率が高いという見方があるなど、様々な議論が続いています。

一方で、放射線被ばくによるリスク以外にも、福島では避難生活によるストレスや運動不足などがもたらす健康の悪化も懸念されていて、様々なリスク要因を総合的にとらえる視点の必要性も指摘されています。

本イベントでは、低線量被ばくによる発がんリスクについて、科学的に解明されているのはどこまでなのか、過去の研究から探ります。また、被ばく以外の発がん要因を見比べた上でこれらのリスクとどのようにつき合うべきか、リスクを減らす社会を作るためにいま何をしなければならないのか、講師として疫学の専門家と、被災地域の医師を招き、異なる立場からの意見を聞きながら皆さんと一緒に話し合います。


講師プロフィール

津田敏秀氏(岡山大学大学院環境生命科学研究科教授)
1985年岡山大学医学部医学科卒業。1989年岡山大学大学院医学研究科修了。岡山大学医師学総合研究科講師などを経て、2005年岡山大学大学院環境学研究科教授。2012年より現職。疫学という方法で、福島県の検診データを解析し著しい甲状腺がんの多発を示す。今後福島県で甲状腺がんの増加を予測。

越智小枝氏(相馬中央病院内科診療科長)
1999年東京医科歯科大学医学部医学科卒業。膠原病内科の臨床医として東京で10年ほど勤務。2011年インペリアルカレッジロンドン 公衆衛生大学院への留学が決まった直後に大震災があり、留学中に相馬市の仮設健診などに参加。WHOのインターンを経て現場を知ることの重要性を知り、2013年11月より相馬へ移住、現職に至る。


ファシリテーター:
新山加菜美(日本科学未来館科学コミュニケーター)

ライブ配信について

※本イベントはニコニコ生放送でライブ中継を行います。
開催日時2016年3月12日(土) 14:00~16:00
開催場所日本科学未来館 7階会議室3
対象どなたでも参加できますが、内容は中学生以上向けです。
定員約80名
参加費無料
参加方法当日会場入り口で12:00より整理券を配布します。13:30より会場へお入りいただけます。
問い合わせ先日本科学未来館
Tel: 03-3570-9151(代表)


津田敏秀氏(左)、越智小枝氏(右)



この日語られたこと、考えたこと➀ ~低線量被ばくの発がんリスクと福島の甲状腺検査の結果の解釈~

 
震災から5年の翌日3/12(土)に、震災トークイベント「納得できてる?低線量被ばくの影響-科学で示す、社会が選ぶ-」が日本科学未来館で開催されました。
160704 niiyama_001.png(左:津田敏秀教授、右:越智小枝医師) 
 
160704 niiyama_02.png(会場の様子)
2011年3月11日に起こった原発事故。
放射性物質が広範囲に飛散してしまいました。多くの地域が経済的ダメージを受け、地域住民は長期化する避難生活とコミュニティー機能の低下のもとで、健康リスクの高い状態に陥っていることが心配されています。健康リスクという面から今の福島を把握し、今後の福島と日本をよりよい状態に持っていくために、社会は、そして個々人は何ができるのでしょうか?また何をすべきなのでしょうか?そのことを、疫学研究者と現場の医師という異なる立場の講師と、一般の参加者全員で話し合うことを目的としたのが、今回のイベントでした。
160711 niiyama_09.png(クリックで拡大します)
 
お招きした二人の講師は、疫学研究者の岡山大学環境生命科学研究科津田敏秀教授と、相馬中央病院の内科診療科長の越智小枝医師です。
津田教授は福島県が行った甲状腺検査の結果を分析し、「福島では20~50倍の甲状腺がんの多発が起こっている」と報告する論文を、2015年10月に国際的な疫学専門誌であるEpidemiologyで発表しました。津田教授は、「甲状腺がん多発の要因は放射線被ばくによる」と主張しています。
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しかし、津田教授の分析や主張に対して、「分析に不適切な仮定がある」、「福島で見つかった甲状腺がんは、被ばくの影響とは考えにくい」、「過剰診断である可能性が高い」と反論する研究者もいました。そこで、トークイベントというオープンな場で、津田教授がどのような方法で甲状腺検査の結果を分析したのか説明していただき、分析方法に対する反論を紹介しながら検証を行いました。
一方、越智医師は、避難行動による環境変化や、避難生活の長期化で日々の買い物や仕事などといった生活の基盤が大きく損なわれたことが、住民の健康に深刻な影響を及ぼしている実態に目を向けてほしい、と訴えておられます。
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越智医師は、相馬中央病院で内科医として日々住民の方を診ています。そこで、震災により福島では実際にはどんな健康被害があったのかをお話いただくとともに、「この状況で、私たちは個人として社会として何ができるか」を考える上での重要な視点について、お話いただきました。
 
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さて、参加者66名と、疫学研究者と現場の医師。
この日、どんな話が語られたのでしょうか。
講師や参加者の話を聴き、どんな考えや意見が生まれたのでしょうか。

以下の目次に沿って、4つの記事にわたり(この日語られたこと、考えたこと①~④)紹介していきます。講師が説明した内容に、コメントや解釈を加えながら振り返ります。

 

<第1部> 津田教授パート(この記事です)

 1. 低線量被ばくによる発がんリスクは?
 2. 福島県民調査における甲状腺がんの検出

<第2部> 越智医師パート(リンクはこちら)

 3. 震災による健康影響(福島の医療現場から)

<第3部> 全員で

4. ディスカッション「個人と社会は何をすべきか?」

 
 
 

第1部(津田教授パート)

1.低線量被ばくによる発がんリスクはあるのか?
約3000~5000mSv(ミリシーベルト)の高線量を一度に被ばくすると、腸の粘膜や血液を作り出す骨髄などがダメージを受け、50%以上の人が死亡すると言われています。約1000mSvの被ばくでは、吐き気や嘔吐、脱毛などの症状が出てきます。しかし、このような一度に高線量の被ばくは、事故現場以外ではほとんど起こりません。震災による原発事故で問題になっているのは、低線量被ばくによる健康影響です。低線量の被ばくをすると、わずかではあるもののがんや白血病になるリスクが高まると言われています。
日本における放射線の基準は、ICRP(国際放射線防護委員会)の基準を採用しています。ICRPは専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行っている国際的な組織です。ICRPから出された2007年の勧告では、「...がんリスクの推定に用いる疫学的方法は、およそ100mSvまでの線量範囲でのがんリスクを直接明らかにする力を持たないという一般的な合意がある。...」と明記されていました。
この根拠は、広島・長崎の被曝者の追跡調査(Life-span study;LSSコホート)の分析結果で、全年齢、全がんの平均値で統計解析すると、200mSv以下の被ばくで有意な差(5%水準)は認められなかったことです。しかし、2012年にOzasaらにより、改めてLSSコホート研究を臓器別、年齢層別に統計解析すると、消化器官のがん、乳がん、腎臓がんなど多くの臓器で有意な差(5%有意差)が認められたと報告されました(2012 Ozasa et.al)。この他にも、臓器をしぼって、多くの人数を観察し、統計解析した数多くの報告から、"低線量被ばくでも発がんリスクはあることが確からしい"と認識されつつあります。
 
では、いったいどれくらいの量の放射線をあびると、どのくらいの発がんの危険性(リスク)があるのでしょうか?
 
津田教授 広島・長崎原爆投下による被曝者の追跡調査LSS(Life Span Study)コホート研究では、臓器別(どこの部位のがんか)に、年齢別に分析すると、100mSv以下でも統計的有意差が出てきます(5%有意)。つまり100mSv以下の低線量被ばくでも発がんリスクのあることが分かっています。
 160711 niiyama_11.png(クリックで拡大します)
 
津田教授 また、血管造影やCTスキャンなどのX線(エックス線:放射線の一種)を用いた検査・治療を受けた心筋梗塞患者8万2861人を追跡調査した結果、1万2020人にがん(内臓、骨盤、乳がんなど)が発生しました。患者の累積放射線量から被ばく量が10mSv増えるごとに発がんリスクは3%高くなることが報告されました。
160711 niiyama_12.png(クリックで拡大します)
 
津田教授 イギリスで1980~2006年に生まれた子どもに対して、がんと自然放射線の関係を調べた研究もあります。4.1mSv以上の被ばくによって、統計的に有意な発がん(白血病)リスクの上昇が検出されました。つまり、低線量でも累積被ばく量に比例して、白血病のリスクが高くなることが確認されました。
160711 niiyama_32.png(クリックで拡大します)
 
津田教授 このように60年前から、そして最近になってますますはっきりと、100mSv以下の低線量被ばくでも発がんリスクは存在するという数多くの報告があります。逆に100mSv以下では、がんは出ないということを証明した報告はありません。したがって、被ばくの影響に閾値はない、つまり誰もが影響を受けない被ばく量はないと考えるのが妥当であると考えられます。
 
 
津田教授より、「100mSv以下の低線量被ばくでも発がんのリスクは存在する」という3つの科学的なデータを説明していただきました。
このような話を聞くと、「少し被ばくしただけでもがんになるのではないか...」と思うかもしれませんが、"発がんリスクがある=実際に発がんする"ではないことにご注意ください。日本人の場合、いまや2人に1人はがんになり、死因のトップはがんで30%を占めます。例えば、被ばくによる発がんリスク=1.1の場合、100人のうちがんで死亡する人が30人から33人に増える可能性があるという意味です。また、同じ被ばく量でもがんになる人もいれば、ならない人もいます。人によって放射線の感受性は様々であるため、被ばくしても実際にがんになるとは限りません。被ばくすると、がんになる確率が上がるということです。
 
それでは、原発事故が起こった周辺の地域では、実際にはどんな健康影響が生じているのでしょうか。
 
福島県では、県民の健康状態を把握し、早期発見、早期治療につなげるための調査(福島県民健康調査)が2011年から実施されています。
 

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事故当時の行動から線量を把握する調査や、こころの健康度や生活習慣に関する調査など、さまざまな調査が行われており、被ばくの影響として特に甲状腺検査の結果が注目されています。この検査は、18歳以下の方を対象にしたものです。
津田教授は、どのように甲状腺検査の結果を分析し、「福島では通常の20~50倍の甲状腺がんの多発が起こっている」としたのでしょうか。
 
 

第1部(津田教授パート)

2.福島県民調査における甲状腺がんの検出 放射線被ばくが原因なのか?
甲状腺はのどにある器官で、甲状腺ホルモンをつくっています。甲状腺ホルモンの材料の1つとしてヨウ素を使うため、体内でもヨウ素の濃度が高い部位となっています。原発事故によって飛散した放射性ヨウ素が、吸入や食品摂取などにより体内に入った場合、放射性ヨウ素が甲状腺に集積して被ばくすることで甲状腺がんになる可能性があります。実際に、1986年に起こったチェルノブイリの原発事故後に、主に子どもで甲状腺がんの多発が起こりました。そのため、福島県では2011年10月から、事故当時0~18歳までを対象に甲状腺検査を実施しています。
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原発事故から7カ月~4年にあたる2011年10月9日~2015年3月31日までに福島県全域で実施した検査を先行調査(一巡目)、2014年4月2日~2016年3月31日までに実施された検査を本格調査(二巡目)と言います。本格調査では、震災後1年未満に生まれた赤ちゃん(震災時、お腹にいた)も対象です。
 
検査の方法は、以下の図の通りです。
 
まず、超音波検査(1次検査)を行います。甲状腺に5.1mm以上の結節(しこり)や20.1mm以上ののう胞(液体が入った袋状のもの)が見つかった人は、2次検査で詳細な検査を行います。2次検査の結果「がんおよびがん疑い」と診断されると、その後の経過により手術するかどうかを、医師が判断します。手術を行った場合は、切除したがんを病理学的に詳しく調べ、どの種類の甲状腺がんであったかの種類(乳頭がん、濾胞がん、低分化がん、未分化がんなど)が確定します。一般的に、甲状腺がんの8割以上は乳頭がんで、進行速度は遅いため、治療後の経過も順調で悪性度はかなり低いがんと認識されています。一方、未分化がんは進行が早く悪性度の高いがんですが、全体の数%と症例は少なく、ほとんどは高齢者から見つかります。

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福島県で発表されている、2015年12月末までに判定された甲状腺検査の結果は以下の通りです。
 
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津田教授 2011年10月~2015年3月の間に行われた一巡目の先行調査では、がんおよびがん疑いと判定されたのは116名でした。101名の方は手術を受けられて、そのうち100名のがん診断が確定し、1人は良性であったと報告されています。つまり一巡目調査では、115名にがんおよびがん疑いが見つかったわけですが、これを単に、受診者数30万476人で割った値を有病率といいます。これは100万人あたりにすると、383人/100万人の有病率であると計算されます。
 
では、この数字は通常と比べて多いのでしょうか。どうやって比較すればいいのでしょうか。
 
津田教授 日本全体を表す統計には、健康診断などの検診によって甲状腺がんが見つかった人数を表す数字がありません。そのかわり全国平均発症率の数字があるので、これと比較します。発症率とは、甲状腺がんによる症状(痛みや腫れなど)が出て病院に行き、甲状腺がんと診断された人が1年間で100万人あたり何人いたかを表す数字で、がん患者の登録を行っている都道府県のデータから計算することができます。
この統計データは、5歳きざみで推計されていて、今回の調査年齢幅に近い0~19歳の発症率は、年間100万人あたり2.4人(2.4人/100万人・年)なので、年間100万人あたり3人として、県民健康調査の有病率383人/100万人と比べることを考えます。
 
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津田教授 福島県の有病率を、全国の発症率と比べるときに、こういう近似式を使います。
有病率(人/100万人) = 発症率(人/100万人・年) × 有病期間(D年)
有病率発症率 × 時間です。がんのように発生確率が非常に低いときにこの式を使って比べることが出来ます。発症率は病気になるスピードだと思って下さい。スピードに時間をかけると距離が出るように、単位時間で病気になる人数に時間をかけると有病率が出るということです。ここでの時間は有病期間です。平均的ながんの成長の様子を、このような(下図)ものとして考えることができるでしょう。これはあるひとつのがんが発生して、検査で検出される大きさに成長してから、その後もがんが成長し続け、病院に行くほどの自覚症状が出る(発症する)のが平均してD年後であるということです。このD年を有病期間と言います。
 
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津田教授 それで、この有病期間にどのような数字を入れるかですが、私は論文では4年という数字を入れました。すると、全国平均発症率から推定した有病率は100万人あたり12人ということになります。一方、福島の有病率は、100万人当たり383 人ですので、383と12を割り算して32倍ということになります。
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ここでは福島で得られた値と、全国平均から推定される値を、有病率にそろえて比べましたが、実は専門家は一般的に発症率にそろえてから比べます。私の論文も発症率で計算していますが、比べる前にどちらにそろえてもそんなに違いはありません。
 
 
今回のトークイベントでは、あえて有病率で比較する方法を当館が選択し、津田さんに説明をお願いしました。
県民健康調査を行った福島県はどのように評価しているのでしょうか。
 
 
福島県が2016年3月末に公表した"県民健康調査における中間取りまとめ"でも、"先行調査を終えて、わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病者数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている。"と記されています。
つまり、津田教授も福島県も「福島県では甲状腺がんが数十倍のオーダーで発見されている」ことは共通です。
しかし、「先行調査と本格調査で見つかったがんおよびがん疑いの数が、異常な値なのか、それとも異常ではないのか?」という点については、見解が異なっています。
津田教授は「甲状腺がんの多発は異常であり、放射線被ばくによる影響である」と言っています。一方福島県は、県民健康調査における中間取りまとめの中で、「将来的に臨床診断されたり、死に結びついたりすることがないがんを多数診断している可能性が指摘されている」と述べています。つまり、今すぐ治療する必要のないがんも含めて過剰に甲状腺がんを見つけてしまっているという解釈です。
このように、同じデータから異なる解釈が提案されているのはなぜなのでしょうか?津田教授の分析方法に対して示されている、いくつかの疑問を軸にデータの見方を詳しく検証していきました。
 
 
反論1-1.有病期間(D)=4年 は適切か? もっと長いのではないか?
津田教授は、有病期間(D)=4年と仮定し計算していました。しかし、実際には甲状腺がんの成長のスピードは遅く、D=4年よりはもっと長いのではないか、という反論があります。
 
津田教授 短い有病期間から長い有病期間まで、さまざまな値を与えて計算して、倍率がどう変わって、結論が変わるかを調べてみればよいのです。これを感度分析といいますが、実際に10年から100年までの数字を入れてみるとこのようになります。それでも、福島の先行調査における有病率は多発であると言えます。
 
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反論1-2.「有病期間が∞(一生潜在がん)のケースも検出しているのではないか」
津田教授が使用している甲状腺がん発症のモデルの仮定では、「甲状腺検査で甲状腺がんと診断された人は、がんが成長し続け、D年後に必ず発症する」としていますが、この"必ず"がおかしいとの反論があります。
実は、がんの中には一生発症しないケースもあり"潜在がん"と呼ばれています。甲状腺がんは自覚症状が現れにくいため、甲状腺がんになっていても一生のうちで気づかず、その場合はがん登録による統計の数字には上がってきません。そのため、県民健康調査で見つかったがんのほとんどは、症状が出ないまま一生を終えるものではないか、という考えが示されています。その考えに対して津田教授は"違う"と言います。
 
津田教授 先行調査でがん手術を受けたのは101例ですが、そのうち93例は浸潤およびリンパ節への転移が見られたと報告されています(第20回「県民健康調査」検討委員会、資料「手術の適応症例について」)。つまり、全症例のうち92%のがんは治療が妥当とするレベルまで進行していたということです。そして潜在がんの割合は、あったとしても見つかったがんのうち、せいぜい8%であるといえます。
 
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また津田教授は、本格調査の結果から、がんの成長のスピードが驚くほど速いことも示されているとしています。
 
津田教授 1巡目の先行調査で、一通りがんを検出しているにもかかわらず、2巡目の本格調査で51人の方から新たにがんが見つかりました。先行調査でがんが見つかった人は、本格調査は受けていません。先行検査におけるがんに見落としは多少あるにしても、この51人の方々のがんは、先行調査終了時から本格調査を受けるまでのおよそ2~2.5年の間に、新たに5.1mm以上にまで成長したものであると言えるでしょう。つまり、有病期間(D)=2年として計算することができます。
 
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注)2016年6月6日、福島県から本格調査の2016年3月31日時点までの結果が報告されました。18歳以下の人口:381,286人、一次検査受診者数:267,769人、がんおよびがん疑い人数:57人。

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津田教授 本格調査の結果が出たのは原発事故から5年経っていますので、24歳以下の甲状腺がん全国発症率(5人/100万人・年)を使用し、比較をしてみましょう。
 
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注)福島県から本格調査(2016年3月31日時点まで)の結果(一次検査受診者数:267,769人、がんおよびがん疑い人数:57人)から、福島の有病率を再計算すると以下のようになります。
■福島の有病率=57人/267,769人=213人(157~268)人/100万人
福島/全国平均=21(16~27)倍
受診者数は増加しましたが、がんおよびがん疑い人数も増加したため、福島の有病率はほぼ変わっていません。
 
津田教授 福島の有病率は、全国平均甲状腺発症率(5~24歳)の17~22倍と多発であるという結論になります。2巡目の検査で新たに見つかった甲状腺がんは、1巡目の検査後の約2年の間に5.1mm以上に成長したと考えられます。これらの腫瘍が、その後も同様のスピードで成長する場合に一生発症しないと考えるのは困難です。
 
 
 以上の津田教授の考えに対しても反論があります。ひとつは、本格調査で発見されたがん症例は、先行調査で見落とされたものを拾っているにすぎないのではないかということ。
 もうひとつは、浸潤やリンパ節転移があったとして、やはり潜在がんなのではないかというものです。それは過去の研究で、潜在がんと思われるものにも多くの場合に浸潤やリンパ節転移がみられたからです。ただし、それら潜在がんはすべて成人で見られた事例です。そして、子どもには甲状腺の潜在がんはほとんど生じていない、と津田教授は言います。
 
 
津田教授 子どもの場合、そもそも5.1mm以上の結節や20.1mm以上ののう胞を持つこと事態が稀だと考えられます。
下の表は、チェルノブイリの事故が起こった後に生まれた子ども(被ばくしていない子ども)と、被ばく量が非常に小さかった子どもに対して甲状腺検査を行った結果です。トータル47203人の子ども(~18歳)のうち、一人も甲状腺がんは見つかりませんでした。
 
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津田教授 また原発事故後に福島以外の子どもたちを対象に行われた比較的大規模な甲状腺検査としては、青森・山梨・長崎の3県で行われたものがあります。3歳から18歳の子ども、4365人を検査して、そのうち1人が甲状腺がんと診断されたため、100万人あたりに換算すると229人(6~1276人)となります。カッコ内(6~1276人)は95%信頼区間を表していて、真の値がその範囲に入っている確率が95%の領域ですが、検査数(4365人)が少なすぎるため、信頼区間の値の幅が大きくなり、福島の場合と比べても意味のある結論は見いだせません。
 そのほか、千葉大学および岡山大学の学生、東京都内の女子高生、韓国で行われた甲状腺検査の結果を根拠に、「福島での有病率はけっして高くない」という反論もあります。しかしながら、診断基準や対象年齢が福島のケースと大きく異なるため、比較はできません。
 
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(注:トークイベントで使用したデータに一部誤りがあったため、上記スライドでは修正しております)
※東京都内の女子高生および岡山大の受診者数は、同じ生徒が毎年検診を受けた結果も含めていて、受診者数は、のべ人数。
 
 
また、以下のような反論もあります。
反論2. 場所ごとの差が見られない
もし、被ばくの影響であれば、原発に近い地域ほど甲状腺がんの人数が多くて、原発から遠い地域ほど少ないはずで、実際には地域の差はほとんどないように見える、という反論です。
 
津田教授 下の図は、福島を3地域(低線量、中線量、高線量の地域)に分けて、100万人あたりの甲状腺がん人数を比べています。確かに、高線量の地域と中線量の地域の甲状腺がんの人数はほとんど差が無いという結果が出ています。しかし、検査時期に気を付けなければなりません。高線量地域は原発から近い地域なので、検査を早い時期に実施しているのです。高線量地域→中線量地域→低線量地域の順番で検査を行っています。先行調査だけでも3年かけて行われており、地域によっては約3年も時間差があります。がんが成長するまでには時間がかかるため、検査時期の早かった高線量地域と中線量地域で、甲状腺がん人数にほとんど差が認められなかったと考えられるのです。
 
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以上が、津田教授からの説明でした。会場からは様々な質問がありました。
統計学の専門的な用語を使いながらの説明だったので、質問のほとんどが、統計学の基礎や、津田教授が仮定したモデル、そして福島以外の甲状腺検査に関する結果の見方についてでした。
 
 
このような状況下で、私たちや社会は今後福島で甲状腺がんの多発が起こることを想定して、準備や対策を考えておくべきなのでしょうか。それとも、まだ何の準備もしなくてもよいのでしょうか。
 
 
 
●疫学者としての未来予測と対策への提案
 
津田教授 この図は1986年にチェルノブイリで起きた原発事故前後の、ベラルーシにおける14歳以下の甲状腺がん患者数の推移を表しています。横軸時間、縦軸症例数で、疫学の専門家の間では流行曲線と呼ばれるものです。これをみますと、事故の翌年から甲状腺がんの多発がおきていることがわかります。チェルノブイリでは事故後に1~3年目までは甲状腺検査が行われていなかったため、4年目に急増しているように見えますが、福島でも今後もう少しゆるやかなカーブに沿って甲状腺患者数が増加していくことになるでしょう。
 
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 今後、甲状腺がん患者がさらに増加することが予想されている今、社会としてどのような準備をすべきでしょうか?
 
津田教授 福島ではこれまで、事故時18歳以下の子どもしか調べていませんが、チェルノブイリの場合19歳以上の患者数の方が多いのです。ですから福島でも19歳以上の方の症例もきちんと把握する必要があります。また、放射性物質は福島県内だけにとどまったという証拠はないので、隣接する地域でも症例把握が必要です。さらに、甲状腺がんだけでなく、それ以外のがん、がん以外の放射線が影響する疾病(循環器系の疾患など)についても症例を把握する必要があると思います。
さらに、多数のそのような症例の発生に対応できる、医療施設と人材を確保しておくことも重要になってきます。
もう一つは、これからの追加で受ける被ばく量をできるだけ少なくする対策です。100ミリシーベルト以下ではがんは出ないという話を修正するとともに、できるだけ被ばくを抑える。簡単にできる被ばくを避ける対策に関する情報を与えることによって、被ばく量の低減を図り、発がんの確率を下げていくという対策が必要です。
これまで福島での甲状腺がん検診結果を、疫学の視点で読み解いてきました。有病率や発症率といった指標の定義など初めて聞く言葉がいくつもでてきましたが、実は疫学は食中毒や感染症などが流行したとき、社会がいつも使っている身近な手法なのです。
 
津田教授 感染症の場合の典型的な流行曲線をここに2本示してあります。ある病気が表れ始めてから、できるだけ早い時期に対応をしますと、それだけ被害を小さく抑えられます。私たちフィールド疫学者にとっては、このように大きな流行を抑えることができれば一つの功績になりますけれど、大きな問題を見せずに終わるのでだれも賞賛してくれない(笑)。
早く対策をとれば、被害を小さく抑えられ、経済的損失も抑えられます。当然、間違った判断ではなく正しい判断をしなければなりませんが、正しい判断なら判断は早いほうがいいのです。時間との競争になるわけです。今の段階から、どのような対策が必要か、みんなで知恵を出し合って考えるべきです。
 
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ここで、越智医師からは以下のようコメントをいただきました。
越智医師 健康被害が明らかになるまで待ってはいけないし、科学的な正しさばかりにこだわりすぎると良くないというのが私の意見です。科学的な証明にこだわりすぎていると返す刀で、科学的に証明できない、納得できないと主張する人もいるので、じゃあ動かない、という政府の対応を生んでしまう可能性があります。
将来的なリスクが、無視できない大きさの確率で発生することが予想される場合、社会として何かしらの対策を今から準備しておく必要があることは確かです。
  
医療現場で日々市民と向き合う越智先生はさらに訴えます。
 
越智医師 今現在、福島で起きていることの中には、甲状腺がん以上に対応を急がないといけないもっと大きな健康被害というのも起きているんです。
  
震災により、福島ではどんな健康被害が起こっていたのでしょうか。

この日語られたこと、考えたこと➁ ~震災によって起こった健康被害~

 

<1津田教授パート(リンクはこちら)

 1. 低線量被ばくによる発がんリスクは?
 2. 福島県民調査における甲状腺がんの検出

<2> 越智医師パート(この記事です)

 3. 震災による健康影響(福島の医療現場から)

<3全員で

4. ディスカッション「個人と社会は何をすべきか?」

  
  
3.震災によって起こった健康影響とは?
「私たちが議論しているのは、こういう地域です。原発から60kmくらい離れていて、普通に車が走っていて、スーパーでは野菜が売っていて、子ども達は普通に遊んでいます。明るく暮らしています。そういう風に普通に人が暮らしている町の話をしていることを知っていただきたいです。見たことも無い町だと、"数字"にとらわれてしまいがちですが、私たちが話をしているのは、普通に人が暮らしている場所だという認識をもって聴いていただけたらと思います」。このようなお話から、越智医師のトークは始まりました。
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越智医師は、福島で起こった健康被害は、放射線のよる被害よりもはるかに多くて緊急性の高いものだと言います。では、震災によってどんな健康影響が生じたのでしょうか。
 
●避難行動による健康被害
越智医師 病院にいる高齢者を避難させることで、多大な精神・身体ストレスがかかりました。避難指示が出たとき、対策本部では病院の避難先は決めてくれませんでした。病院のスタッフが個人のつてで移送先の病院を探し、バスを使って避難しました。水やマットレス、防寒具などが不十分な装備だったこと、移送後の急激な環境変化は患者への負担が大きく耐えられなかった例もあること、あるいは看護師不足で十分な申し送り(看護師間で行われる患者に関する情報のやりとり)ができなかったことで、相当な健康被害が出ました。
厚労省の報告書(国会事故調報告書)によれば、福島原発20㎞圏内の7病院には850名の患者が入院しており、20113月末までに60名死亡、そのうち少なくとも10名が移送中に死亡しました。
 
 
越智医師 また、病院だけではありません。長期療養施設にいる高齢者の場合、避難した施設の方が、避難しなかった施設と比較して、死亡率が増加したことが分かっています。下に示した図は、南相馬市の避難した長期療養施設と、相馬市の避難していない施設方々の生存曲線です。生存曲線は、0日から経過時間と共に、人が亡くなると生存率が低下し、線が下がっていきます。避難した施設の方が、生存曲線が大きく下がっています。放射線が恐くて避難したのに、結局死亡した人が多いということです。
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●長期避難生活による健康被害
越智医師 震災により失業した方は、もともと農業や漁業などの一次産業に従事していた方が多いです。仮設住宅に避難した高齢者は、仕事がなくなったこと、買い物にも車がないと移動できない環境、そして居住空間の狭さなどが原因で、運動不足になりました。
160704 niiyama_2_03.png(仮設住宅)
 
 
越智医師 下に示した図は、仮設住宅と隣接する住宅街(対照)で握力と片足立ちの持続時間を測定した結果です。興味深いことに、仮設住宅に住む人は、握力は対照よりも強いですが、片足立ちで15秒立っていられない人の割合が多く、脚力が大幅に低下していました。仮設住宅に住んでいる人の多くは、津波を逃れて来ており、もともと農作業や漁業に従事されていて筋力が強い人々です。そのため握力は強いのですが、運動不足によって衰えやすい下肢の筋力は、一年間の仮設住宅生活で急速に低下したと考えられます。
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越智医師 仮設住宅での生活は精神的ストレスも大きいです。相当精神的にまいっている人の例ですが、仮設住宅を検診に行ったときに「少しは運動した方がいいですよ」と言ったら、「外で運動したら、帰ってくるときにこの家を見なければいけないじゃないか」と言って外に出ず、寝たきりの母親と暮らしている人もいらっしゃいました。今まで一戸建てに住んでいたのに、仮設住宅を見れば、"自分が仮設住宅に住んでいるんだ"と実感してしまう、その現実が大きなストレスをもたらしたのです。
 
 
●被災地の医療崩壊
越智医師 目に見えにくい健康被害もあります。多くの医療従事者が福島から離れました。病院は医師以外に女性が多い職場で、看護師、薬剤師、介護士などは資格のいる仕事であるため、県外でも比較的勤め先が見つけやすい職業です。お子さんのいじめや被ばくを心配して避難した人、旦那さんの再就職に合わせて福島を離れる人もいます。避難を機に嫁姑が一緒に暮らさなくなり、楽だから戻らない人、いったん避難してしまったので、戻れば後ろ指を指されるのではないかと心配して福島に戻らない人もいます。その結果、震災直後に病院スタッフ数は半分以下にまで減少しました。徐々に回復してきていますが、現在でも震災前の85%です。様々な事情により、被災地の病院のスタッフ数が減少した状態が続いており、医療崩壊が起こっています。病院スタッフ一人あたりの患者数も改善されていない状況です。
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越智医師 原発事故によって起きた健康被害は、放射線被害よりもはるかに大きいです。放射線ばかりに議論が終始することにより、多くの健康被害が見過ごされていたり、風評被害が収まらなかったり、実効性のある防災・減災・復興政策が立てられないといった問題があります。
 
以上、越智医師からは、福島の現場で起こっている放射線被ばくによらない健康被害についてお話いただきました。十分な避難計画が策定されていなかったことによる混乱、長期避難生活者の環境改善、病院スタッフの減少による医療崩壊の問題など、早急に対策を打たなければなりません。しかし、患者や高齢者の面倒をみる看護師や介護士に強制的に留まるように命令することはできないといったジレンマがあります。この震災を教訓に、社会はどんな制度や仕組みが必要なのでしょうか。そして個人は何をするべきなのでしょうか。この難しい問いを考えるにあたり、重要な視点とは何なのでしょうか。
  
 
●「いま何をすべきか」を考えるための重要な視点
越智医師 様々な健康リスクが存在する福島に必要な対策を考えるときに必要なのは、リスクを相対化する視点です。がんのリスクは放射線だけではありません。喫煙、野菜不足、運動不足、お酒の飲み過ぎ、大気汚染、ストレスなどもがんのリスクです。これらのリスク比較した上で選ぶ、ということが重要です。
野菜を食べる、塩分を取り過ぎない、魚を食べる、運動をする、たばこを吸わない、などに気をつけた上で、放射線被ばくも低ければ低い方が良いということです。しかし、被ばく量を低くするために、外で遊ばなければ、逆にがんのリスクをあげてしまうかもしれないのです。
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越智医師 被ばくなど一つのリスクについて語ることはとても大事です。疫学調査で明らかになったことを話し合うことも重要です。しかし、被ばくのリスクがなければ、"ゼロリスク"だと考えてしまうことは誤りです。ゼロリスクは存在しない以上、私たちにできることは"リスクを選ぶこと"です。これを認識し、科学と向き合っていくことが大切です。
リスクの大きさを決めるのは科学者ですが、リスクを選ぶのは一人一人で、正解はありません。そして、個人としても、社会としても、身の回りのリスクを比べ、包括的にリスクを下げる、つまり減災する視点が大切です。
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越智医師 健康は、単に医療だけが担っているわけではありません。健康には経済や、上下水道、労働環境など様々な要因が関わっています。福島は放射性物質による環境汚染というだけでなく、健康に被害を与える様々な要因をもっています。例えば、避難、風評被害や原発停止による経済影響、一連の出来事があって雇用されなくなったことや、食生活が変わったことなども仲介因子になって大きな健康被害をもたらしているのです。
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越智医師 私たちがいまやる必要があるのは、健康被害を俯瞰し、コストや、誰が健康被害を受けやすいのかを判断した上で、優先順位付けをすることです。一番重要なことが分かって初めて効果的な対策が打てるのです。
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●大事なのは「暮らし」の視点にたち、住民が健康になること。
越智医師 今必要な視点は、科学も、減災も、防災も、目標として建物が建つことでは無く、自分の理論が正しいことを証明することでもなく、人が健康になることです。そのためには、先ほど説明した、避難行動、長期避難生活、医療崩壊による健康被害を繰り返してはならないと思います。
 
越智医師 また、科学への過信は改める必要あります。正しい知識を得たからといって、住民の不安が解消されるわけではありません。大切なのは、「暮らす」という視点を持ち続けることだと思います。科学というのはそこで暮らす人が健康になるために科学を使うのであって、自分の科学を証明するために住民の方を説得してはならないと思います。パスカルの言葉に「二つの行き過ぎ。理性を排除すること、理性しか認めないこと」というのがあります。私はこの"理性"という言葉を"科学"を当てはめてもいいと思います。つまり、科学を排除してもだめ、科学しか認めないのもだめです。これから疫学調査は続けていく必要があると思いますが、科学しか認めずに議論をすることで人を傷つけるかもしれないということを忘れてはいけないと思います。
 
 
以上、第二部では越智医師から、福島で実際に起こった健康被害と、どのような視点をもってこれからの対策を考えたらよいのか、お話いただきました。
原発事故による被ばくの影響やその科学的根拠に注目し、議論を進めることは大事です。ただし、そこに住む人の暮らしをリアルに想像し、"人が健康で暮らすため"を大前提として、科学を有効に使い、議論をすることが大事なのではないかと改めて認識しました。
 
震災から5年が経過し、福島で起こった健康被害や今でも続く問題が明らかになってきました。
震災後の医療崩壊を防ぐ仕組み作りや高齢者の避難行動の策定などは早急に対応すべきですが、避難区域に残る人をどうやって決めるのかなど、様々なジレンマがある状況です。
そして、被ばくの影響により甲状腺がんが異常に多発しているのかどうかは専門家の間で意見が割れているという状況です。
このような状況下で、私たちがそれぞれの場所で健康に暮らすためには、個人として社会として何ができるのでしょうか、何をすべきなのでしょうか。自分が住んでいる地域や、おかれた状況で、必要な準備はそれぞれで異なると思います。


この日語られたこと、考えたこと③ ~白熱したディスカッション~


<1津田教授パート(リンクはこちら)
 1. 低線量被ばくによる発がんリスクは?
 2. 福島県民調査における甲状腺がんの検出
<2越智医師パート(リンクはこちら)
 3. 震災による健康影響(福島の医療現場から)
<3全員で
4. ディスカッション「個人と社会は何をすべきか?」

 
 
4. ディスカッション 「現状を踏まえ、個人と社会は何をすべきか?」
参加者からは様々な意見とアイデアが出てきました。それに対して津田教授と越智医師がコメントする形で議論を行いましたので、いくつか紹介いたします。
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➀甲状腺検査の意義を知り、検査を継続すること
参加者 チェルノブイリの事故では、20歳以上で甲状腺がんが増えています。震災当時15歳だった子どもは、今年20歳になっているため、就職、大学進学で福島にはいないケースが多いです。しかし、20歳の人が自分で甲状腺がん検査を積極的に受けることはたぶん簡単なことではないですよね。その対策を優先すべきことではないでしょうか。
越智医師 子ども達が甲状腺検査の重要性を分かっていないため、学校にお知らせがきたときに、面倒くさいからと言って、お母さんに書類を渡さない子も出てきているらしいです。「甲状腺がんになっているかもしれないから...」などと恐怖を駆り立てる必要はありませんが、子ども自身に甲状腺検査の意味をしっかり考えさせて、自分の身を守るために健康に気を遣う教育を行いながら、検診を続けることが大事だと思います。

➁被ばくの影響を調査し、ルールを詳細に決めること
参加者 避難計画もできていない、つまり社会的な準備ができていないのに、事故が起こらないということで、原発は稼働していました。
津田教授 食品も発がんリスクの一つですが、食品衛生法によってリスクを調査したり避けるためのノウハウがかなり詳細に決められています。食品関係で事故や事件が起きたときには、因果関係を調べる方法や手順も決まっています。それに比べると、原子力関係の法律や事故が起きた場合の対応する仕組みは中身が足りていません。原子力発電所を稼働させるのであれば、症状が食品原因であること明らかにすることを定めた食品衛生法と同様に、被ばくの影響を調査し、きちんとデータを集めるためのルールを、今後、法の下に詳細に決めて調査を義務付けることが必要だと思います。

③甲状腺がんに対して、今やるべき対応
越智医師 甲状腺がんが増えているとして、今やるべき対応としてはどういうものを考えていますか?
■外部被ばくをリーズナブルに避ける
津田教授 福島県内で「100mSv以下ではがんは出ない、出たとしても分からない」という考え方は誤っているので、まずは改める必要があります。これは、福島県の報告書に書かれているため、早急に撤回するか、ゆるやかにでも言い方を改めていくべきです。科学的根拠にも反し既存の法規制とも矛盾する明らかな誤りを放置して行政が住民の信頼を得られないとしたら、行政としての機能を果たせません。行政の目的は住民の健康被害と経済的損失を最小限に抑えることであるため、信頼回復のためにもこのような極端な言い方を改める必要があります。
 その上で、空間線量が比較的高い場所の近くに住み続けられる方々は、第一次予防として空間線量が高いところはできるだけ短い時間しかいないようにとか、できるだけ避けるようにするということです。つまり、国際放射線防護委員会ICRPALARAAs low as reasonably achievable)の原則*に従うことが必要です。放射線防護にすべてを捧げる必要はないが、トータルでの被ばく量を下げることはできます。特に子供は放射線感受性が高いことが知られています。そのためには、自宅や遊び場所、通学路など、どの場所の線量が高いかの情報を共有する必要があります。今出てきている甲状腺がんは、初期の放射性ヨウ素による内部被ばくがそれなりの割合を占めていると思っています。ただ、2011年内でおいてさえ、WHOは外部被ばくも甲状腺へある程度の影響があるとしているため、これからやるべきなのは、主に外部被ばく対策です。外部被ばく対策と言っても、避難するか避難しないのかの決断の問題ではありません。比較的高い線量の地域に住む方々もALARAの原則と正確な知識を得ることによって、自分の生活範囲でどこの線量が高くて、どこの線量が低いのかを把握し、低いところを選ぶことは重要なことです。放射性物質を扱う職場では、全国どこでもやっていることです。
ALARAAs low as reasonably achievable)の原則:放射線防護の原則。経済的かつ社会的に見て合理的に達成できる範囲で可能な限り低く、被ばく量を抑えること。
越智医師 この"合理的"には個人差があります。たとえば「行く、行かない」では、行くことにメリットがなければ行かない方がいい、それは確かです。線量の比較的高い地域に住んでいる人の場合は、そこから避難することとその場所の線量で住み続けることの、どっちが自分の人生にとってリスクかということを選んで初めてリーズナブル(合理的)になります。この"リーズナブルの感覚"というのが、子どもによっても大人によっても違いますし、津田先生と私でも違って、どうしてもこれが議論のタネになるところだと思います。

■自己検診の普及
津田教授 第二次予防としては、早期発見早期治療です。医療機関による検診だけではなく、自分で甲状腺にしこりがあるかどうか検診できる"自己検診の方法"を普及させることが一つの方法かと思います。
 
そのほか、予防というよりは患者さんのQOL(生活の質)の話ですが、津田先生からは、手術補助ロボット「ダヴィンチ」の保険適用の話題も出ました。甲状腺がんの手術をすると、首に傷が残ってしまうのですが、ダヴィンチを使えば傷が残らないことが期待されています。
 
 
 
その他、ディスカッションでは、越智先生への講演内容に対して、「社会や政治家の責任がうやむやな状態で、社会的な介入(対策)をすることなく、個人にリスクの選択をゆだねるのは、どうなのか」、という意見が多数あがりました。これに対して、越智医師は、「社会は何かしなければいけない。ただ社会が押しつけてはいけない。福島に住んではいけないという人もいるけれども、やはりお子さんと一緒に福島に住むしかないという人もいる。例えば、平均的に線量の低い場所に集団で移住できるように社会がサポートしたとしても、人によって、移住による生活環境の変化によって心身に大きく影響するため、移住に慎重にならざるを得ない場合もある。そのときには、個人の防護の仕方を教育する方が大事ではないかと思う。」とお答えくださいました。
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国がそして社会が、原発事故が起きてしまった場合の対策が不十分であったことは確かです。それに対する被災者の怒りや憤りに真摯に耳を傾け、受けとめる必要がありますし、そのような感情に配慮した対策を講じることも必要です。

では、事故が起きた場合を想定して準備しておく対策とは何なのでしょうか。その大きなヒントをくださったのは越智医師でした。

未来館が本トークイベントに越智医師を呼んだ大きな理由の一つは、越智医師は「事故の予防だけではなく、事故が起きたとしても健康リスクが上がらないようにする対策をそこに住む人が健康になれる対策・方法を被災者でない人も含めて考えよう。さらに、震災により起こった健康被害を全体的に把握し、調査により原因をきちんと突き止めて、優先順位をつけて対策を講じる必要がある。」と訴えていた点です。その考えに未来館は共感しました。

「そこに住んでいる人が健康になるために、幸せになるために、個人として、社会として何ができるのでしょうか、何をすべきでしょうか」。これを、津田教授、越智医師、参加者全員でディスカッションすることが本イベントの目的でした。
参加者からのご意見は全く途切れることなく上がり、予定を大幅に延長しても、ごく一部しか直接お聞きすることができませんでした。お聞きすることのできなかった声を集めるために、参加者の皆様にはワークシートにたくさんのアイデアを記入していただきました。


この日語られたこと、考えたこと④ ~個人と社会は何をすべき?参加者の意見~


今回のイベントでは、参加者に以下のようなワークシートをお配りし、「今後、福島で甲状腺がんが多発する可能性が考えられる。他の健康リスクも高い。この状況に対して今、私達は何ができるのか?何をするべきなのか?」に対して、個人でできる/すべきこと、そして、社会でできる/すべきこと、を記入していただきました。
 
いただいた意見やアイデアを内容ごとに分類して紹介します。トークイベントの内容はこちらのブログ()をご参照ください。
 
 
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■適切な判断のために個人として必要なこと

個人としてできること・すべきこととしてまず挙げられたのが「放射線や統計に関する基礎的な科学的知識を身につける」ことでした。
<記入いただいた意見>
●自分自身が科学的な議論にしっかりついていけるよう、リテラシーを高める。(20代)
●放射能、放射線、健康影響について書籍や論文やインターネットでいろいろ調べて知り、議論し考える。放射線が健康影響を与えること自体は確かなので、自分も周りの人も被ばくを極力少なくするよう努力する。(50代)
●まずは正しい知識を得る。(20代)
●放射線は難しいと避けずに、自分も理解する努力をする(40代)
●そもそも、甲状腺がんはどんながんでどこまで危険なのかを知る(危険じゃない?!)。(30代)
●放射線に対して、不必要に怖れない。(20代)
●正しく怖れることがいかに難しいことかを知る。(60代)
●自分が何を知らないのかを知る。知らなきゃ何も始まらない。(30代)
 
また、「情報を多方面から集め、その信頼度を見極めて自らが判断する」とする意見もいくつか出されました。おもに新聞やテレビ報道、インターネット、ツイッターなどのメディアから情報収集する方が多いと思いますが、中にはデマや偏った情報である可能性もあります。情報をすぐに鵜呑みにせずに、自分で判断する習慣をもつことが大切だというものです。
<記入いただいた意見抜粋>
●多方面からの情報を収集し、すぐに危険だ、安全だと判断せず、冷静に対応すべき、できるようにする。(10代)
●信頼できる情報を収集し、整理する。(20代)
●さまざまな意見を聞き、自分ができることをする。(40代)
●偏った情報だけで判断しない。(50代)
●マスメディアや無根拠説にだまされず、事実と論理から判断する習慣をつける。(50代)
●適切に判断するために必要な情報を収集し、理解する必要がある。(50代)
●放射線についてどの程度で危険なレベルなのかと冷静に判断する。(50代)
●問題について理解し、関心を持つ。(20代)
●過小評価と過大評価を避ける。(20代)
●事実を並べてみて、思い込みや先入観によって、事実からかけ離れた認識をしていないか冷静になる。(20代)
●常に疑問を持ち続ける。(60代)
●他人の意見をむげに否定せずに建設的な議論をする。専門家に対して、冷静に接すること(健全な懐疑は必要)(40代)。
●今起きていることを記録・分析して将来に役立てられるようにする。我々は同じ過ちをやってしまうかもしれないからです。(40代)
●正しい判断によって行動はすばやく。早く対策をとれば、被害は少なく抑えられ、経済損失も抑えられる。(60代)
 
 
さらに、必要な情報を収集して「ゼロリスクを求めるのではなく、自分でリスクを選択するという姿勢を持つこと」が重要だと感じた方もおられました。私たちはどこにいても、運動不足や野菜不足などの生活習慣による病気のリスクや、大気汚染など環境による病気のリスクなど、健康を脅かすさまざまなリスクに囲まれて生活をしています。あるリスクを抑えるための対策が、別のリスクを増やしてしまう状況下では、リスクを選択する必要があるとした、越智医師のトーク内容に共感した意見が挙げられました。
<記入いただいた意見抜粋>
●リスクを自分でも考えて選択する。科学というものを参考にした上で、これからの行動を決めたい。(10代)
QOLを考えて選ぶ。←がんリスク=放射性物質と思いすぎない。健康にもゼロリスクを求めない(20代)
●放射線のリスクはどうする?できるだけ避けるのが良いが、正しい情報を自分にあてはめてストライクゾーンを自分で決める。自分とは大人も子どもも。(40代)
●絶対安全を求めない。(20代)
●選ぶことを明言しよう。(20代)
●情報提供を受けた上で、被ばく回避行動をどこまでとるのか"選択"(禁煙リスクとは異なり、被ばくは個人が責任なく、選択の余地無くさらされたリスクである)(30代)
●余計な心配をしない(60代)
 
そして、「不安な気持ちを自分でコントロールするための心がけも必要ではないか」とする意見が挙げられました。
<記入いただいた意見抜粋>
●自分の心配や不安を書き並べてみて、それがリアリティのある不安なのか見直してみる。(20代)
●がんリスクは気をつけて避ければ良いが、精神的なものはどうするか?日頃から外とのコミュニケーションを心がけてとじこまらない。(40代)
●かわいそうと思いすぎない。前向きに考える。(20代)
 
 発がんリスクを低減するために「できる限り被ばく量を低く抑える(ALARAの原則)とともに、他の発がんリスク要因を減らす努力をする」という具体的な意見が出されました。
<記入いただいた意見抜粋>
●線量の高い場所に近づかない。(10代)
●被ばくを可能な限り避ける。(60代)
●キノコや牛乳等の食品に気をつける。(10代)
●甲状腺がんに関しては正直、ヨウ素初期被ばくのダメージは取り戻しようがないので、代謝を落とさないようにするしかないとあきらめています。(40代)
 

■適切な判断のために社会として必要なこと

 個人の適切な判断のために、社会がどのように機能しなければならないのか、また社会の意思決定には何が必要かという視点からの意見も数多く寄せられました。
そのうちのひとつは、個人として必要なこととして挙げられていた、適切な情報を集めることに対応する、「社会として適切な情報提供が行われることが大切」というものでした。
<記入いただいた意見抜粋>
●各選択肢のリスクをすばやく提示(見やすくする)(10代)
●きちんとした情報提供を行う。(10代)
●福島県民の方々へのきめ細やかな情報提供と最大限のサポート。(20代)
●適切な情報提供(科学者が「安全だ」と一方的にアナウンスすることはリスク、コミュニケーションではない)(30代)
●正しい情報は数字で見られるが、うのみにしないようにわかりやすくリスクも説明してほしい。(30代)
●問題の周知。(20代)
●科学を正確に、かつ分かりやすく説明していく。(40代)
  
また「リスクがあることを前提として、予防原則に則った制度をつくること。そして、それらの基本的な考え方を、人々に認識してもらうことが大切である。」という意見が出されました。
<記入いただいた意見>
●教育をしよう!!子どもに、大人にも、政治家、メディア...自分で選ぶことの大切さ、政治・国ばかりに頼りすぎたら×!!(20代)
●予防的(疫学的)な考え方にのっとった政策を進める。(40代)
●災害のリスクは多種多様。後出しの対策は絶対に間に合わない。(30代)
●放射線に対しても、絶対安全を求めすぎない。規制もすべきでは?「不安→すぐ規制」をやめる(事故後すぐは仕方ないけど)。(20代)
●きちんとリスクを認識できる立場から、意思決定を行う。(20代)
●科学的な考え方を否定もせず、全面依存(盲信)もしないで政策を進める。⇒予防原則を政策に埋め込む。(科学的因果関係が不確実でも疫学的措置をとる)(40代)
●ゼロリスクは無理としても、できる限りましな社会を作ることをあきらめない。(40代)
 
さらに、「被災者や当事者の声に配慮した政策をとることが大事である。」との指摘もなされました。
<記入いただいた意見抜粋>
●「人権」の観点からいわれなき被ばく、生業の損失、共同体の破壊に対する、福島県の人々の怒りを聞く姿勢。(いわれない被害であるなら、どれほど低線量被ばくであっても抗議する権利がある。その権利をうやむやにしたまま自己責任論、自由論を唱えない。押しつけない)(40代)
●福島の人と話をし、現状と地元の人の気持ちを(理解というとおこがましいが)知ること。少しながら実行しているが、それから得た思いを伝える。(60代)
●現地にいる人に対する想像力をはたらかせること。(40代)
●福島への理解を意識高く。地域への活性化の試作を、勇気を持って行うことが大事だと思う。(50代)
●行政の対策もすばやく!しかしインフラばかりにお金をかけてほしくない。人間の感情に配慮した対策を。(60代)
  

■甲状腺がんの多発の可能性に対する社会としての対応

将来の甲状腺がん多発の可能性に対しては、具体的に次の3点が挙げられました。
「甲状腺がんの基礎知識の普及」
<記入いただいた意見抜粋>
●そもそも、甲状腺がんはどんながんでどこまで危険なのかを知る(危険じゃない?!)。は社会にも知られるべき。甲状腺がんって何?放射能/放射線って何が違うの?根本的な疑問解決されない。(30代)●甲状腺がんは予後の良いがんであるため、大きな抜本的な対策は必要ないと思われる。ただ最悪を期した対応はとるべきでそれを冷静に行う。(10代)
 
「検診の継続および受診率低下を防ぐこと」
<記入いただいた意見抜粋>
●甲状腺がんの検査の定期的な継続。(10代)
●とにかく県民調査、甲状腺がん検査の受診率、特に10代後半で被ばくして20代を越えてくる一番受診率が低く、発症率が高くなる世代の受診率向上が真っ先に優先してやるべき。(50代)
●甲状腺がん検査などに、個人が関心を持つよう啓発。(60代)
 
「被ばくと甲状腺がんの因果関係について、科学的な調査を継続すること」
<記入いただいた意見抜粋>
●甲状腺がんの追跡調査をきちんとして、疫学的なものを明らかにすることを支援する。(20代)
●福島の事故と甲状腺がんの発症率との因果関係と数字を明確にする(50代)
●甲状腺がんの福島の現状の流布。(20代)
  

■甲状腺がんにとどまらない市民の健康状態に対する社会としての対応

参加者との議論は、甲状腺がんだけでなく、福島県民の直面する健康リスク全般についても及びました。そして、「震災によって生じた健康影響を全体的に把握し、社会の健康リスクを下げるための対策および健康管理が必要」との意見が挙がりました。
<記入いただいた意見抜粋>
●被災地域で住民の健康状況が悪化していることをしっかり認識し、国として福島オリジナルの健康促進対策を講じるべき。(20代)
●予防策はとりながらも、「起きたこと」一つに着目するのでは無く、全体として対応策、影響を緩和することに金をかけるようにしたい。(20代)
●福島は関連死が多い。社会としてはがんに対する施策よりも自殺を含めた孤独死や関連死に手当をする必要がある。行政はもう少し俯瞰した政策をするべき。(60代)
●今後起こる固形がんの増加に対して、被爆者手帳の交付等で健康管理する必要がある。(60代)
●コミュニティやくらしを立て直す努力をしていきたい。(60代)
   

■福島の復興に向けての政策について社会がすべきこと

さらに、県民の健康問題だけにとどまらず「もとのコミュニティを維持しつつも、県外避難を個人が選択できるような仕組みを作るべき。そのための議論が必要。」との意見も挙がりました。
<記入いただいた意見抜粋>
●被ばくが増える帰還策をやめて、ふるさと住民票のような災害にも使える新しい政策を全国的に実行する。(50代)
●避難を選択することができるように今からでも避難できように住宅の提供をしたり、避難住宅の延長などを行う。(10代)
●その"個人の選択"に対して、どの範囲にどのような支援を講じるのか議論する(強制避難のように国家がどこまで強制介入するのかの問題ではない)
●避難・滞在・帰還"のいずれを選択しても社会として支援すべき範囲はどこまでだろうか
●今回の支援不足を踏まえた避難計画の策定し、追跡調査体制を作る(30代)
●(社会として、「「共同体の生活様式全体をもって共同体ごと移転する」という理想を立て、どれだけそこに近づけられるかという観点から政策を立てる。」)その実行に必要な)税負担(40代)
  

■福島の教訓を世界に発信

自然災害ときっかけとした巨大な事故から私たちは何を学び、何を後世に残すのか、といった視点から、「知見や教訓を国際的に共有して、地球全体の減災に取り組む」必要があるとの意見が挙げられました。
<記入いただいた意見抜粋>
●越智先生のおっしゃる経験を教訓に原子力事故だけではなく、起こりうる災害に対する計画と対策を、国をあげて考え、実行すべき。これらの検討についても国際的に情報共有し、地球社会として減災に取り組むことは日本の役割なのではないか?(60代)
 
 以上、参加者から寄せられた意見を整理して紹介しましたが、実は最初に設定した設問の枠に収まらないその他の意見も、多数ご記入いただきました。震災と原発事故に関して、実に多様な文脈が存在していることを改めて教えていただく機会となりました。 
さて読者の皆さんは、いかがだったでしょうか。参加者のアイデアを読んで、共感すること、共感しないことは人それぞれだと思います。でも今までの自分にはなかった考えや、少しでも自分の考えや心がけが変わるようなアイデアに出会えたのではないでしょうか。
個人としてできることとして、すぐに実行可能なこともありますし、正しい情報を提供できる場所を作るなど、社会として仕組みづくりが必要であることもあります。
何が個人には足りないのか、社会には足りないのかを洗い出し、どうすれば足りないものを補えるのかをアイデアを出しながら考える──この議論を様々な立場の人(今回は研究者、医師、一般の方)と行うことで、これまで見えなかったことが見えてきたり、社会が変わったりするきっかけになると思うのです。
今回は、ファシリテーターのリードが不十分だったので、参加者のさまざまなアイデアをイベント内で引き出し、議論することができませんでした。しかし、アンケートの結果から参加者の7割は"新たな発見・気づきがあった"と回答し、参加者の5割は"考え方やものの見方に何か変化があった"との回答が得られました。程度に差はあっても参加者の中で"変化"が起こっているのを感じることができました。 
この気づきや意識の変化をさらに多くの人々と共有して、問題解決に向けた対話の場をさまざまに創出していきたいと思っています。
この日語られたこと、考えたこと➀ 低線量被ばくの発がんリスクと福島の甲状腺検査の結果の解釈
➁ 震災によって起こった健康被害
③白熱したディスカッション個人と社会は何をすべき?参加者の意見(この記事です)